トラックドライバーの労働時間を短縮しつつも輸送量を維持するためには、物流の効率化が不可避である。物流効率化に伴い、先進的物流施設が果たす役割は拡大すると考えられる。
※ 本レポートは2023年5月に発表されたものです。
1.はじめに
本レポートでは、いわゆる「2024年問題」を背景とした物流の効率化ニーズと、それに伴う先進的物流施設の潜在的な需要について考察する。
「2024年問題」とは、トラックドライバーの時間外労働に関する規制が2024年4月から厳格化されることで物流業界が直面する様々な問題を指す。具体的には、2018年に施行された「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(働き方関連法)」における労働基準法の改正に基づき、2024年4月1日からトラックドライバーの時間外労働が年間960時間(月平均80時間)に制限される。また、2022年12月に改正された「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」を受けて、2024年4月からはトラックドライバーの年間の拘束時間が原則3,300時間以内、連続運転時間が4時間以内となる。
「2024年問題」で懸念されているのは、トラックドライバーの労働時間の制限が厳格化されることで、国内のトラック輸送能力が大幅に低下し、企業活動および消費者の生活に影響が出ることである。2022年9月に経済産業省、国土交通省、農林水産省が発足させた「持続可能な物流の実現に向けた検討会」の中間報告では、何らかの対策が講じられなければ、トラック輸送需要に対して輸送能力が4.0億トン(14.2%)不足し、2030年には不足が9.4億トン(34.1%)に拡大すると試算されている。
トラックドライバーの労働時間を短縮しつつも輸送量を維持するためには、物流の効率化が不可避であることは言うまでもない。大手物流会社を中心に、すでに対策を講じている企業もあるが、まだ実施していない、あるいは取り組みが途上であるケースも多いと認識される。2024年4月に向けて、そしてそれ以降も、物流に関わる企業の取り組みは深化するだろう。それに伴い、先進的物流施設が果たす役割は拡大すると考えられる。
2024年問題」の背景と現状認識
1. トラックドライバー不足の実態と課題
日本国内の物流の自動車輸送への依存度は極めて高い。国内貨物輸送量の輸送手段別の内訳(Figure 1)をみると、国内の貨物輸送の約9割を自動車輸送が担っている実態が確認できる。なお、残り1割のほとんどが海運輸送となっており、鉄道輸送と航空輸送の占める割合は極めて小さい。
しかし、自動車輸送の担い手であるトラックドライバーの不足が長らく続いている。厚生労働省の「労働力経済調査」によると、「運輸業、郵便業」の労働者の過不足状況を示すDI(DiffusionIndex、不足-過剰)は継続して全産業を上回って推移している(Figure2)。全産業の労働力過不足DIもここ数年はプラスであることから、労働力不足は日本の産業全体にかかる問題だと認識されるが、運輸業の人手不足は特に深刻である。
トラックドライバーが不足している原因として挙げられてきたのが、ドライバーの拘束時間が長いことである。総務省の「労働力調査」では、「道路貨物輸送業」の月平均就業時間は全産業の平均よりも2割多く、「輸送・機械運転従事者」に限ると、全産業比で約4割多い。つまり、ドライバーの時間外労働にかかる規制強化は、「働き方改革」によってトラックドライバーによる長時間労働を是正し、担い手を増やそうという取り組みの一環である。
ドライバーの拘束時間が長い理由の一つが、荷物の届け先での荷待ち時間が長いことや荷役業務の負担であると言われている。また、自動車貨物輸送が非効率であることも原因となっている。国土交通省の「自動車輸送統計調査」によれば、貨物輸送の営業用自動車の積載率(輸送トンキロ÷能力トンキロ)は1990年ごろの6割程度と比較して、ここ数年は4割程度で推移している(Figure 3)。荷主企業の多様なニーズへの対応やECの普及による荷物の小口化が、積載率低下の背景にあると言われている。なお、パンデミック前までは低下傾向が続いていた積載率が、直近2年間はわずかながら上向いているのは、テクノロジーの活用や協業などで効率化が少なからず進んでいることを示唆していると思われる。ただし、改善の余地はまだ残されており、非効率の是正がドライバーの労働時間の短縮に効果的であることに変わりない。
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- はじめに
- 「2024年問題」の背景と現状認識
1.トラックドライバー不足の実態と課題
2.政府の取り組み
3.企業の取り組み - 物流効率化と先進的物流施設需要
1.長距離輸送と中間地点での物流施設需要
2.輸送効率化による保管需要の増加
3.物流施設の効率化と先進的物流施設需要 - まとめ
作成:2023年5月