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(仮称)篠栗北地区産業団地開発計画 | インダストリアルウォッチ

ケーススタディ

2022年6月7日

Interview

人口減少や超高齢化社会を背景に、地方創生というキーワードが叫ばれるようになって久しい。しかしその主体となる全国の自治体のなかには、潤沢ではない財政やノウハウ不足といった課題に加え、町の未来を左右する取り組みとして二の足を踏んでいるケースもあるという。そんななか、福岡県の篠栗町は、パブリック・プライベート・パートナー(PPP)の手法を取り、民間企業とタッグを組んでアクションを起こした。それが、「(仮称)篠栗北地区産業団地」の開発だ。小さな町でありながらも、福岡市近くのベッドタウンとしてニーズがある篠栗町。この町が抱えていた課題や開発のきっかけ、今後の展望について、三浦正篠栗町長に訊いた。

 

民間とパートナーシップを組み、
観光型食品産業団地を開発。
小さな町の未来を切り拓くまちづくり

福岡県・篠栗町長
三浦 正

福岡県・篠栗町長 三浦 正氏

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17haの用地売却を提案され、町として開発していくことに

計画地

計画地東側上空より(写真提供:篠栗町)

 

広域地図
篠栗町の概要

福岡市から東に約12kmの山あいに広がり、町の約7割を山林が占める篠栗町。身近に自然があふれ、NPO法人森林セラピーソサエティが定める森林セラピー基地にも認定される一方、九州最大の都市である福岡市まで、車で約20分、JR篠栗線なら博多駅まで約15分。居住コストもリーズナブルであることから、福岡市近郊のベッドタウンとして、子育て世代を中心に約3.1万人が暮らしている。この町を舞台に、将来へ向けた地方創生の起爆剤として、現在、食品メーカー6社の誘致が決定し、開発の真っ只中にあるのが、「(仮称)篠栗北地区産業団地」だ。

ことのはじまりは2015年。国立大学の法人化に向け、不要な用地の売却を検討していた九州大学が、農学部附属演習林のうち、篠栗町にある約17haの山林を手放すことを計画。大学側からの打診により、この敷地を篠栗町が買い取り、食品産業団地として開発することが決定した。開発にあたっては、民間の事業パートナーを公募・選定するPPPの手法を取り、同年10月、鹿島建設を代表企業とするグループを選出。2018年4月、造成工事に着手し、2020年夏より誘致企業への引き渡しを始め、現在、3社が工場建設に着手している。(2022年6月)

この篠栗北地区産業団地の開発において、篠栗町の20年、30年先の未来を見据え、船頭としてプロジェクトを牽引してきたのが、元銀行マンで、現在5期目を務める三浦正町長だ。

「篠栗町には大きな産業がなく、地方交付税や補助金を頼りにしてきた自治体です。町内に働き先は少なく、町民の多くが福岡市まで勤めに出ています。国による三位一体の改革で地方交付税が先細りになり、人口も減っていくなか、雇用の創出など、町の将来に向けて何かしなくてはならないという思いがずっとありました。そう考えているときに舞い込んできたのが、九州大学による用地売却の話であり、篠栗町としてこの土地を購入し、開発していくことを決めました」。

単なる産業団地ではなく、付加価値の見込める開発を模索

周辺地図

九州大学から購入する土地をどうしていくべきか。町の議会に諮ると、「山ごと企業に売却する」「福岡県につなぎ、判断を仰ぐ」など、さまざまな意見が出た。篠栗町は、九州自動車道や福岡都市高速などのインターチェンジが近くに位置し、都市部である福岡市内は工業系用地が不足しているため、工場や物流倉庫などとして土地の買い手はすぐにでもつく。しかし三浦町長は、あくまで町として開発していくことにこだわったという。

「企業に丸ごと売却するとしても、それ以前の基盤整備で町は数十億のコストを負担することになります。それならば、かねてより求められていた道路や防災対策施設の整備など、公共事業としての開発も含めた篠栗町の将来につながる取り組みにしたいと考えました。ただしその場合も、年間百億円規模の予算で運営している自治体です。小さな町ですから数十億円規模の開発となると、誰も経験したことがありません。プロジェクトを成功させるには、それを専門とする開発コンサルタントや設計会社など、民間企業との協働が不可欠であり、PPPを実施する運びとなりました」。

町のポテンシャルを活かし、多くの人を呼び込む篠栗町へ

周辺地図

PPPにより、鹿島グループを事業パートナーとして選び、博多はもちろん、福岡空港も近いことから、単なる産業団地ではなく、さらなる付加価値が見込める観光型の食品産業団地として開発していくことが決定。将来の雇用創出のみならず、国内外から多くの観光客を呼びよせ、人々の交流が生まれる場所にしていくことをめざした。

「食品産業団地となる場所は、交通アクセスが便利であることに加え、町のシンボルである若杉山と米ノ山が眺められるなど、最高のロケーションとなっています。また、町には篠栗四国霊場もあり、そこを訪れるお遍路さんもいらっしゃるなど、10軒以上の旅館があります。そのような町のポテンシャルを活かしながら、先進の食品産業団地をつくりあげることで、もっと多くの人に注目される篠栗町にできるのではないかと考えました」。

事業パートナーである鹿島グループが、施設計画の段階から進出企業をサポートするという体制を整え、企業を誘致する際にはCBREもプロジェクトに参画。広く情報発信をしたところ、大阪や名古屋、北海道など、全国各地の企業から問い合わせがあり、時には三浦町長自身がそれぞれの企業へ説明に向かうケースもあった。

「当初は誘致の広告を出すだけで、全6区画の企業がすぐに決まると思っていました。しかし実際にはそんなに甘いものではなかったです。各地の企業へ挨拶に回ったり、断らなければならないケースもあったりと、私も営業部長のように駆け回り、最終的には福岡県に所縁のある会社を中心に6社が進出してくれることになりました」。

小さな町でも実現できる地方創生の先行事例になりたい

周辺地図

進出企業は、辛子明太子製造の「やまやコミュニケーションズ」、コーヒー焙煎卸売・小売の「極東ファディ」、食品製造・介護事業の「ケアユー」、茅乃舎ブランドで全国的に有名な総合食品メーカー「久原本家グループ」、ラーメンスープ製造の「松原食品」。中でも篠栗町のふるさと納税で1番の利用先であるやまやコミュニケーションズは、本産業団地への本社移転を決定。極東ファディも、篠栗ブレンドと銘打ったコーヒーを開発し、福岡市内の百貨店などで販売を始めるという。また、篠栗町の観光協会も敷地の一部を借り、ブースを出展するほか、観光客を乗せた大型バスが発着できる駐車スペースも確保される。全6社が揃い踏みし、観光型食品産業団地として本格始動するのは数年先だが、企業が集まることで生まれる相乗効果や町の活性化、知名度アップなど、その計り知れない可能性に期待が膨らむ。

「本産業団地開発計画は2015年に始まった事業で、7年の間には紆余曲折もあり、ようやくここまでたどり着いたという思いです。また、篠栗町は昨年9月、2050年までに町内の二酸化炭素の排出量実質ゼロをめざす、ゼロカーボン・シティの表明をしました。今後は太陽光発電などによって再生可能エネルギーを生み出し、その供給先として進出企業にもご協力をお願いしていく所存です。雇用や観光を盛り上げる食品産業団地の誕生をきっかけに、未来を見据えた先進の町へと生まれ変わっていくことに、いまからワクワクしています」。

本産業団地開発計画は、PPPの手法を取り、民間の事業パートナーがいたからこそ実現できたと、三浦町長は振り返る。今後は二酸化炭素の排出量実質ゼロの先進地となるため、公共施設に太陽光発電を設置したり、豊富な森林資源を利用したバイオマス発電所を建設したりすることも検討中だ。その際は民間企業から出資を募り、SPC(特別目的会社)を立ち上げることも考えたいという。

「未来に向けたしくみづくりにおいて、小さな自治体では財政面やプロジェクトの進行のノウハウなど、難しい面が多々あるかと思います。だからといって民間まかせにしたところで、町の理想とはかけ離れたものになってしまう可能性もあります。篠栗北地区産業団地や今後立ち上げていくSPCなど、同じような課題を持つ全国の自治体の皆さんのよき先行事例になれるよう、今後も篠栗町のまちづくりに取り組んでいきたいです」。

計画地

計画地西側上空より(写真提供:篠栗町)

本記事に関する問い合わせは

篠栗町役場まちづくり課

〈熊谷〉 092-947-1111 もしくは
〈CBRE福岡支店〉 092-472-1711 まで

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上記内容は BZ空間誌 2022年春季号 掲載記事 です。本ページへの転載時に一部加筆修正している場合がございます。

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