ニーズが高まる危険物倉庫
昨今のサプライチェーンの変化や、安全性への意識の高まり、コンプライアンスの観点から、危険物倉庫へのニーズが高まっている。危険物倉庫とは、火災や爆発、中毒、放射能汚染を発生させる危険性の高い物質を保管し、消防法他関連法令の規制を受ける倉庫のこと。消防法上、危険物施設は製造所(1種類)・貯蔵所(7種類)・取扱所(4種類)に分類されるが、その7種類の貯蔵所の中の「屋内貯蔵所」が危険物倉庫にあたる。
元来、危険物倉庫は、メーカーの製造物流において使用されることが多く、原材料輸入の港湾部や工場に関連して、特定企業の限定された荷を保管するために作られてきた。地震や自然災害の多い日本では、災害対策としても危険物の安全な保管が求められており、大規模災害の後に注目されることもあった。しかし、そのニーズの大きな転機となったのは、近年の新型コロナウイルスの流行により、アルコール消毒液の需要が急拡大したことにある。アルコール含有率60%以上のアルコール消毒液は、消防法上の危険物となり、指定数量の400リットル以上を保管する場合は危険物倉庫で保管しなくてはならない。この物品を安全かつ適切に保管するため、危険物倉庫への需要が急速に拡大したのである。
また、世の中の潮流となっているEコマースの進展も、危険物倉庫の新たなニーズに拍車をかけている。先に挙げたアルコール消毒液のように、危険物には指定数量という規定が設けられており、これは「消防法の適用を受ける基準となる数量」である。指定数量未満の数量であれば危険物倉庫への保管義務はなく(ただし、指定数量の1/5以上~1未満までは少量危険物保管庫での保管が必要となる)、これまでは比較的安易に捉えられてきた面も否定できない。ただし、昨今のEコマース事業者は、コスト削減とオペレーションの合理性を追求して大型拠点を確保する傾向にある。大型マルチテナント型物流施設への事業者の強いニーズを見ても、それは明らかだろう。例えば「化粧品」や「香水」など、成分の70%以上がアルコールという商品は多々存在する。潤滑剤はもとより、殺虫剤やヘアスプレーのエアゾール缶にも、火気厳禁「第〇類第〇石油類」との記載が見られる。これらを多量に取り扱う場合に、危険物倉庫に保管すべきなのか否か。ひとたび火災が発生してしまった時の様々なリスクを鑑みて、そしてコンプライアンスの観点から、危険物倉庫に注目が集まるのは必然だと言える。
危険物倉庫の供給が進まないワケ
「危険物倉庫が不足している。まだまだ需要は大きい」との声は、事業関係者からよく聞かれる話である。では、なぜ供給が進まないのか。それはひとえに、危険物倉庫の建設、運営、保守に高いコストがかかるということ。安全を担保するため、消防法をはじめ様々な法律によって立地や構造、設備が規制され、それが土地活用や不動産事業の経済合理性とマッチしていないのだ。平屋建、延床面積1,000㎡以下、軒高6m未満、倉庫の周りに保有空地を確保しなければならず、立地の用途地域により指定数量の倍数で貯蔵できる危険物のボリュームが制限される。加えて、行政への許可申請や、地域消防との協議にも高い専門性が要求され、誰もが行えるものでもない。また逆に、危険物の法的規制の変更も予想され、危険物倉庫の開発や運営に影響を与える可能性もある。長期的な事業サイクルとなる不動産開発との親和性は低いと言わざるを得ないだろう。事実、今年の9月には、危険物倉庫ニーズを左右すると言われるEV(電気自動車)やモバイル機器に用いられるリチウムイオンバッテリーの保管に対する規制緩和策が、総務省消防庁から発表されている。
市場を開拓する各社の取り組み
このように、数多の困難が想定される危険物倉庫マーケットだが、需要の高まりは大きなビジネスチャンスであることに間違いはない。様々な挑戦が伴うものの、効果的な対策や確かな知見、適切なリーダーシップにより、これらの課題に対処し、安全かつ持続可能な危険物倉庫の開発・運営が求められている。次項からは、危険物倉庫に代表される特殊倉庫をオーダーメイドで建設するブランド「RiSOKO」を展開し、業界での地位を築き上げている三和建設、15年以上にわたり一般倉庫併設の危険物倉庫を開発し、賃貸による市場提供を続けてきた世界的な物流不動産プロバイダー・プロロジス、そして危険物の運輸・保管に20年の歴史を誇り、埼玉県下最大手の独立系危険物倉庫事業者であるトーエイ物流の3社にご登場いただき、昨今の危険物倉庫ニーズの実情と自社の戦略を語っていただく。