日本ロジスティクスファンドの ポートフォリオ
「大阪福崎物流センター」選択の理由
リコーロジスティクス株式会社
常務執行役員 松本 秀雄 氏
まず最初に、御社の事業概要と、大阪福崎物流センターに設立された「物流センター関西(BCK)」の位置づけとその特徴を教えてください。
当社はリコーの物流部門が独立する形で1964年に創設されました。現在、売上げは537億円、社員数842人、全国に大小合わせて約110の物流施設があり、そのほとんどが賃貸です。
全国6ヵ所に関連子会社(三愛ロジスティクス)があるほか、香港、中国、アメリカなどにも拠点を置き、リコーグループの国内外の物流戦略を担っています。事業の内訳としては、売上げの約7割がリコーグループ、約3割がそれ以外の企業さんからの受注です。今後はリコーグループ以外からの受注を拡大していきたいと思っています。
BCKは関西地区の中核となる物流施設として位置づけており、機器からサプライ品まで幅広く扱っています。また、この施設には回収品の解体作業や分別作業用のスペースも約400坪確保しており、回収品は種類別に16~21に分別してリサイクルするなど、ゼロエミッション(ごみゼロ)を実現した環境保全型の施設となっています。また、情報セキュリティにおいても最先端の設備を導入しています。
当社にとって、環境配慮と情報管理は施設選択において譲れない必須条件であり、この点でBCKは、当社の特徴である「循環型ロジスティクス」(※後述)を支えるものとなっています。
「大阪福崎物流センター」にBCKを置いた背景と経緯は。
BCKに統合するまでは大阪市内に4拠点、棟数にして15棟を借りていました。当社では、オフィスサプライ品は半日配送の体制を採っており、お客さまのオフィスの近くに営業拠点を設置する必要があったのです。しかし、半日配送が可能な範囲に集約できる施設があるならば、集約した方が経営資源(人、モノ、金)を効率よく使えますし、環境、情報管理やセキュリティの面でも望ましい。しかし、これまで大阪では、当社の希望する条件を満たし、機能を集約できる賃貸物件はなかなかありませんでした。
そうしたところにお話を受けたのが、大和ハウスさんからのご提案でした。大和ハウスさんが用地を購入し、当社が一括借りすることを前提に、SPC(特別目的会社)を組成して物流施設を建設するというもの。当初、ファンドへの売却は決まっていませんでしたが、汎用性が高く、環境や情報管理において最先端施設にするという点で大和ハウスさんと意見が一致したため、入居を決断したわけです。
ここを関西の拠点となる「物流センター関西(BCK)」と位置づけ、従来の15棟のうち13棟の機能を集約しましたが、立地・規模・スペック共に満足しています。EMS(環境マネジメントシステム)、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の視点からも、最先端の施設となっていますし、CSR(企業の社会的責任)の面からも十分な配慮がなされています。一例を挙げれば、10トントラックが余裕をもって48台駐車できるスペースがありますから、入庫するトラックが道路に待機して、近隣に迷惑をかけるようなこともありません。
経営戦略におけるBCK設立の狙いは、具体的に言うとどういった点なのでしょう。
まとめますと次の六つです。第一は集約による作業効率アップ、第二に大規模・高機能拠点化による市場価格対応力アップ、第三はITS、LTを駆使したSCM(サプライチェーンマネジメント)対応物流サービスの提供、第四はマネジメント力強化によるLCO(ローコストオペレーション)力、技術力、CS(顧客満足)のアップ、第五は国際物流、国内物流の一元化、第六はEMS、ISMSの充実による信頼性向上です。
拠点施設がJ-REITの所有になることへの抵抗はありませんでしたか。
特にありませんでしたね。もともと当社は、固定資産を極力保有しない方針で事業を進めており、これまでも施設のほとんどが賃貸でした。物流を取り巻く環境は急激に変化していますから、これだけの規模の施設を自社で保有するのは非常にリスキーです。ファンドが物流施設を保有するスキームができたことは、逆に我々にとってはありがたいことです。今回のケースについても、大和ハウスさんが開発し、J-REITが長期安定的に保有して、私どもが利用する。それぞれのニーズが巧みに合致する優れたスキームだと思います。
また、ファンドを運営される三井物産ロジスティクス・パートナーズさんは物流事業に精通しており、加えて、契約期間などについても当初の条件を遵守してくれました。資産管理能力や透明性、提案力、情報力、コンプライアンスという面からも望ましいオーナーさんではないかと思います。これまでのおつき合いで、「話せばわかる」大家さんであることが分かりましたし、今後、当社が拠点戦略を進めていく上でも、有益なご提案や情報を提供してくださるものと期待しています。共存共栄の関係を構築していきたいですね。
一般的な倉庫オーナーと比較して、条件や契約面での違いや問題は。
ありません。当社はコンプライアンスを含めて厳密な契約主義なので、かえって波長が合ったといえます。こちらとしては、むしろそうした部分を曖昧にする相手のほうがやりにくい(笑)。
契約期間が5年というのは、物流施設にしては短期ですが......
確かにこの規模の施設ですと、普通は15~20年契約でしょうね。当社では、契約期間は短期、実際の運用は中長期的に考えています。5年契約にしたのは「いろいろな可能性を残す」という意味であり、全国4ヵ所の在庫拠点の一つであるBCKを、そう短い期間で動かすつもりはありません。こうした当社の考え方を十分に理解し、開発当初の条件を受け入れてくれたのも、交渉相手がファンドを運営される三井物産ロジスティクス・パートナーズさんだったからでしょう。一般の地主さんでは、今回のような大型開発、大規模面積の利用に際して、このような契約というのは困難だったと思います。
リコーグループは、環境や情報管理に対して先端的な企業として知られていますが、御社は物流部門において、どのような取り組みをされていますか。
当社では、環境に配慮した「循環型ロジスティクス」を構築しています。部品や資源を調達し、生産物(商品)をお客さまに届ける動脈物流はどの物流企業もできますが、使用済みの商品を随時回収し、分解・分別して再資源化する静脈物流まで行っている企業はまだ少数です。当社は全国98の地方自治体において産業廃棄物収集運搬免許を取得し、動脈物流と静脈物流を融合させた循環型ロジスティクスを実現していることが大きな特徴であり、強みです。
また、当社は89事業所でEMSを構築し、ISO14001を取得しています。今後、企業にとって環境への取り組みは非常に重要になることは間違いなく、物流においても環境に配慮した施設や仕組みが求められるものと思います。新規受注を拡大するに当たって、BCKのような環境保全型の物流施設を構築していることがインセンティブになるでしょう。環境に対して高い意識を持つ企業は、物流においても高いレベルを要求しますからね。私どもも環境意識の高い企業さんに利用していただきたいと願っています。
その戦略に沿って、これからも物流施設を拡大もしくは統合していかれるのでしょうか。
国内の物流施設網は、ほぼ完成に近い状況です。ただ、個々の見直しやリニューアルなどはありますし、配送拠点は若干拡大していきます。
その時、物流施設を選択する条件とは。
一つの条件というわけではなく、それぞれの規模ごとに、立地、スペックなどについて詳細なチェックリスト(ポイント制)を用い、検証していくことでしょう。必須条件が10項目、希望条件はその倍以上の項目があり、必須条件を満たさなければその時点で除外。必須条件をクリアしたものは、希望条件の各項目のポイントを合計し、総合ポイントの比較で選定するわけです。
BCKへの統合によって物流コストはどのくらい削減できると試算されていますか。
大体10%程度の削減効果を見込んでいます。しかし、BCKに統合した効果としてもっとも大きいのは社員の志気が高まることでしょう。皆が同じよい環境で仕事ができるわけですし、管理する側も同じ目線で作業を管理し評価できます。これを作業効率や作業品質の向上に繋げ、ひいてはCS(顧客満足)を高めていきたいと考えています。