総合不動産デベロッパーとしての歴史とノウハウを発揮し、的確な用地取得、
そして顧客利益の最大化に貢献する開発を実践。
三井不動産株式会社
物流施設事業部 事業グループ
統括 池田 孝根 氏
顧客のCREニーズに対応した新事業領域のスタート
当社では、2012年4月1日付で、物流施設事業部を新設し、商業施設やオフィスビルの顧客基盤を活かした物流施設開発を推進していくこととなりました。その第1号案件となるのが「(仮称)市川塩浜プロジェクト」であり、当社初の先進的な大型賃貸物流施設の開発事業となります。
当社は、以前から法人営業部門において、顧客企業のCRE戦略の策定を手掛けてまいりました。そのなかで近年、円高、諸外国に比して割高な法人税、雇用環境等、企業の事業環境が厳しくなってきている背景もあり、国内事業所の海外への移転が増え、それに伴う工場の閉鎖など、事業拠点の再編の相談を受けることが多くなってきています。
工業専用地域や工業地域に立地する工場跡地では、当社の主力商品であるショッピングセンターやオフィスビル、マンション、戸建住宅などの自社グループによる開発が難しかったのですが、物流施設ならばこうした地域でも開発が可能です。都市計画で12に分類される用途地域のすべてで開発できるメニューがそろうことになったのです。物流施設を手掛けることで、顧客企業のCRE戦略において幅広い提案ができるとともに、当社の事業領域を拡大することができる、両者にとって大きなメリットを創出することができます。それが今回の新事業部設立の契機となったのです。
物流施設マーケットの成長が新事業立ち上げを後押し
これまでも、物流施設開発を手掛けようという機運は何度かありました。ですが、それを実行に移さなかったのにはふたつの背景があります。ひとつには、事業の選択と集中を考えるなかで、例えばリーマンショックの前であれば、オフィスビルの需要が堅調に推移していたこと、郊外型の立地であれば、アウトレットモールやショッピングセンターなど、従来の手法で開発できる余地が十分に残されていたため、あえてノウハウのない物流施設に進出する必要はないとの判断がありました。
また、不動産の開発手法として物流施設のニーズが明確になってきたのは、外資系の物流施設の専業プレーヤーが進出し、先進的な賃貸物流施設を展開しはじめた2002年以降のことです。それから10年を経て、安定した不動産金融商品としての魅力に投資家が気付き始めた事も大きいと言えるでしょう。オフィスや商業施設のマーケットが成熟期を迎えたこともあり、市場のトレンド、事業環境、ニーズなどを総合的に勘案して、新たに登場したビジネスモデルに進出するなら、今がチャンスと判断したわけです。
総合不動産デベロッパーならではの競争優位性
次に、当社が考える同分野での競争優位性についてお話しします。まず、土地の仕入れですが、先にも触れたとおり、総合不動産デベロッパーとして、リージョナル型ショッピングセンター「ららぽーと」やアウトレットモール「三井アウトレットパーク」などの大規模商業施設を手掛けてきたこともあり、特に郊外型の大規模用地の情報が入りやすい環境にあります。加えてCRE部門では、法人が持っている土地の悩み、つまりは、まだ市場に出ていない土地情報を取得しやすい立場にあります。今回の市川塩浜プロジェクトも、こうした営業環境のなかで入手できた案件でした。
また、これも先に触れたとおり、開発にいくつもの商品メニューを持っていることも当社の強みでしょう。例えば、郊外型の土地について、ショッピングセンターやアウトレットモールは、商圏の問題からひとつのエリアにひとつの施設しか作れません。ですが、当社ならマンションや戸建分譲、さらに今後は物流施設と、様々な開発が可能ですから、土地情報をいち早く精査して、最適な有効活用の手法を検討することができるのです。例えば、新三郷駅前の再開発では、「ららぽーと新三郷」を街づくりの核にして、IKEAやCOSTCOといった専門店、戸建住宅街、そして物流施設を誘致しました。まさに総合不動産デベロッパーならではの開発事例となりました。
当社はこれまでの歴史から、数多くの企業とお付き合いをさせていただいています。こうした企業の中には、物流施設のニーズもあり、例えば商業施設のテナントであるアパレル企業、あるいはオフィスに入居するE‐コマース企業など、物流施設の荷主となり得る企業も多数存在しています。こうした企業に対して、ニーズを受け止められる物流施設を手掛けていくことで、ワンストップの不動産サービスが提供できることになるのです。これらの点が、専業の物流デベロッパーにはない、総合デベロッパーならではの特徴といえるでしょう。
マルチテナント型物流施設による第一号物件の開発に着手
今回、当社にとって初めての開発物件となる「(仮称)市川塩浜プロジェクト」は、こうした思惑の元にスタートしました。この物件は2011年に用地を取得し、物流施設の専業デベロッパーと共同して事業を推進しています。
同プロジェクトは、敷地面積は52,921㎡、延床面積約121,000㎡、地上5階建のマルチテナント型の物流施設で、災害時におけるテナントのBCP対応をサポートするための、免震構造の採用、バックアップ電源の導入、電気室の高潮対策など、従来の物流施設の機能を進化させた先進的な仕様を導入し、2012年秋着工、2013年秋竣工を予定しています。内部にはオフィススペースを併設するほか、福利厚生施設として、売店やカフェテリアも用意する計画です。また、環境への配慮として、建築環境総合性能評価システム(CASBEE)のAクラス認証取得を目指しています。
計画地は、首都高湾岸線「千鳥町」IC に至近で、JR京葉線「市川塩浜」駅から徒歩圏に位置しているため、交通利便性に優れています。トラックの配送利便性だけでなく、作業員にとっても働きやすい、つまり雇用しやすい環境といえるでしょう。
さらに、2015年には東京外郭環状道路(仮称)高谷JCTが新たに開通する予定であり、埼玉県内部へのアクセスも飛躍的に向上することが見込まれています。
顧客とのシナジー効果を生む優良施設の開発を標榜
今回の物件は、物流施設が集積する恵まれた立地であったことに加え、独自のリサーチの結果、まだまだ潜在的なニーズがあることから、マルチテナント型の施設を選択しました。将来的には、テナントのニーズによるBTS型の物流施設の開発も手掛け、マルチ型、BTS型をバランスよく展開していきたいと考えています。
グループ会社の三井不動産投資顧問が組成した私募REITが収益物件の取得を行っており、当社は基本的には土地からの開発を推進していきます。当社の開発事業の出口戦略の選択肢のひとつとして私募REITを考えています。
現在、市川塩浜に続く物流施設の開発用地を、首都圏を中心に、関西、地方含め、積極的に探索しています。また、将来的には海外展開も視野に入れていきたいと考えています。いずれの案件に関しても、オリジネーターやテナントとのシナジー効果を生み出せる、当社ならではの施設にしていく所存です。