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2021年のホテルマーケット展望

お役立ち

2019年9月17日

増加する需要と供給の中で勝ち残るホテル

インバウンド需要の拡大が今後も継続して見込まれることを背景に、全国各地でホテルの開業が相次いでいる。2021年までの供給量は主要9都市合計で8万室、これは2018年末時点の既存ストックの24%に相当する。ストックが増加する今後は、あらゆるホテルがインバウンド需要拡大の恩恵に与れるわけではなくなるだろう。単純な価格競争を避け、差別化を図り、競争に勝ち残るための鍵とは何か。CBREが独自に収集・分析したデータに基づき、考察する。

CBRE Hotels ディレクター 土屋 潔

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土屋 潔

CBRE リサーチ アソシエイトディレクター 五十嵐 芳生

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五十嵐 芳生

CBRE リサーチ アソシエイトディレクター 本田 あす香

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本田 あす香

1インバウンド需要拡大の中で浮上するホテル開発計画

【図表1】訪日外客数と政府目標
【図表2】延べ宿泊者数の推移
【図表3】都市別ホテル客室新規供給

2018年の訪日外客数は3,119万人と、初めて年間3,000万人の大台に乗った【図表1】。海外からの訪客数が3,000万人超の国は、世界でも10ヶ国程度、アジア・パシフィック地域では、中国、タイに次いで日本が3ヶ国目になる。増加率は対前年比+8.7%で、2016年から続いた20%前後の増加率と比べると鈍化したが、2018年は日本各地で豪雪、豪雨、台風、地震の災害に見舞われたことを考えれば、なお順調なペースで増加していると言えるだろう。ここに2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピック・パラリンピックといった国際的祭典による観光客数の上積みが加われば、2020年の政府目標である訪日外客数4,000万人の達成が見えてくる。

訪日外客数の増加を受け、外国人宿泊需要も増加している。2018年の外国人延べ宿泊者数※1は対前年比11.2%増(約900万人泊増)の8,859万人泊。一方、日本人は海外への旅行が増加したこともあり、日本国内での延べ宿泊者数は対前年比2.2%減(約900万人泊減)の4.2億人泊。国内での日本人宿泊需要の減少分を、ほぼ外国人宿泊需要の増加分で埋め戻す結果となった【図表2】

こうしたインバウンド需要の拡大が一時的なものではなく、今後も継続して見込まれることを背景に、各地でホテルの開業が相次いでいる。主要9都市における2019~2021年開業予定のホテルの開発計画も、この1年の間に公表ベースで約3万室から2.5倍の約8万室に増加した。改めて主要9都市で2019年から2021年に供給される客室数を集計した結果、2018年末時点の既存ストックの24%に相当する見込みである。既存ストックに対する供給客室数の割合を都市別に見ると、京都が最も高い51%、次いで大阪の32%、東京が24%と続く結果となった【図表3】。供給のインパクトが最も大きい京都は、賃貸オフィスの貸室総面積が2010年末時点との比較で唯一減少している都市でもある。オフィスからホテルへの建て替えといった、他用途からの建て替えも進んでいる。

※1:延べ宿泊者数:各日の宿泊者数を足し合わせた数。仮に二人組の旅行者が7日間宿泊した場合は、2人×7日=14人となる。

22021年のホテルマーケット

【図表4】2021年需給推計のイメージと、
必要客室数・客室ストック数・推計の前提条件
【図表5】客室数と必要客室数(2021年)
【図表6】外国人訪問者宿泊率
イメージ

政府目標は、2020年の訪日外客数を4,000万人、2030年は6,000万人に定めている。また政府目標値に基づき外国人延べ宿泊者数を計算すると、2020年に1.4億人、2030年に2.2億人という目標値となる。この目標が達成されることを前提に、主要9都市の2021年のホテルマーケットの需給バランスを検証した。2021年の外国人宿泊需要については、2020年と2030年の政府目標から年平均成長率を用い推計した。日本人の国内宿泊需要については、将来の人口減少を考慮して推計した。この推計によって得られた2021年の宿泊需要を基に、ホテル運営にとって適正とみられる空室を見込んで必要客室数を算出し、これを同年の予想客室数ストックと比較した(検証にあたっての前提条件の詳細は【図表4】を参照)。

都市全体で見ると、需給バランスは逼迫しない

推計の結果、主要9都市のいずれにおいても、2021年の必要客室数(=需要)は予想ストック(=供給)を下回る結果となった【図表5】。必要客室数と予想ストックのギャップは都市によって異なり、大阪で2.1万室、東京及び京都で1.2万室、名古屋で8千室、仙台で4千室、札幌で3千室、広島及び那覇で2千室、福岡で1千室となった。三大マーケット(東京、大阪、京都)に属する都市のギャップが大きい一方、地方部に属する都市のギャップは比較的小さい。

潜在化した需要の回帰の可能性

ただし、予想ストックが必要客室数を上回ることは、必ずしも供給過剰を意味するものではない。これまでストック不足に起因して、予約が取りにくくなったことから、需要の一部が顕在化していなかった可能性もある。実績値をもとに推計された需要の予測値には、この潜在需要は織り込まれていない。

実際、東京都、大阪府、京都府、福岡県、沖縄県を訪問した外国人訪問者のうち、訪問先で宿泊できた訪問者の割合は他のエリアに比べて低い※2【図表6】。中でも大阪府は、2014年に大阪府を訪れた90%の外国人が大阪府内で宿泊していたが、2017年にはその割合が64%まで低下している。外国人訪問者の宿泊率の低いこれらの地域では、供給によって予約の取りにくさが解消されれば、これまで流出または潜在化していた需要の回帰・顕在化が期待できるだろう。現に供給が進む京都府では、2017年に外国人訪問者宿泊率が上昇しており、需要回帰の兆しが見られる。

競争がホテルマーケットを成熟させる

すでにホテルの開業が相次いでいる都市の中には、正常な競争原理が働くことで、ホテルによって優勝劣敗が分かれ始めている都市もある。ストックが増加する今後は、あらゆるホテルがインバウンド需要拡大の恩恵に与れるわけではなくなるだろう。単純な価格競争を避け、誘客力の強いホテルを作るには、差別化が鍵となる。

※2:福岡及び沖縄県の外国人訪問者宿泊率が低いことについては、クルーズ船の寄港が多く、ホテルに宿泊しない外国人が多いことの影響もある

3変化するホテルマーケットで勝ち残るヒント

差別化の一つ目の鍵は、より細やかな立地戦略だ。今後は都市単位でホテルの事業性を検討するのでは不十分で、駅や空港などへの交通機関や観光地へのアクセスの良さ、ナイトタイムエコノミーが活発なエリアへの近接性、新しさだけでは勝負できないような供給が多いエリアの把握など、細やかに立地のポテンシャルを見極め、その立地特性に応じた商品構成を検討する必要がある。また、交通アクセスや周辺繁華性が弱いために供給が少ないエリアでも、今後ポテンシャルが変化する可能性はないか、ホテル自体が需要を喚起する仕掛けを施すことで弱点を埋めることができないか、等の立地戦略も検討に値するだろう。

【図表7】供給立地動向(2019年〜2021年)
【図表8】開業時期別 客室タイプ割合
【図表9】カテゴリ別 新規供給
【図表10】各国の4スター・5スターホテルの軒数

二つ目の鍵は、ハードを含めた商品の多様化だ。宿泊主体が日本人だけでなく多数の外国人も加わったことで、受け皿となるホテルにも変化が見られるようになっている。例えば、客室構成の多様化だ。訪日外国人の86%※3を占めるアジアからの観光客は、単身で訪日するケースは2割程度にとどまり、残りの8割は家族や親族、友人など複数人で日本を訪れている※4。すなわち、訪日外国人の現在の宿泊需要の多くにとって、シングルの客室では狭いのだ。すでに外国人観光客の多い東京、大阪、京都では、近年はシングルからより広いダブルやツインへと客室構成がシフトしている【図表8】。ターゲットとする客層に応じてハードも多様化する必要があるだろう。

三つ目の鍵は、アッパークラス以上のホテルだ。CBREが把握している主要9都市の新規供給の87%は宿泊主体型※5のホテルであり、フルサービスホテル※6(その多くはアッパークラス以上に属する)は5%に過ぎない【図表9】。世界各都市のインバウンド需要(国際観光到着数)を考慮に入れると、日本におけるアッパークラス以上のホテルの数はまだ少なく、開発余地は十分にあるだろう【図表10】

四つ目の鍵は、日本では新しいタイプのホテルとして注目されているブティック・ライフスタイルホテルだ。ブティック・ライフスタイルホテルとは、一般的に、独創的なコンセプトに基づいた高いデザイン性を備え、宿泊にとどまらない付加価値や体験を提供し、ホテルでの時間を楽しめるホテルと言われている。ホテルのカテゴリは「価格帯」と「機能」の2軸で分類されることが一般的だが、この新しいタイプのホテルはそれが当てはまらず、価格帯も広い。アメリカでは平均を上回るパフォーマンスを発揮する傾向が確認されており、まだ歴史の浅い日本においても成功する可能性は十分にあるだろう。登場の背景は、旅行者の嗜好が、モノからコト、すなわち「体験」へとシフトしていることが関係している。ブティック・ライフスタイルホテルは、宿泊だけにとどまらない、多様化した旅行者のニーズを充足し得るものとして期待されている(コラム「マズローの欲求段階説とホテルタイプ」を参照)。

※3:日本政府観光局(JNTO)、2018年 ※4訪日外国人消費動向調査、2018年 ※5:宿泊主体型ホテル:宿泊機能以外の付帯施設を限定、または最小限にした、宿泊を主体としたホテル及び宿泊に特化したホテル ※6:フルサービスホテル:レストラン、バンケット、フィットネス、スパ、ドアマン、ベルボーイ、コンシェルジュなどの多彩な施設とサービスを提供するホテル

COLUMN マズローの欲求段階説とホテルタイプ

心理学に「マズローの欲求段階説」(Maslow's Hierarchy of Needs)という理論※がある。経営学にも応用されている理論で、「人間は自己実現に向かって絶えず成長する」と仮定し、その欲求を階層で理論化したもの。「自己実現理論」とも言われる。

人間の欲求は、最も低位の欲求である生理的欲求(Physiological needs)、安全の欲求(Safety needs)、愛情・帰属意識(Love and Belongings)、承認欲求(Esteem)、そして最も高次の欲求である自己実現(Self-Actualization)の五段階から成り、下位の欲求が満たされると上位の欲求へ上がっていくという理論。

これをホテルタイプに当てはめてみると、睡眠という生理的欲求を満たすことに特化しているのが、一般的なカプセルホテルに当たるだろう。次いで安全の欲求が満たされるものとして、個室で、鍵がかかるという意味で、エコノミーホテルがこれに当たる。愛情・帰属意識が満たされるものとしては、宿泊以外の機能を有し、高度化した人的サービスを提供するミッドプライス/アップスケールホテルがこれに当たる。さらに高次の欲求である尊厳や格式といった承認欲求が満たされるものとしては、ラグジュアリーホテルということになるだろう。

マズローの欲求段階説の概念図

そして、自己実現の欲求を満たし得るのが、ブティック・ライフスタイルホテルに当たると考えることができる。他者に何かを求めるというよりは、自分らしさを求める欲求であり、それは人それぞれ異なる多様化した欲求である。

ホテルに対するニーズが多様化しているのは、旅行者の欲求が自己実現の欲求に行き着いたことの帰結と見ることも可能である。近年、日本においてブティック・ライフスタイルホテルが注目されているのも、

このような多様化したニーズを充足させ得るホテルの形態として期待されていることに背景があると考えられる。

※Abraham Harold Maslow “A Theory of Human Motivation, Psychological Review” (1943年)

42030年に向けて− 多様化する宿泊需要が ホテルマーケットを変える

【図表11】国際観光到着数の推移と見通し
イメージ

日本だけでなく、世界に目を向けると、国際観光は増加基調にある【図表11】。交通運輸技術の進歩、経済発展による中間所得層の増加、外国の観光都市に関する情報へのアクセスが容易になったことなど、その要因はさまざまだ。過去に世界全体の国際観光需要が減少したことはSARSの流行や世界同時不況を原因とするものなど数年しかなく、この潮流は力強い。中でもアジア・パシフィックの国際観光需要は成長著しい。2000年代半ばに米州を上回り、その格差は年々拡大している。世界観光機関の予測※7によると、今後もこの潮流が続く見込みであり、2017年の全世界合計の実績値は13.26億人※8と、予測値を約8,000万人上回るペースで増加していることを踏まえると、アジア・パシフィックに属する日本のホテル需要は、さらに拡大し続けることが期待される。

2019年のラグビーワールドカップ、翌2020年の東京オリンピック・パラリンピック、2025年の大阪・関西万博といったイベントは、会場周辺での宿泊需要を大きくブーストさせることは間違いない。周辺都市を回遊する観光需要も生じるだろう。またこうした一時的なイベントにとどまらず、2030年までの間には統合型リゾート(IR)のオープンも見込まれており、持続的に観光需要を増加させる集客装置の登場も控えている。
リニア中央新幹線や中長距離を結ぶバスターミナルをはじめとしたインフラ整備も進んでいる。こうしたアクセス性の向上は日帰り客を増やす懸念も生じ得るが、リニア中央新幹線については元々日帰りが可能であった都市間を結ぶものであり、企業の拠点戦略がダイナミックに変わらない限り、懸念の顕在化は限定的だと考えられる。むしろアクセス性の向上はターミナルの後背地まで商圏が広がることを意味し、新たな観光需要を生む可能性を含んでいる。

国内の構造変化にも目を向ける必要がある。今の旅行動態に変化がなければ、国内の人口減少はすなわち宿泊需要の減少に結びつく。一方で、働き方改革によって余暇が増加すれば宿泊を伴う旅行が増える可能性がある。テクノロジーが進化して、働く場所の柔軟性が認められ、旅行しながら仕事もするというワーケーションという形態も見受けられるようになってきた。このような形態が長期の宿泊需要を生み出す可能性もある。また、健康なシニアが増え、インフラ整備によって身体が衰えても旅行できる環境が整えられれば、旅行に行く回数も増えるだろう。

このように、宿泊する人の国籍、年齢層、目的は今後ますます多様化することが見込まれる。多様化した需要に合わせて、ホテルも絶えず変化をし続けることが、競争に勝ち残る鍵となるだろう。

※7:UNWTO Tourism Highlights, 2017 Edition ※8:UNWTO Tourism Highlights, 2018 Edition

上記の記事の内容は BZ空間誌 2019年秋季号 掲載記事 掲載当時のものです。

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