香港物流マーケットの現状(2008年第1四半期現在)
香港輸出産業は、中国本土と他のアジア諸国間との貿易により支えられているが、アメリカ経済の低迷と世界的な金融不安は消費者に多大な影響を与えている。中国政府による最新の統計によると、2008年2月期の香港輸出取扱高の総計は、対前年比7.6%上昇して1844億香港ドルを記録。このうち再輸出は対前年比7.8%上昇し1781億香港ドルとなった。以上のような年間成長を記録したにもかかわらず、2008年1月期および2月期のマーケットは、低迷したアメリカマーケットと2008年初めに中国を襲った台風の影響を受けて不安定な状況となった。
アメリカ経済の減速によって引き起こされるグローバル経済への波及効果は、中国の輸出産業にも現れはじめている。2008年1月期の中国の輸出成長率は対前年比26.6%上昇したのに対し、2008年2月期では対前年比6.5%上昇となり、中国の月間貿易黒字は1521億米ドルから668億米ドルに減少する結果となった。成長の減退は、人民元高の要因を受けて、燃料費上昇および賃金上昇など製造コストが増大したことが影響したと見られている。このため製品輸入元の割合は、製造コストの安いベトナム、インド、およびカンボジアなどのアジア諸国にシフトする傾向にある。中国本土における貿易実績は、香港の総輸出額が多くの割合を占めている(2007年は46.3%を記録)。2008年の不透明かつ混乱の続くグローバル経済の見通しから、香港のロジスティックス業者にとって今後厳しい状況が予想される。
さらに、香港の物流マーケットにおいて懸念される問題の一つに、台湾の大統領である馬英九(Ma Ying-jeou)により提案されている台湾と中国本土との関係強化実現が挙げられる。馬大統領は台湾と中国本土を結ぶ直行便の運航を2008年7月に開始することを提案。両国の関係強化を目指し、直行便運航、観光業・経済産業の促進などの計画が進められている。香港は伝統的に中国本土と台湾における輸送拠点として重要な役割を担ってきたが、今回、中国本土と台湾間の関係強化が実現すると、2国間における経済・貿易・輸送活動が活発となり、香港の中継地点としての役割が今まで以上に問われることとなる。
世界的に金融市場は先行き不透明ながら、香港物流マーケットにおける、インドやベトナムなどのアジア諸国への輸出は飛躍的に成長している。最も輸出量が増加したのはインドで、対前年比126.6%と大幅に上昇、その次のベトナムでは42.1%という急成長を遂げている。また、ロジスティックス業者の物流施設の需要は、アジア新興国の成長を促進することに繋がっているといわれている。さらに2008年2月、中国政府は観光業の促進政策を発表、当政策に従って、多くの開発が進められている。この中でも、工業用地取得後の土地を利用したホテルへの建替開発計画は、アジア新興国の経済を活気づける原動力となっている。
中期的には、香港の物流スペースの新規供給は低い水準で推移する見込みで、物流施設マーケットはしばらく安定することが期待されている。
主な物流施設賃貸借取引事例(2008年第1四半期)
エリア | 物件名 | 面積(sqf) |
募集賃料 (香港ドル/sqf/月) |
---|---|---|---|
ホンコンアイランド(Chai Wan) | Safety Godown Industrial Building | 41,500 | 7.7 |
ウエスタン・カオルーン(Tsuen Wan) | QPL Industrial Building | 21,083 | 4.2 |
ウエスタン・カオルーン(Tsuen Wan) | Tsuen Wan International Centre | 4,001 | 5.8 |
ホンコンアイランド(WongChuck Hang) | Remex Centre | 10,543 | 5.3 |
ニューテリトリーズ(Sha Tin) | Unison Industrial Centre | 11,850 | 7.1 |
ウエスタン・カオルーン(Kwai Chung) | Wo Kee Hong Building | 3,440 | 4.2 |
サウスイースト・カオルーン(Hung Hom) | Harbour Centre,Tower1 | 6,172 | 10.9 |
主な物流施設売買取引事例(2008年第1四半期)
エリア | 物件名 | 面積(sqf) |
価格 (香港ドル/単位:100万) |
価格 (香港ドル/sqf) |
---|---|---|---|---|
サウスイースト・カオルーン(San Po Kong) | Wang Fai Industrial Building | 10,642 | 11.00 | 1,034 |
ニューテリトリーズ(Tuen Mun) | Tuen Mun Industrial Centre, Block F | 11,026 | 4.98 | 452 |
サウスイースト・カオルーン(Kwun Tong) | Yau Lee Centre | 14,980 | 24.72 | 1,650 |
ウエスタン・カオルーン(Kwai Chung) | Trans Asia Centre | 11,369 | 10.50 | 924 |
ニューテリトリーズ(Sha Tin) | CCT Telecom Building | 14,427 | 36.06 | 2,500 |
倉庫マーケット
2008年初めに中国を襲った台風の影響により、中国交通機関は多くの被害を受けたものの、同年第1四半期の倉庫のリーシング活動は安定した結果に終わった。中国から米国への輸出需要は減少傾向にあり、このことは香港の再輸出高にも影響を与えている。2008年1月、2月の2ヵ月間における再輸出高は、対前年比12.5%上昇したが、2007年の同時期2ヵ月間における成長率と比較すると1ポイントの低下となっている。再輸出高減少の影響を受けて、第1四半期の倉庫全体の空室率は対前年比0.1ポイント上昇の1.7%となったものの、賃料水準とキャピタルバリューはそれぞれ5.1%、2.6%上昇する結果となった。
工場マーケット
2004年以降続いた好景気もかげりをみせはじめ、2008年第1四半期には、工場の統廃合が行われた。集約・廃棄の見直しが行われている間、工場の賃料水準やキャピタルバリューは、それぞれ、0.1%、1.8%の低下を記録。しかし、その後賃料や販売価格の調整が行われたことにより、賃貸工場からの収益は6.6%から6.7%へと上昇する結果となった。先行き不透明なグローバル経済に加え、物流施設マーケットにおける需要が低下する可能性を懸念して、投資家は様子見を強め、投資活動を控える傾向にある。
◎Source:全てのデータはCB Richard Ellis Market View 「Hong Kong Industrial」 First Quarter 2008による