2007年、イギリスから中国本土への返還10周年を迎えた香港。諸規制が少なく、税率の低い自由経済を特徴とする香港は、金融拠点として発展を遂げてきた。地理的に山岳地域が多く居住可能な地域が限られているにもかかわらず、都市部では東京23区を上回る人口密度を抱えているため、オフィスビル、住宅、物流施設は必然的に高層化することとなった。そのため、香港は超高層ビルの集積率がニューヨーク・マンハッタンに次ぐ世界第2位の都市でもある。近年、啓徳空港の廃止に伴い、新香港空港がランタオ島沖に移転したことで、カオルーン(九龍)地区の高さ規制が撤廃されたことにより、現在、多くの高層ビルの再開発事業が計画されている。2008年の後半から2009年にかけてイースタン・カオルーンでは、オフィスビルの竣工ラッシュを迎えることとなり、ホンコンアイランド(香港島)のセントラル、カオルーン(九龍)のチムサアチョイに次ぐ"第3のマーケット"として注目されている。このような状況を背景に、香港不動産マーケットは活況を呈している。今回は、オフィス、物流、店舗の3つのマーケットを通して香港不動産の現状をレポートする。
香港概要 | |||
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人口 | 6,978千人 [2005年] | 実質GDP成長率 | 9.5%[2007年] |
面積 | 1,104平方キロメートル(東京都の約半分の広さ) | 日本企業の投資件数 | 42件※1 |
公用語 | 中国語(北京語)・英語 | 日本企業の投資額 | 687億円(53.7%)※1 |
在留邦人 | 25,670人[2005年10月]※2 | ||
Source:日本貿易振興機構(ジェトロ):香港基礎データ http://www.jetro.go.jp/biz/world/asia/hk/basic_01/ ※1 財務省報告・届け出ベース。2004年度。カッコの数字は前年同期比伸び率。 ※2 総領事館届出数(出所)日本外務省 |
香港オフィスマーケットの現状(2008年第1四半期現在)
グローバル資本マーケットにおける経済不安と先行き不透明感の真っただ中で、香港オフィスマーケットは2008年を迎えた。サブプライム問題により金融市場に波及した前例のない大きな損失により、金融機関や大手銀行は相次いで資本増強策を発表し、数十億ドル規模の評価損益が計上される見込みである。国際的な金融市場の混乱が香港オフィスマーケットへ及ぼす影響は現段階では予測できないが、ある銀行では拡張計画を延期することとしており、計画実施の目途が立っていない。また、JPモルガン・チェースへのベアー・スターンズ売却に伴い、リースバック対象となるオフィススペースがマーケットに流入することが予想されている。
このような状況にもかかわらず、香港オフィスマーケット賃料は大幅に下落することはないと見られている。第1の理由として、今後3年間にホンコンアイランドにおいてオフィスの新規大量供給がないことが挙げられる。第2に、世界の大手銀行において、拠点エリアとして重要性が増していることが挙げられる。HSBC銀行の香港とアジア・パシフィック地域の2007年の業績は好調で、会社全体利益のうち、55%以上を占めることとなった。同様に、スタンダードチャータード銀行の香港コンシューマーバンキング部門では、2007年の営業利益は対前年比22%上昇となり、企業収益において対前年比17%上昇を記録。2桁台の上昇は過去6年間においてはじめての快挙となった。2007年のスタンダードチャータード銀行の香港全体の営業利益は、対前年比34%上昇の約12億米ドルを記録し、2001年度の同行の全世界における売上を上回る成績を達成した。モルガン・スタンレー、クレディ・スイス、JPモルガン・チェースの各行はそれぞれ、概算で200,000スクエアフィート、またはそれ以上のスペースのオフィス拡張移転を行ったことにより、インターナショナル・コマースセンター、ワン・アイランド・イーストの新規供給のうち計300万スクエアフィートを吸収した。
これらの例を見ると、グローバル企業は、急激な成長を遂げる新興国でのビジネスに注力することにより、継続的に業績を向上させていることがわかる。世界の大手金融機関はアジア・パシフィックマーケット、その中でも特に中国を軽視できない状況にある。
香港オフィスマーケットは海外からの引き続き旺盛な需要により、2008年第1四半期の業務中心地区の賃料は、週単位で高値を更新した。また、プライムオフィスビルの空室率は、オフィスの拡張需要に支えられて約2.2%と前期に比べ改善が見られた。香港中心部では、オーナーは賃料値上げについて強気の姿勢を見せているため、築年数23年の古いビルの募集賃料が150米ドル(スクエアフィート/年)を超えるケースなどが見受けられた。こうした募集賃料の高騰を背景に、テナントは、スペース拡充のために高い賃料を支払って賃借するのではなく、オフィススペースを有効に活用することによりコスト削減を図る傾向にあり、ホットデスキング(職場で複数の人たちが一つの机やコンピュータなどを共有するシステム)などを導入する企業なども増えている。
香港における主要なオフィスエリア
- セントラル
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セントラルエリアは、香港における銀行、法律事務所、および金融機関の中心であり、オフィスの平均募集賃料が最も高い。当エリアには、香港におけるAクラスビルの34%が存在し、オフィススペースの総計は1340万スクエアフィートに及ぶ。
- セントラル周辺(アドミラルティ、ションワン)
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アドミラルティやションワンを含むセントラル周辺エリアは、過去10年間にわたり、急速な発展を遂げており、セントラルの延長として新たなオフィスエリアの地位を築きつつある。香港におけるAクラスビルの18%が存在し、オフィススペースの合計は700万スクエアフィートに及ぶ。
- ワンチャイ
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ワンチャイはグロースター通りを境に2つのエリアに分けられる。北部に造成された埋立地に開発されたハイグレードビルは、セントラルエリアに隣接しながらも手頃な賃料であるため、テナントの需要が多い。グロースター通りの南側には、小規模で築年数が古く、グレードの低いビルが多く集積する。当エリアは、香港におけるAクラスビルの16%が存在し、オフィススペースの合計は630万スクエアフィートに及ぶ。
- コーズウェイ・ベイ
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コーズウェイ・ベイエリアは、手頃な賃料のハイグレードビルが多く集中しており、その点においては、ワンチャイエリアに共通しているといえる。香港におけるAクラスビルの8%が存在し、オフィススペースの合計は320万スクエアフィートに及ぶ。
- チムサアチョイ
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カントン通りとネーザン通り沿いにはAクラスビルが多く集積する。チムサアチョイエリアには、香港におけるAクラスビルの25%が存在し、オフィススペースの合計は980万スクエアフィートに及ぶ。
オフィスの需要、新規供給、空室率 (2008年第1四半期)
エリア |
新規供給 (ネット面積/sqf) |
トータルストック (ネット面積/sqf) |
空室率 |
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セントラル | - | 13,415,177 | 0.91% |
アドミラルティ | - | 4,037,762 | 1.13% |
ションワン | - | 3,231,488 | 2.59% |
ワンチャイ | - | 6,370,981 | 1.92% |
コーズウェイ・ベイ | - | 3,243,255 | 2.99% |
チムサアチョイ | 732,000 | 9,895,609 | 4.23% |
香港中心地区以外 | - | 5,812,630 | 1.86% |
カオルーン中心地区以外 | - | 10,521,394 | 6.65% |
合計 | 732,000 | 56,528,296 | 3.00% |
香港プライム地区におけるAクラスビルの需要、新規供給、空室率
世界の金融市場における混乱や不安が広がるなか、2008年の香港におけるAクラスビルのマーケットは、2007年に続き好調に推移すると予測されている。一方、アジア・パシフィック諸国の新興マーケットは、2007年と比べ低迷はしているものの、引き続き先進国をしのぐ勢いで経済成長を続けるであろうと予測されている。世界の金融機関の多くは、比較的リスクの低い環境での資金運用による利潤拡大を目指し、アジアや中国において積極的な投資活動を展開している。この結果、2008年第1四半期における香港オフィス需要は引き続き旺盛であった。セントラル、アドミラルティ、ションワン、ワンチャイ、コーズウェイ・ベイ、およびチムサアチョイなどの主要なオフィスエリアでは、延床面積440,840スクエアフィートに及ぶ需要により、対前年比453.9%の上昇を記録。金融機関以外でも、多岐にわたる業種の企業が積極的にビジネスを展開している。具体的なケースとしては、サムスン電子はワンチャイ・セントラルプラザにおいて38,800スクエアフィートに及ぶスペースを賃借し、また、ティファニーは12,300スクエアフィートのスペースを賃借した。今期のオフィス賃貸マーケットは好調に推移しており、主要なAクラスビル全体の空室率は、対前期(2007年第4四半期)比0.65ポイント低下の2.21%となり、過去17年間において最も低い値を記録した。サブプライム問題に起因した金融市場の混乱により、米国およびヨーロッパ諸国は厳しい状況にあるが、アジアにおいては、経済の減速による影響は限定的であるため、世界の金融機関は、中国を含むアジア諸国において今後も積極的に投資活動を行っていくことが予測されており、香港のオフィス賃貸マーケットの先行きは明るいといえる。
香港プライム地区における賃料トレンド
引き続き旺盛な需要に支えられて、主要な商業エリアにおけるAクラスビルのオフィス市況は堅調である。成長率は緩やかなものの、主要オフィスエリア賃料水準は2007年第3四半期と比較して9.1%上昇。月額スクエアフィートあたりの平均募集賃料は71.74香港ドルとなった。セントラル地区における平均募集賃料は9.4%上昇して124.05香港ドルとなった。業務中心地区周辺にあたるションワンでは、大量供給があったため、旺盛な需要も吸収することができた。最も健闘したのはションワンで、2008年第1四半期、月額スクエアフィートあたりの平均募集賃料は11.8%上昇して62.56香港ドルとなった。業務中心地区周辺エリアでは、オフィスマーケットの著しい成長があったにもかかわらず、香港の金融中心であるコアセントラルエリアとの平均募集賃料の差はさらに広がりつつある。コアセントラルに位置するOne & Two ifc, Chater House, Cheung King Centre, AIG Tower,およびYork HouseのようなA1クラスビルの月額スクエアフィートあたりの平均募集賃料は170香港ドルを超える高額にもかかわらず、優良企業による確固たるニーズが存在している。