サプライチェーンのグローバル化は限界に達しているか?
サプライチェーンとは、原材料を加工し完成品を製造し、 1ヶ所以上の工場または生産拠点から最終販売地または消費地にその完成品を輸送するという一連の連鎖的な活動のことである。貿易障壁や輸送費用が相対的に高かった時代は、1社、または1ヶ所に集中して製造した方が費用対効果が高かったが、貿易障壁の撤廃、輸送費の削減、容易な国際通信の確立により、グローバル企業は海外の低コストな地に生産拠点を設立することにより、大幅な経費削減を成し遂げてきた。現在、サプライチェーンは、かつてないほどに、より広範囲で複雑化してきている。1985年から2010年の25年間で、全世界の貿易額が全世界のGDPよりも急激に増加していることなど、グローバルサプライチェーンの進展の確かな証左と見て取れる〔グラフ3〕。四半世紀を経て、サプライチェーンはまさにグローバル化し、新興国にまであまねく広がっている。他のいかなる要因よりも、この点が新興国市場の製造業生産高の発展を促進してきたと言える。
2010年の金融危機の終焉以降、全世界の貿易額の増加は、全世界のGDPの成長と比較してより緩やかになり始めている〔グラフ4〕。一部の産業のサプライチェーンは、生産と在庫をエンドユーザーにより近い所に移すことで、増え続ける“せっかちな消費者”の要求にうまく応えようとし始めている。例えば自動車分野では、消費者は個々の具体的な要望に合わせたオプションで車を注文し、なおかつ早く受け取れるサービスが要求される。 e-コマースの成功がこうしたトレンドに拍車をかけており、消費者が幅広い製品にわたって安価で即時なサービスを期待するようになってきた。迅速な対応と一極集中型の流通システムにより、ある程度まではそうした期待に沿うことも可能であろう。過去10年で物流分野にも大変革があり、工業と物流分野の不動産事業に対する需要も新たなタイプのものが生み出されてきている。しかし、こうしたトレンドの中、ジャストインタイムの製造と納品をサポートするため、メーカーは生産拠点をより市場に近い場所に移転し、主要部品を近隣から調達することで、より迅速に対応することを強いられている。
多くの産業のサプライチェーンは、利益を確保する必要性、新規市場の拡大、そしてより早くより安くより高度にカスタマイズされた注文への対応を求める消費者の絶え間ない要望など様々な点に応えて、迅速に再構築されなければならない状況になっている。そして、より良いサービスの享受には高いサプライチェーン費用が不可避なため、こうした再構築は原価に反映される。
消費者は、幅広い製品を迅速に安く購入すること、そしてもしその商品が気に入らなければ返品できることに慣れてきてしまっている。もっと広く言えば、 e-コマースは明らかに従来のサプライチェーンに挑んできており、メーカー、販売業者、小売業者に対し、高密度の都市環境で消費者向け製品の納品をより迅速に行うよう無理強いしている。
迅速な対応と局所的な配送システムによりこうした要求に対応する一方、巨大消費市場周辺では都市型物流プラットフォームの開発が急ピッチで進められ、次の段階として工業・物流分野の不動産事業の新たなタイプの需要が生まれてきている。状況にもよるが、これらには、多層階倉庫、クロスドッキング型貨物配送センター、ロッカー型受取場所、既存の土地を利用したサービスセンターなどが含まれる。