災害が起きたら第一に考えるべきことは、可能な限り従業員および会社資産の安全とセキュリティを確保し、ビジネス運営の継続と迅速な復旧を図ることです。DRPの具体的な進め方を、ある外資系企業の例を中心に紹介します。
1. 方針策定-災害が起きたら、まず対策本部
DRP(災害復旧計画)のポイントDRP(災害復旧計画)のポイント
方針1: 全社対策本部を中心とした復旧 |
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災害復旧計画(Disaster Recovery Plan)をベースに復旧作業を行う。 |
方針2: 事業復旧の優先度 |
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方針3: クライシス・コミュニケーション |
いかなる者も、本部長、広報の許可なくして個別、単独判断での社会的コミュニケーションを行わない。 |
ステップ1 : 全社災害対策本部を設置、稼働させる
緊急事態発生後、被災した事業所とビジネスの復旧作業を円滑に効率よく行うため、災害対策本部をしかるべき事業所内に設置し稼働させます。
- 経営層、各事業部門およびインフラ担当部門(総務、不動産/施設/IT、リスク管理、人事、経理、法務、広報)からの人員で構成
- 災害対策本部は、被災地から離れた場所に設置する
- 可能であれば、地元の人間を本部に加える(推測判断を回避)
- 現地社員と災害対策本部の連絡方法、手段の確保
- クライシス・コミュニケーション方針の周知
災害状況等、必要な情報はすべてこの全社対策本部に集め、災害復旧計画(DRP)をベースに復旧作業を行います。各事業部門は、個別の復旧プラン(BCP)を策定し、災害対策本部の支援を受け、復旧作業を行います。
ステップ2 : 状況査定
- 従業員および家族の安否確認
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ファシリティ:それぞれのファシリティが安全に使用可能か否かの査定
※安全性に問題があれば、移転、代替案と予算化 - ファシリティ周辺インフラ状況等の把握、復旧の見込み査定
- 各ファシリティの稼働の可否の状況による事業全体への影響査定
- 被災のレベルにより、30日~90日間またはそれ以上の業務混乱を想定する
ステップ3 : 復旧の優先度と具体的プランの策定
最優先するものは、従業員およびその家族を含めた人命の安全です。
- 人の安全確保を最優先(従業員およびその家族)、その次にファシリティ
- 生活状況:水・食料、避難場所の確保を最優先する
- 災害深刻レベルの仕分けと即対応すべき問題の見極め
- 事業継続:遠隔による業務実施が可能かの判断・決定
事 業部門の業務復旧は、原則として早急な顧客支援が必要な業務を優先します。被災状況や各事業部門のBCPに定めた方針等をベースに、災害対策本部長(社 長)の決裁により決定します。各事業部門の責任者と担当者は、BCPを常に最新の状況と経営判断を反映したものにしておきます。
2. 災害深刻レベルの定義による行動
災害が発生した場合の深刻レベルを、日数や内容によって定義し、それに基づいたアクションをとります。
災害深刻レベルの例
軽微な損壊 MINOR Interruption(レベル1) |
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全社および各事業所で、即日復旧可能な軽微な機能低下で、影響を受ける人数も少ない場合。 (例) 全体ではなく、限られた単独コンピュータの機能損失等の軽微なハードウエア損傷 / 地震・火事・雷・水害等による2時間以内の電力供給停止 / 2~3時間程度の全社通信回線の停止 / 地震・火事・雷・水害等による一部の従業員の住宅被害。 |
大規模損壊 MAJOR Interruption(レベル2) |
復旧までの時間に目途がつく範囲の事業所機能の部分的停止で、相当数の関係者に影響が出る場合。 (例) 4時間以上48時間未満の電力供給停止 / 4時間以上48時間未満の通信インフラ機能停止 / 国内地震震度5以上の圏内に事業所・オフィス・多数の従業員住宅・重要顧客がある場合。 |
壊滅的損壊 CATASTROPHIC Interruptions(レベル3) |
事業ファシリティ全体の壊滅的被害で、主な通信関係サービスが機能しない。 部分的機能回復でさえ、相当日数を要する、または目途が立たない場合。 (例) 地震・火事・水害等で事業所の設備が完全に破壊され、大々的な設備交換、補修を要する場合 / 電源・空調等の電気的設備が2日以上使用できない場合 / 通信途絶で外部との接続が全くできない(2日以上)場合。 |
災害による機能停止と影響度(例)
災害による機能停止 | 災害深刻レベル | 影響を受けるもの | ||
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1 | 2 | 3 | ||
1建物の損壊 / 火災 | 建物全体 | |||
外観 | 外壁のクラック(ひび割れ)がある | |||
外装(タイル、パネル等)の剥離< | ||||
敷地周辺に危険個所がある | ||||
窓ガラスに落下しそうな箇所あり | ||||
構造・内装 | 壁面のクラック(ひび割れ)がある | |||
床、天井に破損、剥離がある | ||||
間仕切りに脱落や破損がある | ||||
パイプシャフトや天井裏のクラック | ||||
照明器具に破損がある | ||||
空調、報知機が落下しそう | ||||
設備 | 電気配線の断裂(目視可能範囲) | |||
給排水管の破損(目視可能範囲) | ||||
2電力供給停止 | エレベーターが使えない | |||
照明が使えない | ||||
各サーバーが使えない | ||||
PCが使えない | ||||
コピー機が使えない | ||||
空調設備(冷暖房)が効かない | ||||
FAXが使えない | ||||
IDカードが使えない | ||||
セキュリティが維持できない | ||||
入出門が開閉しない | ||||
自動ドアが開閉しない | ||||
3通信回線不能 | 電話が使えない | |||
E-mailが使えない | ||||
ネットワークが停止 | ||||
ITサービスが使用不能 | ||||
FAXが使えない | ||||
複合機の情報が入手できない | ||||
4交通手段不能 | 電車 / バスが動かない | |||
出勤 / 帰宅ができない | ||||
出張に行けない | ||||
5輸送手段不能 | 製品が出荷できない | |||
部品 / 郵便物が届かない | ||||
6水道供給停止 | トイレが使えない | |||
飲み水が不足 | ||||
食事が作れない | ||||
シャワーが使えない |
阪神淡路大震災や今般の東北地方太平洋沖地震において、一部の被災地域ではまさに壊滅的損壊(CATASTROPHIC)レベルであり、レベル3の対応が必要となります。災害による事業所機能停止、深刻レベルとその影響は、各インフラ部門で定義し、一覧表にしておくことが望ましいと言えます。
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3. 通報および初期対応
通報および初期対応について、フローチャートで全体の流れを説明し、それぞれの責任と判断基準を明確にしておきます。これによると、深刻レベル1程度は総務部内で処理し、レベル2以上となると全社対策本部設置で対応することとなります。このフローが機能するかどうかの検証のために、仮想訓練をしておくことも必要でしょう。

災害復旧手順

4. インフラ復旧
被災した事業部門や機能が復旧計画を実行できるよう、被災場所のインフラを早急に立ち上げます。担当役員のリーダーシップの下、インフラ担当部署(総務、不動産/施設、環境、人事、経理、法務、情報技術、広報)は総力を結集してインフラ確保等に努めます。
インフラ担当責任者は、インフラ復旧計画の企画、立案を行い、原則的には災害対策本部長(社長)の承認のもと実施しますが、実行案の規模が小さい場合や、急を要する場合は、自らの判断(権限委譲)で実行します
1.MALO(最低限の業務水準)実行のための条件
MALO(Minimum Acceptable Level of Operation)は、各事業部門のBCPに定義する必要があります。事業所毎のインフラとしての必要項目には、次のようなものがあります。
- 人命の安全を保つことができる
- 建物の安全確認がされている
- 電力が供給されている
- 通信回線が機能し、情報サービスが使用できる
- 輸送、交通手段が確保されている
さらに、以下の2点もあれば望ましいでしょう。
- 水が供給されている
- ガスが供給されている
2.被災した事業所のインフラ確保のために必要なリソース(人・設備)
- 地震等被害が広域に及ぶ場合、人命の安否確認のため、人事部門が中心となって対策本部の指示、支援を受け対処します。
- 建 物損壊、火災でのスプリンクラー放水後の水の除去等復旧処置は、施設担当部署を中心に進めます。施設担当部署は、外部リソース、インフラ関連企業との日頃 のコミュニケーション、復旧リソース一覧表等を準備して、いつでも復旧に短時間で取り組めるようにしておくことが大切です。
- 通信回線、情報サービスは、情報部門のBCPに従い復旧計画を実行します。
3.インフラ確保達成のためのステップ
被災した事業所のインフラ確保を達成するためのアクションをステップに分け、優先順位を付けておきます。同時に、各ステップを誰が責任を持って実行 するかを明確にします。責任者は氏名だけではなく、復旧チームの中での役割を明記します。当該人物に連絡が取れない時に、チーム内での役割分担が明確でな いと、代行する場合に支障が出るおそれがあります。
4.インフラ確保が計画通り達成されているかどうかの判断基準
復旧計画に従って復旧が実施された結果、インフラ確保が予定通り達成されたかどうかの評価を行います。この際、何をもって達成と判断するかをあらかじめ決めておき、災害時の混乱の中で冷静な判断をするための基準とします。
5.インフラ確保が達成できない場合の処置
所定の期間内に、被災した事業所のインフラ確保が達成できないことが判明した場合の手順について、手続きを明確にしておきます。達成が不可能である ことを知らせるべき人・グループは、そのことによる影響を一番受ける事業部門・機能であるのは当然ですが、検討する代替案も併せ、できるだけ早い時機に伝 え、途中経過も継続報告します。
※2011年4月版 節電マニュアルより、表紙のみの変更で内容自体には変更はありません