現在、多くの企業においては災害復旧計画(DRP)の実施段階において、緊急の災害復旧の初期対応・避難の段階が進行中か終息を迎えつつあり、インフラ復旧に奔取り組まれている段階ではないかと推測されます。
DRP(災害復旧計画)策定のポイント
1.被害評価
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建物評価:管理部門の目視だけでなく、できるだけ早急に建設会社・設計者等の目視報告を求める必要があります。
テナントの場合はオーナー・管理会社へ要請、地方拠点については現地担当者に同様の要請をしてもらうことが必要となります。 - インフラ評価:建物以外に、IT系インフラであればシステム部門もしくはパートナー各社にて確認作業が必要です。
2.情報提供
事業活動の状況、ロケーション、フローの変更が発生するものと予想されますが、復興作業・事業再開に対しての細かい情報提供が、従業員およびその家族への安心感を与えることとなります。
3.オフィス機能点検
細かいことよりも優先順位をつけて対応することが重要です。例えばオフィス家具施工、引越しなどの専門業者には、要請が殺到しているものと想定されます。限られたリソースで必須の対応をするためにも、事業再開に必要最低限のものだけという方針をスピーディに立てる必要があります(社員方々は自分の周りのことを我先にと強く要請してくる場合もあります)。
4.被災従業員援助
直接被害の確認と支援はもちろん、メンタルケア専門者からの情報提供も大切です。特に大黒柱が出勤で昼間不在になることへの家族の不安に関して、定時連絡を推奨するなども有効です。
5.周辺住民(企業)への協力
住民への支援に加えて、他企業で不足しているリソースなどの提供が可能であるならば、重要な社会貢献となります。
DRPの実行においては、経営陣とインフラ担当部門(総務、不動産/施設/IT、リスク管理、人事、経理、法務、広報等)が被災現地とコミュニケーションを密にとりながら、事前に災害対策プランが策定されていれば実際の状況を見比べながら、実施内容を至急に見極め、実施していきます。
建物安全確認で今ある社員の不安に対応
今回、都心のオフィスビルにみられるダメージは内装のみのものであることが大半のようですが、余震が続いている状況においては、従業員から「また揺れても大丈夫なのか」といった不安の声が聞かれています。
テナントビルであれば、ビルの管理会社などを通じてビルの施工会社に安全の確認を要請することになりますが、状況によっては第三者である外部コンサルタントからの客観的な裏付けも、安心の確保に対しては効果的です。テナントとしても、そのビルの耐震性能を把握し、発生した地震の規模・震度、また災害後の建物の状況から安全性を裏付けるために、誰にどのようなアクションを取るのがふさわしいかを判断します。
こうしたプロセスや進捗を社内へ情報開示することで、従業員は安心し、DRPあるいは通常業務を進めていくことに、より集中できるようになります。
災害後の建物の安全確認のポイント
外観(一次的確認)
- 外壁のクラック(ひび割れ)の有無を点検する。
- 外装の仕上げ(タイル・パネル等)で剥離・落下しそうな箇所の有無を点検する。
- 敷地周辺を点検し、出入りに関して、危険箇所の有無を点検する。
- 窓ガラス等を点検し、落下しそうな箇所の有無を点検する。
構造・内装(一次的確認)
- 壁面のクラックの有無を点検する。クラックは表層の仕上げのクラックであれば、問題ない。
- 躯体を覗くことが出来る箇所(パイプシャフトや天井裏)において、クラックの有無を確認する。
- 天井を点検し、ボードや設置されている設備(照明器具・空調・報知機等)が落下しそうな箇所がないかを確認する
オフィス機能
- 要援護者(視力、歩行等に障害のある方)の席を万一に備え、更に安全かつ避難しやすい場所へ移動させる。
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オフィス内で床、壁、天井、什器備品などを全体的に目視し、
人体に危険の及びそうな箇所を優先的に立ち入り禁止、移動など行う。 -
マシンルーム内が正常稼働しているか被害確認をする。
サーバー等の転倒、落下物による破損、電源供給状態を確認する。 - 電話、ネットワークの状態を確認する。全社一斉もしくは各部門ごとに要請する。
- カードリーダおよび電気錠等セキュリティが正常稼働しているか確認する。
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間仕切等の脱落や物体による破損などを確認する。各扉について開閉状態を確認し、
不具合のある箇所については修理完了まで開放状態にしておく。 - 什器・備品・機器で転倒、移動しているものに優先順位をつけ、復旧もしくは復旧作業手配をする。
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転倒しなかった什器・備品についても、固定状況が充分であるかどうかを確認する。
壁や床の固定部、頭繋ぎなどが脱落していないか等。 - 窓側へ転倒、衝突のある什器、機器などは壁や柱の前に移動する。
- 複合機、FAX、プリンタ等が正常稼働しているか確認する。
関係者へのアクション
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従業員へのアナウンスをする。確認された被害状況と建物は安全であるということ、
EVやセキュリティ、電気、空調等の利用はビル側もしくは会社からの指示に従うことなど。 -
ビルのPM(プロパティマネジメント)会社や管理会社、またはそれらを通じて、ビルの施工会社に安全性の確認を要請する。
- まずは簡易確認によって、地震による損傷箇所の確認を行わせる。
- 【安全な場合】口頭、または文書にて、点検の結果を伝えてもらう(安全であるという保証まではされない)。
一般通念
- 建物が着工された時期から、旧耐震基準による建物か 新耐震基準による建物かを把握しておき、発生した地震の規模・震度を確認の上、倒壊の危険性等を考慮する。
参考
「旧耐震基準は1981年5月以前に建築工事を着工した建物に定められた耐震基準である。これは中地震(M5~7)を想定しており、震度5強程度の揺れでも倒壊せず、破損したとしても補修することで生活が可能な耐震基準である。 新耐震基準は1981年6月以降着工の建物に定められたもので、巨大地震(M8~)を想定している。震度6強~7程度の揺れでも倒壊しないような耐震基準である。」
以上の点検結果等を総合的に勘案し、安全性の判断を行う。