新規供給の竣工の遅れが賃貸借契約の延期を相殺
景気が終盤にさしかかっていたことを背景に、アジア太平洋の一部地域のオフィステナントの間では、年初時点で既に警戒感が漂っていた。ウィルスの流行以来、この傾向はさらに強まっている。オフィス需要への影響が特に強くみられるのが中国で、まとまった面積の賃借を検討していたテナントが決定を延期する事例も複数みられている。とはいえ、感染拡大が収束すれば、2020年Q2中にもリーシング活動は上向くと予想される。
既に内装工事を進めているテナントは、工事の遅延を受け、内装工事期間の延長を求めている。中には、当初は中国で計画されていた設備投資予算が他地域に振り替えられたため、中国でのオフィス移転計画を延期せざるを得ないようなケースもみられている。一方、契約を更新するテナントの多くは、将来的な人員の増減に対応できるよう、より柔軟な契約内容を求めるようになってきている。
一方、アジア太平洋地域における他の地域のオフィス市場への影響は軽微であるとCBREでは考えている。その理由として、(1)オフィス需要の牽引役が(中国企業ではなく)国内企業であること、もしくは(2)現状の空室率が極めて低いこと、あるいは(3)新規供給が限定的であること、などが挙げられる。従って、ウィルスの感染状況が落ち着けば、不動産業界ではオフィスセクターが最初に回復する可能性が高い。したがって、アジア太平洋地域における新規需要は2020年を通じて堅調と予想する。ただし、新規需要の増加率については、足元の弱さを考慮し、対前年比+5%強としていた従来の予想を同横ばいに下方修正した。
オフィス賃料の見通しについては、予想の下方修正は香港を含む中国の一部の市場にとどまっている。また、中国においても賃料の修正幅は小幅にとどまる見込みだ。というのも、オーナーの一部(特に国営企業)は、長めのフリーレントやレントホリデーを導入することで、表面賃料の値下げをなるべく避けようとしているためだ。さらに、2020年に竣工が予定されていた新規供給の10%あまりが工事の遅延を理由に竣工時期を延期しており、このことが供給の余剰感を緩和している。香港の賃料に対する下落圧力は比較的強めとみられるものの、下落は上期に集中する可能性が高く、その大部分は昨年来継続している市場の軟調さに起因していると考えられる。
市場 | 影響 | 最新2020年 グレードA賃料予想 (2020年2月現在) |
CBREの見解 |
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中国本土 | 中程度 | 北京:-1.3% 上海:-4.0% 広州:0% 深セン:-4.5% |
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香港 特別行政区 |
中程度 | -10.0% |
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台湾 | 軽微 | 2.3% |
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シンガポール | 軽微 | 0% |
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日本 | 軽微 | 東京:-0.1% |
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韓国 | 軽微 | ソウルCBD:0.6% |
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インド | 軽微 | グルグラム(コア):1.0% ムンバイBKC:1.7% バンガロールORR:4.5% |
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オーストラリア | 軽微 | シドニー:1.7% メルボルン:2.3% |
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ニュージーランド | 軽微 | オークランド:-0.3% |
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ベトナム | 軽微 | ハノイ:1.0% ホーチミン市:1.4% |
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タイ | 軽微 | バンコク:3% |
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