大学が誇る「疲労研究」の拠点を、大阪の中心部に構築。
産・官・学・医・消費者の連携で、健康科学分野でイノベーションを興す。
大阪市立大学 法人企画部広報課 課長代理兼担当係長 古澤 美香氏
大阪市立大学 大学運営本部研究支援課 担当係長 伊藤 大輔氏
健康に関心の高い企業・ワーカーの、双方にアプローチできる好立地。
本学は、8学部11研究科の多彩な学問分野を基盤とする都市型総合大学です。住吉区杉本地区に本部、阿倍野に医学部、梅田に小さなサテライトがありますが、大阪駅・梅田駅界隈、いわゆるキタエリアにしっかりとした足場がなく、「ぜひ大阪の一丁目一番地、最新の開発エリアに進出したい」という当時の学長の思いもあり、2013年7月、ナレッジキャピタルに「大阪市立大学健康科学イノベーションセンター」を開設しました。元々、大阪市から「この拠点で大学の活動をしてはどうか」とアプローチがあったことが直接のきっかけでした。
「健康科学」をテーマにしたのは、本学を代表する研究者、渡辺恭良先生の専門分野が疲労研究だったことが理由です。国内の疲労研究では第一人者である渡辺先生が初代センター所長に就任し、産・官・学・医・消費者が連携できる疲労研究の基盤となる拠点の創出を目指しました。
研究室というと顕微鏡や実験器具が置いてあるラボをイメージするかもしれませんが、我々がこのセンターで行っているのは、人を対象とした臨床研究です。しかも、必要なのは、病気の方ではなく健康な方のデータ。薬の治験の場合、被験者となる患者さんは病院でリクルートできますが、例えば企業との共同研究で疲労測定データを新製品開発につなげたい場合、病院で健康な被験者を集めることはできません。その点、ナレッジキャピタルはグランフロント大阪という大型複合施設内にあるため、多くの健康な方々にアプローチできますし、テナントとして入居するオフィスで働く方々のご協力も期待できます。疲労の測定は、被験者にパソコンの課題に取り組んでもらうことで負荷をかけ、その後の採血や自律神経の測定などを組み合わせて行います。社会と接点を持ちながらイノベーションを興していきたい我々にとって、企業と被験者の方の双方にアクセスしやすい施設に居を構えることに、大きなメリットを感じています。
約3,000人の測定データをもとに、健康予測ツールを構築する共同研究。
ここでの代表的な成果の一つに、理化学研究所との共同研究「健康“生き生き”羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム」があります。ビックデータをもとに将来の健康状態を予測するツールを構築するため、約3,000人の健康な方々の疲労測定等をこのセンターで実施しました。ナレッジキャピタルの入居者や、グランフロント大阪のオフィスタワー内の企業にもご協力いただいて被験者を集めました。多くの企業やワーカーの方々から協力を得られたのは、ナレッジキャピタルが「多様な人々の交流からイノベーションを生み出す」をコンセプトにする場所だからでしょう。
この他にも、産学連携の取り組みとして、7階に大阪市が開設した大阪イノベーションハブと連携し、ヘルスケア分野の事業創出について企業とブレーンストーミングができる場を設けたり、企業コンソーシアムを立ち上げて大学の先生方と勉強会を開催した実績もあり、ここから実際に、産学連携の事業に発展した事例もあります。また、一般向けの健康測定イベントを行い、興味のある人に「健康見守り隊」に加入してもらうことで、測定データを企業の製品・サービス開発に活かす取り組みも行っています。
2018年度からは、スポーツ科学を専門とする岡崎和伸先生がセンター所長を引き継ぎました。健康科学に加え、将来的にはスポーツ科学の研究も本センターで進めていきたいと考えています。また、2022年には大阪市立大学と大阪府立大学が融合し、「大阪公立大学(仮称)」が誕生します。12学部・学域、15研究科(設置構想中)の多彩な学問領域を有する日本最大規模の公立大学とナレッジキャピタルの連携も期待されています。