渋谷駅西口前という一等地に立地する「渋谷駅前会館(飯島ビル)」。
竣工後50余年の時を経ても、人々に親しまれるビルとして存在感を放ち続ける、そのビル経営のポイントとは?

飯島興業株式会社
取締役統括部長
飯島 朋央氏

飯島興業株式会社
管理部
佐々木 紀之氏
高度成長期の渋谷のランドマーク
「渋谷駅前会館(飯島ビル)」の歴史は、飯島興業株式会社を創業した飯島 吉堯氏の祖父が、当ビルの建つ土地を投資および居住用に購入した明治40年(1907年)に遡る。当時は敷地の隣に、多摩川の砂利を運搬する軌道線・玉川電車の終点があり、砂利と旅客を乗せた電車が走るのどかな風景だったという。
昭和になり吉堯氏がこの地を相続するも、戦後十余年間は地権者としての権利の行使もままならない混乱期が続いたが、昭和35年(1960年)にようやく区画整理が完了。飯島興業を設立し、開発に着手することとなった。
吉堯氏は当初、当ビルの用途を事務所にするか店舗にするか迷ったが、東京オリンピックを3年後に控えて渋谷駅の改築も進行し、建設地が渋谷の中心地になることを見込み、また地元の要望もあり、商業用ビルとすることを決めた。
その当時のテナントには、食料品やカメラ、ブティック等の物販店をはじめ、喫茶店、レストラン、クラブなども入居し、デパートとは趣の異なる複合商業ビルとして、昭和36年(1961年)11月にオープンを迎えることとなる。開館記念のパンフレット(右下)を見ると、各界の多数の著名人がコメントを寄せており、当ビルがいかに注目を集めていたかが分かる。
稼働率を高めるビル経営のポイント
華々しく竣工した同ビルであるが、約50年の年月を経て、近年はビル経営を取り巻く環境が大きく変化しているという。同社取締役統括部長 飯島 朋央氏は語る。
「ここ数年感じていることの一つに、テナントリーシングの難しさがあり、募集期間が1年というときもありました。新築ビルや大型ビルの供給が増えてきたことで、近年、借り手側がビルに求める内容も多種多様になってきています」。単に立地の良さだけでは誘致競争に勝てないため、「日常のメンテナンスや小修繕、大規模修繕においても投資を惜しまずに、ビル共用部や設備など時代に合わせて変更、改修しています。また、入居されているテナントとの日々のコミュニケーションも大切です」。さらに、「テナントリーシングを確実に行える不動産会社との協力も、必要不可欠だと考えています」ということである。
テナントリーシングに関し、ここ数年で特に印象に残った取引について、管理部 佐々木 紀之氏は語る。「6ヶ月間、数件のテナント候補があるものの、なかなか成約に至らない空室がありました。そこで、今まで取引していた不動産会社との専任媒介契約を一般媒介契約に切り替え、様々な不動産会社と取引を開始したところ、不動産サービス会社のCBREより、当ビル近隣で駅前に移転されたいという大手企業のご紹介の話があり、契約の調整を行うことになりました」。
先方は大手企業であるため、コンプライアンス上必要な手続きも、他のケースと比較して多くの時間を要したという。「その間、当然のことながら、他に出店を希望されているテナント候補のお話はお断り申し上げており、心中穏やかではありませんでした。特に契約書の内容のすり合わせでは、様々なご要望があり、難航する局面もありました。しかし、CBREの担当者は、双方の調整役で間に入り、無事に契約を締結することができました」。
今回のCBREの仲介サービスについては、「他社と比較して、仲介業務そのものの内容に加え、コンプライアンス意識の高さ、不動産取引にかかわる知識の豊かさも含め、安心して取引できる内容でした。今後とも、継続的に取引していきたいと考えています」との評価であった。
当ビルのオフィスフロアは6階部分のみで、他フロアは全てスケルトン仕様(1フロア約135坪)。スケルトンから店舗仕様にするには多額の初期投資が必要となるため、テナント候補はある程度体力のある企業に絞られるが、現在はほぼ満室で稼働している。
開発めざましい渋谷の中心地で
当ビルが竣工した昭和36年(1961年)の渋谷駅周辺は、東京オリンピックを3年後に控えてオリンピック道路の建設や渋谷駅の改築などが進行。時代はまさに高度成長期ということもあり、発展著しい状況であったという。
「あれから53年後の現在も、東京オリンピック・パラリンピックを6年後に控えて、今の国立競技場を取り壊し、新国立競技場を建設するなど、渋谷駅周辺ではすでに大型の再開発がいくつか進められています。しかし、それら全てが終わり、数年が経過すれば、渋谷の街も落ち着くでしょう。落ち着いた後も、人の流れや賑わいを維持することができるか、外国人観光客も引き続き渋谷を訪れてくれるか。その時こそが渋谷の街にとって本当の勝負の時だと思います。当ビルは竣工後半世紀を過ぎ、建て替えを検討する時期を迎えていますが、オリンピックブームが去り、渋谷の一連の再開発が終わった後の街の将来の方向性を見据えて、街並みに調和した建て替えに着手したいと考えています」。(飯島氏)
建物概要 | |
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所在地 | 東京都渋谷区道玄坂1-3-1 |
構造 | 鉄骨鉄筋コンクリート造 |
規模 | 地上9階、地下2階 |
竣工 | 1961年11月 |
お問い合わせ
飯島興業株式会社
管理部
TEL:03-3462-0361