1. Eコマースの利用状況
回答したリテーラーの約9割がEC販路を持っていることが分かった。そのうち、自社ならびに他社※1のEC販路を持っているリテーラーが48.8%、自社のEC販路のみが34.1%と続いた。業種でみると、自社ならびに他社のEC販路を持っている割合が高かったのは「ファッション」である。当初(04年頃)はネットで服は売れないと言われていたため、ほとんどのファッションリテーラーはモール型ファッションECサイト(つまり他社のEC販路)のみを通じてネット販売を行っていた。しかし、こういった販路を通じた売り上げの増加に伴って「ネットでも服は売れる」と認知されはじめたことで、多くのリテーラーが自社のEC販路も立ち上げたと推察する。
一方、自社のEC販路のみという回答が多かった業種は「ラグジュアリー」である。ラグジュアリーブランドの多くは、ブランドのアイデンティティを武器に独自の価値を高めることで固定客を作っている。消費者もまた特定ブランドの固定客となっているケースが多い。そのため、異なるブランドが並べられることで独自色が希薄化するリスクのある他社のEC販路は、ラグジュアリーブランドには敬遠される傾向があると考えられる。
2.EC化率
回答したリテーラーの約4割が、Eコマースを通じた売り上げが自社売り上げ全体の「5%未満」と答えている。これは、2017年の物販系分野のEC化率※2(5.79%)を下回る値である。自社のEC販路だけを利用しているのか、それとも自社と他社の販路の両方を利用しているのかによって、EC化率は影響を受けているようだ。「5%未満」と回答したリテーラーの5割超は自社のEC販路しか持っておらず、そのほとんどが「ラグジュアリー」リテーラーであった。一方、自社ならびに他社のEC販路を持っているリテーラーのEC化率は比較的高い。自社と他社の両方のEC販路を持っているリテーラーは、EC化率が「5~10%未満」という回答結果では6割、「10~20%未満」では8割を占めた。
EC化率が「20%以上」と回答したリテーラーの多くは、比較的早い時期から自社ならびに他社のEC販路を構築していたケースが散見される。中には、Eコマースでの販売からスタートしたリテーラーが、市場規模の大きいリアル店舗の出店を加速したことで、現在ではEC化率が30~40%未満になるなど、リアル店舗からの売り上げがEコマースを上回ったところもあった。なお、本アンケートではEC化率が40%以上と回答したリテーラーは極少数だった。
3.リアル店舗のショールーム化
Eコマースで買い物をする消費者が増えることによりリアル店舗でモノが売れなくなる、いわゆるショールーム化※3を指摘する報道が散見されるようになった。しかし本アンケートでは、EC市場の拡大が原因となってショールーム化したリアル店舗はない、と回答したリテーラーが8割を超えている。現状では、リアル店舗の市場規模がEコマースの約7.6倍も大きいため、リアル店舗のショールーム化を感じているリテーラーは少ないようだ。また、どの販売チャネルからも消費者がスムーズに商品を購入できるオムニチャネル※4を構築しているリテーラーは、リアル店舗のショールーム化をむしろ推奨している。つまり、リテーラーによってはショールーム化をネガティブに捉えるのではなく、新たな店舗のあり方とみているようだ。
一方、ショールーム化したリアル店舗がある(19.3%)と回答したリテーラーの業種をみると、ファッションや家具・雑貨を扱うリテーラーが多い。これらの業種は、商品のサイズやカラーが豊富であるため、実際の購入はネット上がメインの販路となりつつあるようだ。特に家具などの大型商品は、Eコマースのほうがサイズなどを細かく記載でき、配置イメージも分かりやすい。ただし、実物を試着する、または見なくては購入を決められない消費者が一定数いるために、ショールーム化したリアル店舗の運営も続けていると推察する。こうしたリテーラーは概して、店員の接客やサービスに力を入れようとしていることが、本アンケートの別の質問から明らかになっている。消費者との関係性を深めることで固定客を増やし、ひいては売り上げ全体に繋げたい考えだと推察する。
※1 : ZOZO TOWN、Amazon.com、&mallなどのECサイト
※2 : 経済産業省が発表した、小売の売り上げ全体に対するEC売り上げの比率
※3 : ショールーム化とは、消費者がリアル店舗で確認した商品をその場では買わず、Eコマースで購入すること。リアル店舗の売り上げが毀損される原因となる
※4 : リアル店舗やEコマースをはじめとするあらゆる販売チャネルや流通チャネルを統合し、それによりどの販売チャネルからもスムーズに商品を購入することができる環境を実現すること