地震に強いオフィスを考える時、重要なポイントとなる電力供給。震災以降、ビル受電方式や非常用発電機(以下非発)へのテナントの関心は確実に高まっている。小誌2012年夏季号企画「オフィスへの電力供給を考える」において一度特集したが、再度、テナント用非発の設置コストを重点にまとめてみる。
右地図は、同号掲載の「非常時にテナント給電が行われるビル」を再編集したもの。今回はコージェネビルや本線予備電源方式のビルは除外し、専有部給電のみに絞ってプロットしている。一部の突出した補助電源を有するビルを除き、よく見られるのが「非常時に10〜20VA/を専有部に給電する」というスペック。これをテナント側の非発設置で確保する場合、一体どの程度のコストがかかるのかを考えてみた。
前提条件は、地上20階建、フロア450坪の賃貸ビルで、ワンフロアを100人で使用する企業が、敷地内地上部にあるテナント用非発設置スペースに、15VA/の電力を72時間確保できる非発+燃料タンクを設置するというもの。この場合の発電機購入と設置工事のイニシャルコストを算出する。
まず機器本体だが、同条件であれば15VA×450坪でおおむね22kVAの負荷だが、ワンランク上の30kVAの発電機を選定(200万〜300万円)。これを72時間運転させるために必要な燃料タンクは600L(100万〜150万円)。この設置工事や各種の申請手続きにかかるコストが300万〜450万円程度が見込まれる。続いて設置した非発からビル受変電設備への接続にかかる費用だが、構内キュービクルに接続する工事費用が100万〜150万円。テナント専用として専用線で供給する場合は専用の変圧器盤が必要となり、この設備設置費用に200万〜300万円。新規幹線工事として100万〜150万円。これらをすべて合計すると、非発を設置しその電力をオフィス内に引き込むためには、最低でも1000万〜1500万円のコストがかかる計算となる。
これは比較的容易かつ安価な屋外地表面への非発設置のケースであるが、設置スペースが屋内や地下階、屋上という場合はさらに多様な要素を考慮しなければならない。下記に非発設置場所による条件の違いをまとめてみた。
発電機設置場所/地上面 | 発電機設置場所/地下階 | 発電機設置場所/屋上 | |
---|---|---|---|
内燃機燃焼空気 | 自然取入可 | 機械室へ取入必要 | 自然取入可 |
冷却空気 | 自然取入可 | 機械室へ取入必要 | 自然取入可 |
排気ガス | 大気開放 | 機械室外へ排気必要 | 大気開放 |
燃料タンク | 機械近傍へ設置可 | 内容 | 機械近傍へ設置可 |
燃料給油 | 容易 | 比較的容易 | ポンプが必要 |
特に地下階に設置する場合、内燃機であるため給排気と冷却が必要となり、それらに対して給排気ダクトや煙道設置の費用が発生する。これらは安く見積もって500万円以上はかかり、ダクトや煙道の距離が長くなれば送風機等のキャパシティも大きなものが必要となりコスト高となる。また地下階のみならず屋上への設置も、ポンプや送油管などの付帯設備が、その距離によってコストを左右する。
非発設置工事全般に言えることだが、これらは通常停電を伴う工事となりその対策費用や、工事時間帯も日中ではなく夜間もしくは休日となりその割増費用、建物内であれば消防署の指導により消火設備の変更が必要となり、その費用を負担しなければならないケースもある。発電機が大きくなると排煙発生施設や騒音発生施設としての届出が必要となることもあり注意が必要だ。今回は設置時のイニシャルコストに関してのみの試算だが、燃料費や維持管理費、さらには原状回復費用も忘れてはならない。
「非発設置スペースあり」という前提であっても賃貸ビルへの非発導入は敷居が高く、右地図で示したビル群の優位性は言わずもがなである。ただし、こと非常時における確実な給電となると、ビルオーナー任せではない自社所有の発電機に軍配が上がるのも確か。今回のコスト試算を一つの参考に、ぜひビル選びと非常時におけるオフィスへの電力供給について考えてみてもらいたい。