所有と利用の分離が進み、より安全な施設をプロが開発・運営する流れに。
GLプロパティーズ株式会社
常務執行役員
帖佐義之氏
まずは御社の概要をお教えください。
当社は、物流施設の開発・運営を目的に2009年3月に設立され、現在は全国の7つの都市で事業を展開。日本最大の物流施設運営会社として総延床面積280万㎡の規模を誇っています。
これは、約1000万㎡の規模があるとされる「モダン・ロジスティック・プロパティ」のセクターにおいて、約30%のシェアを占めるものです。
昨年には株式上場も果たされました。
2010年10月、シンガポール市場に上場したのですが、不動産会社の新規上場としては、世界最大規模の2500億円を調達するに至りました。
国内で運営している69棟の施設では年間300億円程度のキャッシュフローを生み出しており、その収益を現在、成長が著しい中国に投資する『安定と成長』の組み合わせというストーリーが評価されたのでしょう。
御社の施設が注目されるのは、安全性が評価されてのことだといわれていますが。
日本で初めて免震構造を取り入れた物流施設は、当社が所有する「GLP大阪」です。このことからもわかるとおり、当初から免震装置の導入にはこだわりを持っていました。
今回の地震で新たに得た大きな教訓は、「免震は建物だけでなく、荷物を守るものである」ということ。
図らずも今回の震災で、装置を導入しているかどうかで、荷物の状態が明らかに違うことが露呈しました。
建物は無事なのに、荷物の被害が出たケースがたくさんあったのです。
免震倉庫はいわば保険のようなもので、大きな災害が起こってみないと、その効力はわからないものです。ですから例えばBTSの施設など、これまで導入を提案しても、特にコストの観点から理解が得られないケースが多々ありました。
ですが震災以降、「免震倉庫に入居していれば、地震保険に加入しているのと同じような効果が得られるだろう」という話を、物流会社の方々からも聞かれるようになっています。
つまり、お客様の意識も変わってきているということ。我々はデベロッパーの社会的使命として、より高性能で安全を担保する装置を、積極的に導入していくべきだと考えています。
最先端の免震装置の開発を進めているとうかがっています。
ええ。現在、当社が開発している免震装置の最大の特徴は、建設地の土壌を選ばないことです。従来の工法では、土壌がしっかりしていなければ建設できず、もしそうでなければ土壌改良が必要で、そのために大きなコストがかかることがありました。新しい装置は、どのような土壌にも対応するのでコストも抑えられますし、汎用性が大きく広がり、より使いやすいものになるはずです。
ところで、今回の震災では不動産を所有するリスクが明確になったという意見がありますが。
かねてから、一般の企業が不動産を所有するのはどうなのか、資産を減らして経営資源を本業に集中すべきではないかという議論がされてきました。これは物流施設についても同様で、かつてはメーカーが倉庫を所有し、その物流子会社が運営するという形態から、次第に所有は施設運営のプロに、運営は3PL事業者に委託するという形態が多くなってきており、そこに我々のビジネスチャンスもあったわけです。
今回の震災では、倉庫に限らず多くの不動産が打撃を受けました。このことで、不動産価値が減損するという可能性が、誰の目にも明らかになったわけです。こうしたリスクを避けるために、賃貸施設を活用するという潮流は、当然、加速するものと思います。
特に物流についていえば、この十数年で、求められるサービスのクオリティが大きく変わり、「より速く・より正確に・よりきめ細かいサービス」を、コストを維持しながら提供していかなければなりません。
これを実現するために、大型・多機能の倉庫へのニーズが高まってきています。つまり、荷主様や3PL事業者様にとっては、我々のようなプロに施設マネジメントをゆだねることで、また我々は、多くの物件をマネジメントすることで、リスクを分散させることができるわけです。お互いが、その専門性を活かしたビジネスを行うことが得策だと考えます。
物流施設運用のプロとして、地震後も非常に速やかにテナントへの対応が行われたと聞いています。
それは、当社がインハウス・オペレーションであることと関係しています。会社設立当初から「災害時緊急連絡マニュアル」があり、災害が発生すると自動的に初動が取れ、被害状況が確認できる体制を構築しています。
そのため、その報告を基に的確な指示ができるのです。例えば、修復に必要な業者の手配なども非常に迅速に行うことができ、それが結果として、すばやい事業復旧につながったといえます。こうした動きは、施設自体に責任を持ち、働く人の身になって考えることができる"コーディネーター"がいてはじめてできることであり、手前味噌ながら、所有のプロのオペレーションのなせる業と自負しています。
また、なかには想定外の不具合もあり、少なからずご迷惑をおかけしたことも事実ですが、起きたことを真摯に受け止めて原因を究明し、今後、どう改善すればいいのかという、再発防止の対策を講じていこうと考えています。
物流施設所有のプロとして、投資家に対する迅速な対応もリスクヘッジのひとつと。
我々には、施設利用者の安全確認及び、建物の被害状況の把握とすばやい復旧・再開というマネジメント業務の遂行と同時に、上場している会社として株主様への説明責任もあります。
そこで、現場に到達したスタッフからの報告を基に、インハウスの技術者が、各施設のおよその被害額を見積り、震災翌日の3月12日には概算額を、14日にはより精査した被害総額をプレス発表しました。
実際の被害額は、総資産6000億円弱に対して30億円程度の損害で済んだのですが、それをいち早く発表したことの反響は、大変、大きなものでした。どうなっているのかわからないという状況が一番の問題となります。
今回は、株主や証券アナリストの方々の不安を早く取り除くことができたために、株価への影響はほとんどありませんでした。その意味では、IRの責任も果たせたのではないでしょうか。
今後の施設開発で重視する点は。
一言で言えば、今回の震災による教訓を最大限に活かした施設づくりであり、安全に対する取り組みが、最重要課題でしょう。その代表が、災害の予防に効果を発揮する新しい免震装置の開発と導入ということです。
もうひとつは緊急対策で、いざ災害が発生した際には、避難拠点となり得る施設づくりです。これは地域への貢献という社会的な意味合いのあるもので、その中には食糧や飲料水、生活用品などの備蓄も含まれています。
そして、もうひとつが環境共生=サスティナビリティです。というと、建物の永続性や風力発電といったハードの部分を思い浮かべがちですが、広義に解釈すれば、持続可能、つまり長期間、価値を持ち続ける施設といえるわけで、ソフト面の拡充も重要な要素になります。
そのキーワードは「多様性」であると考えています。
社会の進歩のサイクルが、これまでの1/2 1/3と早くなっているのに対して、不動産は一度開発してしまうと50~60年というスパンで価値を維持し続ける必要があります。
そのために、ハード面では施設のスペックや使い勝手の汎用性などが重要であり、一方、ソフト面では、例えば契約のあり方や、管理の会社のサービスの提供の仕方などを顧客のニーズに合わせて提供できるよう、多くのメニューを持つことがポイントだと考えます。
このような、多様性を実現するためには、面的な意味での広がり、つまり、拠点数の拡大が重要になってきます。
荷主様や3PL事業者様はいくつもの施設を利用し、エリア的なニーズも当然変化します。こうしたニーズに応えるメニューをいかに多く持つかが、当社の差別化戦略としてのサスティナビリティにつながっていくのです。
そのための新たな開発物件も、まもなく発表できると思いますし、いずれにしてもひとつでも多く、優良な施設を適正な価格で提供することが重要であると考えています。