コンプライアンスを意識しながら新たな形態に進むべき物流施設
シービー・リチャードエリス株式会社
インダストリアル営業本部 企画推進グループ
企画推進グループ グループリーダー
小林 麿
既存の物流施設が抱えるコンプライアンス上の問題点
これまでの物流施設を、コンプライアンスあるいはリスクマネジメントの観点から見ると、やや遅れた面があることは否定できません。コンプライアンスに関しては、物流施設に関係する法律は多岐にわたっており、特に建築基準法、消防法、倉庫業法絡みの話が、不動産賃貸借や売買の取引の場面ではよく見受けられます。
いくつか例を挙げますと、有効スペースを確保するため設置した床対象となるメザニン(中2階)が原因で容積率が法定容積率を超えてしまう、荷捌き作業で荷物が雨に濡れないよう庇の長さを勝手に延ばしたことによる建ぺい率オーバーなど、現場の作業効率を重視するあまり、こうした法令違反が本人達も気づかないうちに発生している事例が少なくありません。実際、利用している企業の法務部や管理部などが、こうした現場の工夫や要求に対し、コスト面ではチェック機能が働いていたものの法令を遵守しているかどうかのチェック機能はあまり働いていなかった、というのが実情のようです。
こうした施設は、行政から改善命令が出た場合、改善するために一時的な移転作業や物流業務がストップするなど、コンプライアンスの面以外でも金銭的なリスクや荷主との契約上のリスクを抱えています。また内容によっては、作業する人や預かる荷の安全性に対するリスクマネジメントの点でも、大きな問題を抱えていることになります。万一の事故が起こった際には、知らなかったでは済まされないですし、その責任が大きく問われることになるのは、言うまでもないでしょう。
安全性や法令違反の問題は、建築時や入居時だけに限った話ではありません。例えば、契約書上はオーナーの許可事項であるはずの建物の変更(増床や内部造作)を、テナントが無断で実施しているケース。オーナーが久々に倉庫を訪れると、敷地内に事務所、倉庫内に容積床対象のメザニンが張ってあったということも笑い話ではないのです。
今日、あえてこのような建物を建てたり、変更したりする方は少ないと思いますが、こうした問題を知らないということがないよう周知していくことも、この問題を解決へと導く非常に大事な取り組みだと思います。
知らないことが大きなリスクを生む例を挙げますと、原則、賃貸倉庫を建築できない市街化調整区域に倉庫が建築され、テナント募集の看板が出ていることがあります。この場合、合法的に賃借できるかどうかきちんと確認する必要があります。既存宅地制度を利用しているのか、それとも地区計画で賃貸が認められているのか? 開発許可の用途はどうか? 等、賃貸条件云々の前に、合法かどうかが非常に重要な要素です。中には、貸主の認識が足りないために、トラックターミナルを営業倉庫として賃貸し、後で営業倉庫の免許が取れないため契約がキャンセルになる、開発許可の用途を「自己用」で取得し、変更が難しいにもかかわらず話が進んでしまい、後からトラブルになるケースなどが見られます。
こうしたケースを未然に防ぐには、倉庫のコンプライアンスに精通した仲介業者やコンサルタントに相談するのが最も安心かと思います。シービー・リチャードエリスでは、単なる物件情報の提供や紹介だけでなく、こうしたノウハウを有し、コンプライアンスを意識したアドバイスができる体制を整えています。
市場ニーズをトリガーに、急速に高まるコンプライアンスの意識
この数年、物流業界を取り巻く環境は大きく変化してきました。リスクマネジメントやコンプライアンスに対する意識が急速に高まってきたのです。
2006年、ある物流会社が、関東運輸局からコンプライアンスに関わる件で厳重注意を受けたことがありました。これには、物流倉庫で変更登録を受けずに貨物を保管していたことが含まれており、この結果、「未登録スペースに保管していた貨物は、登録済みの倉庫施設内に収める」「外部倉庫事業者に業務委託する」「自社の営業倉庫に移動させる」など短期間での改善が行われました。これらの対応は、日常業務にも大きな影響を及ぼしたと推測され、コンプライアンス遵守の大切さを再認識させられました。加えて、これを機に、他の物流会社でも、コンプライアンス担当部署の設置やチェック項目の作成等、自社内の調査や対応を始めるといった波及効果が見られました。
もう一つ影響を与えているのは、国内外投資家による不動産ファンドという、新たな倉庫施設オーナーの出現です。彼らにとっての物流施設はある意味金融商品と同様ですから、コンプライアンスに厳しいのは当然であり、違法建築などはもってのほかです。彼らは違法性のある施設を遵法性のある施設に改善する努力を常に行っており、テナントと協力し、徐々にノウハウを蓄えつつあります。5年くらい前までは、物流の賃貸マーケットにはプロの貸し手が存在せず、オフィスビルのようにこうした動きに組織的に対応する会社が非常に少なかったと記憶しています。すべてのテナントがもろ手を挙げて賛成というわけではないでしょうが、彼らの存在は物流施設のコンプライアンス向上へ寄与することは間違いないと思います。
時代の潮流の中で新たなサービス形態を模索すべき物流業
こうしてみると、現在は倉庫業、および施設のあり方の端境期にあるように感じます。一方に、投資家などの新規オーナーが求めるコンプライアンスを遵守した倉庫があり、もう一方に既存の、多少の違法性を内在した施設がある。一方は従前から比較した意味での使いにくさがあり、一方には現場のニーズに柔軟に対応できる融通性がある。社会の風潮の変化があまりに急激だったために、現在はこの両極端の倉庫のみが存在し、双方のよい部分の折り合いを付けた施設がほとんど存在していないといったところではないでしょうか。換言すれば、法令を遵守しながら融通が利くフレキシビリティを持ち、さらにスピード感やアイディアを提供できる、そんな物流施設の新しいあり方を模索すべき時代が来ていると思います。