地価上昇の兆しの中、新たな動きはあるのか?多様化する物流業者のアセット戦略を探る
倉庫や配送センターといった物流施設への投資の活性化、企業が所有資産の見直しを図るきっかけとなった減損会計の強制適用、そして、物流業務スタイルの新形態ともいえる3PL(サード・パーティー・ロジスティクス)の進展と、昨今、物流マーケットを取り巻く環境は、大きく様変わりを遂げている。それに伴い、業務を行う"器"である物流施設のあり方にも大きな変化が現れ、各所、各企業において、物流アセットの再構築が図られている。そんな中、物流業者が倉庫・配送センターをどのように確保するかには多様な選択肢が生まれ、その選択の背景には様々な戦略が見て取れる。
下記AからFの六つのスキームは、物流業者が施設を確保する時に取り得る手法の最も基本的なパターンを図示したものだ。それぞれ、特徴的な事項や特筆すべきメリット・デメリットを記している。ただ、これはあくまで最低限の分類で、実際には、さらに複雑なものとなる。一括サブリースによる分割貸しの上、さらに転貸が入るといった賃貸借契約が何階層にもわたるパターンや、一口に「投資家」といっても、オーナーサイド寄り、テナントサイド寄り、そして全くの第三者とに分かれ、その施設をめぐる各者の目論見により多様なケースがある。もちろん、資金調達(不動産証券化)スキームも千差万別なものとなり、とてもここですべて説明できるものではない。
ここにきて、都市部における地価上昇という新たなファクターが加わり、これからの物流資産の所有(賃貸)のあり方は、どう変わっていくのであろうか。買う、借りる、それぞれの手法のメリット・デメリットは? 物流業者は、いかにして施設を確保してゆけばいいのか。今回、改めて検証することにしたい。
事業スキームと所有者の構成比較
タイプ | A | B | C | D | E | F |
---|---|---|---|---|---|---|
事業 スキーム |
購入方式 | 借地方式 |
土地購入& 建物賃借方式 |
建物賃借方式 その1 |
建物賃借方式 その2 |
建物賃借方式 その3 |
従前の 土地所有者 |
地主 | 地主 | 地主 |
倉庫オーナー (地主) |
地主 | 地主 |
土地所有者 | 物流業者 | 地主 | 物流業者 |
倉庫オーナー (地主) |
地主 | 投資家 |
建物所有者 | 物流業者 | 物流業者 | 投資家 |
倉庫オーナー (地主) |
投資家 | 投資家 |
使用者 | 物流業者 | 物流業者 | 物流業者 | 物流業者 | 物流業者 | 物流業者 |
A. 土地・建物ともに購入(自社建設)する
資金に余裕があるためイニシャルコストはかけられるが、その物流センターでの日々の収益がうすく、ランニングコストを抑えて運営していきたいといったケース。所有しているため、土地利用、建物利用の自由度はもちろん高い。ただ逆に、所有してしまうため、ランニングコストは平準化できず、長期にわたって資産管理が必要となる。地価変動リスク(減損会計への対応)を抱えることになり、進出・撤退の機動性、資産流動性にも劣る。
B. 地主から土地を借り、施設を建設(所有)する
普通借地、事業用定期借地契約により地主から土地を借り、そこに自社の施設を建て使用する。都心部など地価上昇が期待される場所で地主が売却を望まず、物流業者側も、倉庫は敷地に対して建物の面積割合が小さく、B/Sへの影響が大きい土地資産の所有を望まないといったニーズが合致するケース。建物は自社所有のため自由度が高いが、変更には地主への許可が必要。また、主流となる事業用定期借地権は、存続期間が10年以上20年未満と比較的短い。
C. 土地は購入し、そこに投資家が建設(所有)した施設を借りる
グループ会社の所有地を購入せざるを得ず、建物の建築資金捻出のため投資家を介在させるといったケースが考えられる。土地と建物の両方を購入するのに比べ、イニシャルコストが低減する、地価上昇局面での資産価値向上、建物管理コストの低減、賃料の経費計上による節税効果といったところがメリット。逆に、地価下落に伴う会計上の経営リスク、進出・撤退の機動性低下などは、土地・建物購入方式と同様にデメリットとなる。
D. 倉庫オーナーが所有する施設を借りる
既存の倉庫・配送センターで最も多い、昔ながらの賃借タイプ。中小規模のものがほとんどを占め、大型・ハイグレードの施設では現在少なくなっている。施設購入に比べ初期投資は少なくて済むが、賃料負担が毎月かかり、購入に比較すると日々の収益性が高くなければならない。稼働に至る期間は空き物件を探すことのみのため短く、短期間のうちに営業エリアを拡大させたり、急成長を遂げるため必要とされる。Build to suit型の長期の契約となっていなければ撤退も迅速。
E. 投資家が地主から土地を借り、建設(所有)した施設を借りる
土地を売却する気はないが、建物を建てB/Sをさらに膨らませたくもない土地所有者と、建築協力金などのイニシャルの出費さえ抑えたい物流業者との間にリース会社等の投資家が入り、そのギャップを埋めるケースが多い。新築のBuild to suit型物流施設に採用される事が多く、広くテナント募集されるような物流施設では少ない。賃貸借条件は、定期借家契約、契約期間20年が一般的。このような契約となると、賃借とはいえ流動性・機動性は低い。
F. 投資家が土地を購入し、建設(所有)した施設を借りる
超大型のマルチ・クライアント型物流施設はもっぱらこのタイプ。近代的な物流機能を備えており、月々の賃料負担は比較的高くなるが、それに見合った立地・グレードが確保できる。契約次第では流動性・機動性を高くできるが、もともとが汎用的な施設であるため独自の造作は難しい。逆にBuild to suit型なら、流動性は低下するものの建物の自由度は高くなる。東京近郊においては投資家による土地の仕込みが厳しくなっており、今後は地方都市での展開が予想される。