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BZ空間40周年 特別対談 三菱地所 吉田社長

お役立ち

2018年7月10日

「BZ空間」40周年Anniversary夏季号の巻頭企画は、三菱地所株式会社の吉田社長をお迎えして、弊社社長・坂口との特別対談をお届けする。今年1月の大手町パークビルへの本社移転と、それに伴い進められる同社の働き方改革。そして、JR東京駅日本橋口目の前の3.1haという広大な敷地で進められる、これまでに類を見ない大規模再開発「東京駅前常盤橋プロジェクト」。三菱地所という我が国屈指のデベロッパーのトップの考え・戦略を、余すところなくおうかがいした。

吉田 淳一氏

三菱地所株式会社
代表執行役 執行役社長

吉田 淳一

坂口 英治

シービーアールイー株式会社
代表取締役社長兼CEO

坂口 英治

コミュニケーションを重視して今年1月に実施した本社移転

三菱地所本社

坂口■今年1月の本社のご移転、おめでとうございます。長年居を構えておられた大手町ビルから新築の大手町パークビルに移転されたわけですが、まず、どのような経緯で移転を決意されたのでしょう。

吉田■2017年度より進めている「働き方改革」の一環として本社移転を決めたのですが、一番重要だったのは社内コミュニケーションの推進です。私自身が人事を長くやっており、チャレンジ思考とか新規事業の立ち上げ、既存事業の深掘りなど、社員にハッパをかけていましたが、現実にはルーティンワークに時間を取られ、上手く取り組めない。これを進めるには、いろいろな経験を持つ社員同士の偶発的なコミュニケーションの機会が非常に重要だと感じていました。ですが、今までの大手町ビルは7フロアに分かれた上に各階のオフィスさえ分断された状態で、明確な仕事上の目的がない限り、他の部署とコミュニケーションを取るというメンタリティにありませんでした。ですから、まずはこうした物理的な壁を取り払いたいというのが一番の目的でした。

坂口■なるほど。経営面から見て、部門を越えた情報共有が進んでいないところが課題であり、そこを解決することで新たなビジネスが誕生したり、他部門とのコラボレーションによる売り上げアップなどの生産性の向上につながると捉えていたわけですね。

吉田■そうですね。「チャレンジしなさい」と口で言うのは簡単ですが、それにふさわしい環境を、会社側はどこまで本気で提供しているのかという反省は常にありました。会社ができることをやった上で、社員に「頑張ってください」と言うようにしないと、掛け声を掛けるだけでは進まない。その本気度を見せないといけないと思っていました。

坂口■社内を拝見しましたが、本気度をひしひしと感じました。以前から御社を知っていた者としては、まさにコペルニクス的転換と言える程で、つくり込みも半端ではない。ここで仕事の在り方を変えるのだという意気込みを強く感じましたが、社長からのトップダウンの影響が強かったのでしょうか。

吉田■いえ、最初にコンセプトや考え方を簡単に伝えただけで、あとは、私はほとんどタッチしていません。本気になればできる会社なので、FMチームと各事業グループの中堅・若手メンバーが意見交換しながらつくり込んでいきました。目標の日程からあまり時間の余裕がなかったため、設計部隊やPM部隊のほか、他社の働き方改革のノウハウを熟知しているビルの営業セクションなどが協力してくれたのです。

坂口■経営層のチェックはどの程度に行ったのでしょう。

吉田■他社ですと、週1回、社長に確認しながら指示を仰ぐといった話を聞きますが、当社では一切ありませんでした。私だけでなく、役員にも「口は出すな」と言ってきました。後々何か問題があれば、その時々につくり替えていけばいいと考えていたのですが、まったく口を出さずに任せたことが、かえって各人が責任を持って新たなオフィスづくりに取り組んでくれたと感じています。

坂口■移転して3ヶ月強が経ちますが、社員の皆さんの反応はいかがですか。

吉田■「コミュニケーションが取りやすくなった」との声が各所から聞かれていますから、まずスタートは順調と言えるでしょう。この移転では、簡単な会議がすぐにできるスペースの設置やフリーアドレスの導入で、心理的な壁を取り払って社員が自由に場所や時間を選べるようにしました。これで気持ちが前向きになり、時間的な余裕が生まれることを期待しています。また、以前にはなかった社員用のカフェテリアを設けました。ランチスペースとしてだけではなく、社内外の人たちとのコミュ二ケーション・スペースに利用できますし、17時以降はアルコールも出すなどの工夫も凝らしています。

坂口■今回の御社の移転で画期的だと思ったポイントが2つあります。1つは、大手デベロッパーは、これまで、どちらかというと古いビルにオフィスを構え、新しいビルはお客様に貸すものだ、という概念があったけれども、これを覆されたこと。もう1つは新しいオフィスを、新たな働き方を提案するオフィスのショールームとしても使われていることです。これは、大手デベロッパーとして初めての試みではないでしょうか。

吉田■ショールームと言っても、ここでは完成形をお見せしているわけではありません。あくまでも、我々はこんな環境がベターだと思っている形に対して、様々な疑問や意見をいただいてブラッシュアップさせていく。将来のオフィス空間の在り方を模索していく実験場だと考えています。働き方改革が叫ばれていますが、今後の5年、10年でどう変わっていくのか、その変化に寄り添って流れを常に感じていくためのオフィスだと考えています。

大手町パークビルディング 三菱地所 新本社

三菱地所本社

「新たな価値を創出し続けるオフィス」をテーマに構築された新本社オフィス。3~6階の各フロアで異なる空間デザインが採用され、創造性を刺激する。最も重視されたのがコミュニケーションと生産性の向上だ。「SPARKLE」と名付けられたカフェテリアは、ランチタイムの社員食堂としてはもちろん、社内外を問わず様々な人々とのワークプレイスとして活用できる。また、各階を内部階段でつなぐことで、縦方向の人の交流を目指している。執務スペースは部署単位の緩やかなゾーニングをベースにした座席フリーな「グループアドレス」で、業務に合わせてロー/ハイテーブル、大小の個別デスクが選択できる。その他、随所に簡単な打ち合わせができるブースを設けるほか、靴を脱いで寛ぎながら仕事ができるスペースも用意されている。さらに全館無線LANの導入はもちろん、リモートアクセスも可能で、場所を問わず仕事ができる環境を整えている。また、生体認証による最新のセキュリティ・決済システムや社員の位置情報システムを導入するなど実証実験的な取り組みも行っている。なお、同オフィスでは見学ツアーを実施し、顧客・関係者への提案やノウハウの共有を目指している。

オフィス打ち合わせ室階段オフィス

働き方改革を具現化するフリーアドレスの導入

吉田社長

坂口■今、お話があった通り、働き方改革が経営面での重要事項として捉えられる中、今回の移転に際して、フリーアドレスを導入されたそうですね。

吉田■ええ。以前、島型のレイアウトのままフリーアドレスを導入して、1年で元の固定席に戻した企業の話を聞きましたが、きちんとした空間をつくれば、働く側の意識を変える上で、非常に有効であると考えています。

坂口■当社では4年前からフリーアドレスを導入しているのですが、その間にいくつかわかってきたことがあります。1つは、社員には内向的な人と外交的な人がいて、例えば内向的な人は、横に知らない人が座っても積極的にコミュニケーションを取ろうとしない。そんな中でサーベイを取ると、「フリーアドレスとは言えコミュニケーションが取れない」という結果が出たりします。ですから、望むべき効果を上げるために、内向的・外交的、直感型と分析型といった社員の分類に基づいた施策を実施しようかといったことまで考えているのですが、御社ではどうですか。

吉田■当社のようなデベロッパーでは業務上関係者との事業調整は必ずあるので、コミュニケーションを取らざるを得ません。座席のレイアウトや運用方法もいろいろなタイプがありますが、まずはコミュニケーションを取りやすい方向を考えました。また、人事セクションでは年に1回、それぞれの社員のキャリアイメージなどを聞いています。そんなコミュニケーションを通して、その人の実力をどう活かしていくかを考えますし、本人もどうしたいかの明確なイメージが持てるでしょう。本人にその時々の課題に立ち向かう意識がないと、上手くいかないと思います。

坂口■同じ社員でも、取り組む仕事の内容によって一人がいい時も、コラボレーションしやすい環境がいい時もある。その意味で、フリーアドレスではいろいろな環境を確保しておくことに意味があるわけですね。

吉田■ですから、この空間も完成形ではなくて、より好ましいと思われる空間づくりが発想できれば、朝令暮改でもいい、いつでも変えますよと言っています。来年にはレイアウトがガラッと変わっているかもしれません。

坂口■もう1つ、わかってきたのが情報共有の難しさです。弊社の場合、日中は4割以上の社員が社内におりませんし、なおかつ部門を問わず自由な席で仕事をしているため、同じ部署の人間でも顔を合わせる機会が少なくなります。そのため、情報共有を進めるにはテクノロジーを駆使するしかないのですが、なかなかベースとなる情報がインプットされない。つまり、各人がデータを入力する代わりにどういう見返りがあるか、その点を明確にして投資をしていかないと情報共有がどんどん進まなくなってしまう。テクノロジーあってのフリーアドレスだということは明らかなのですが、御社では営業支援ツールなども含めて、どのくらい推進していらっしゃるのでしょうか。

吉田■正直なところ、それはまだこれからの部分ですね。そもそも当社では、全社的に情報システム系が進んでいないという課題があります。今回の本社移転に際して様々なシステムを導入しましたが、必要な情報をいかに迅速に有効に取り出せるか、最適な方法を取り入れるべくトライしている最中です。

坂口■吉田社長としては、今まさに最初のステップが始まり、コミュニケーションを高めていこうということだと思いますが、その次のステップはお考えですか。

吉田■始まったと言っても、着手したのは三菱地所という会社だけで、グループの進化はまだまだこれからです。実際に顧客との強い接点を持つ各グループ会社の社員たちの生のマーケット感覚を、我々の企画にどう活かしていくか。グループ各社とどうコラボレーションできるのか。そのためのコミュニケーションをどう高めていくのかが、次の課題だと思っています。

街としての価値を高める創造性あふれる空間づくり

吉田社長

坂口■働き方改革を進める御社の取り組みが、これまで御社が提供されてきた空間とこれからにどう影響を与え、どう変化していくのか、大変興味深いところです。例えば、新しい働き方の場所としてコワーキングスペースが注目されていますが、こうした運営会社は、デベロッパーにとっては1テナントに過ぎないのか、それとも競合になるのか。一部の大手デベロッパーでは、コワーキングスペースの運営に乗り出しているところもありますが。

吉田■スペースをつくるだけなら簡単ですが、そこで働く人が何に価値を求めているのか、さらに何を期待しているのかは、一朝一夕にはわかりません。その意味で、世界的に有名で我々にはないノウハウを持っている「WeWork」のような企業にテナントとして入っていただき、彼らのノウハウを吸収しながら、自社の空間づくりに活かしていければと思っています。

坂口■大丸有(大手町・丸の内・有楽町)エリアは、大手企業でないと敷居が高いイメージがありますが、コワーキングスペースを提供する企業が入居することで、今までとは違った成長企業にも門戸が広がるというメリットもあります。その意味では協業できる可能性があるのですね。

吉田■ええ。その可能性は高いと思っています。

坂口■それとあわせて、御社では独自に様々なデータを収集されていらっしゃいますが、その集積した情報を分析して、デベロッパーとしてのソフトを提供することはお考えですか。

吉田■データについては、具体的な目的があるわけではありませんが、そこから何かが生まれるだろうという予感はあります。大手の企業が集積しているのが大丸有の魅力ですから、それを拡大することに効果を発揮するのではないでしょうか。一方、コーポレートアクセラレータプログラムで、外部との協業を通してAIを使った様々な提案もいただいています。これらがまとまれば、今後、丸の内の企業にも効率化を提案できる有効なツールとして、提供できるのではないでしょうか。

坂口■確かに御社はオフィススペースだけでなく、コミュニティ全体を運営していることが最大の強みです。その意味からも、これから出てくる床に対して、高い付加価値を提供することで、いいテナントを集めることにつながるのですね。

吉田■ええ。当社は100年以上前に、この丸の内に日本初のオフィス街を創り、今後の日本を盛り上げようとしたデベロッパーマインドが、現在まで脈々と引き継がれています。今日、人口減少社会だと言われ、諸外国からは将来について悲観的な見方をされているようですが、それを乗り越えるには技術力やものづくりに対する考え方など、日本が世界に誇れる部分をもっとアピールすべきでしょう。当社はそのベースとなる空間づくりや、人と人との結びつきを価値あるような形で生み出していく。そんな街づくりのマインドを常に持ちながら事業を進めていきたいと考えています。

坂口■テクノロジーを含めて日本のいいところを集約し、提供していくということですね。その集大成になるのが390mの日本一高いビルを含めた2027年竣工予定の東京駅前常盤橋プロジェクトだということでしょうか。

吉田■ええ。390mのタワーオフィスのあらゆる設備を最先端にしたい。例えば、風に強いけれども軽くて、しかも曇ることがない窓ガラスを採用するなど、新たな技術をそこで見せることができるようにしたいと考えています。また、ビルだけでなくその周辺を取り巻く環境も含めて、ここに行けば何か新しい刺激があるから立ち寄りたい、そう思っていただける空間ができれば面白いと思います。同時に、優秀な人材を集められるよう、テナント企業の価値観や魅力を発信できるような空間を提供することが、我々の使命だと考えています。その観点から言えば、もっと多様な企業にも利用して欲しい。例えば、大手町ビルは今年で60周年を迎えますが、100年以上持続するビルを目指してリノベーションを加えていきます。交通アクセスは極めて良いですし、地下階には利便性の高い施設も充実していますから、フィンテックのような新しい価値を生み出す企業が集まってくれれば、ビルとして、ひいては街としての価値も高まることでしょう。

坂口■御社の利益だけでなく、街全体が価値あるものになるべきだと。現在は、そのための変化であるということですね。その中で、他社とのコラボレーションも重要なテーマになるのですか。

吉田■我々だけでできることには限りがあるので、いろいろな提案をし合って相乗効果を上げられる企業とのコラボレーションの可能性はいつでもあります。もちろん、御社CBREとは、世界規模で協業していきたいと思っています。

坂口■当社の関西支社は、御社のグランフロント大阪をお借りしていますが、その一角にラウンジをつくり、社外の方たちの交流を促すコミュニケーションスペースとして活用していきます。こうしたお互いがWin-Winの関係を築けるようにしていきたいと思います。本日はありがとうございました。

吉田■ありがとうございました。

東京駅前常盤橋プロジェクト

かつて江戸城の玄関口として栄えた由緒ある街である常盤橋を舞台に、三菱地所が10年超の歳月をかけ開発を進める「東京駅前常盤橋プロジェクト」。東京駅至近の約3.1haの広大なエリアを2027年をめどに段階的に開発し、完成すれば日本一となる高さ390mのタワービル(B棟)を含む、A・B・C・Dの計4棟のビルと、7,000㎡の広場を有した、東京駅周辺では最大のスケールを持つビジネスエリアが誕生することになる。その先駆けとして、2021年の竣工を目指して年内に着工するA棟は40階建のオフィスビル。珍しい和のテイストを施したデザインが特徴で、オフィス有効面積は約23,400坪。その後、2023年度にB棟が着工する予定だ。JRをはじめ、地下鉄5路線が地下接続する利便性も相まって、高い価値を持つワークプレイスが登場する。すべてが完成すれば、東京駅前の景観はもちろん、働き方そのものも一変させるだけのパワーを持つこのプロジェクト。東京の新たなシンボルになることは間違いない。

三菱地所本社

上記の記事の内容は BZ空間誌 2018年夏季号 掲載記事 掲載当時のものです。

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