本稿では、東京、大阪、京都の三大マーケットについて、2020年のホテルマーケットの需給を検証した。検証にあたっては、民泊の影響も考慮している。2020年の訪日外客数4,000万人を前提に推計された2020年の宿泊需要を基に、ホテル運営にとって適正とみられる空室を見込んで必要客室数を算出し、これを同年の予想客室数ストックと比較した(検証にあたっての前提条件の詳細は、下記の表「2020年の必要客室数と客室ストック数、推計の前提条件」を参照されたい)。
東京は客室が不足、大阪・京都はストックが必要客室数を上回る。
2020年の訪日外客数4,000万人という政府目標を前提とすると、東京のホテルマーケットでは、2016年末時点の既存ストックの31%にあたる約3万室の客室が供給されてもなお、必要客室数には3,500室程度不足すると推計される〔図表7〕。なお、東京五輪開催期間中に想定される一時的な訪日客の増加については本推計に織り込んでいないため、実際はこの想定以上に需給が逼迫する可能性もある。
一方、大阪では約13,500室、京都では約11,300室程度、予想ストックが必要客室数を上回ると推計される。
ただし大阪と京都が必ずしも供給過剰とは言えない。これまでに人気の観光都市で宿泊需要が潜在化もしくは他エリアへ流出していた可能性。
大阪と京都においてストック数が必要客室数を上回るとみられることは、必ずしも供給過剰を意味するものではない。大阪と京都の2016年の稼働率は予約が取り難いとされる90%前後で、いずれのエリアも少なくとも現在の需給は極めてタイトであることを示している。さらに、大阪と京都には、ストック不足により需要の一部が顕在化していなかった可能性もある。実績値を基に推計された需要の予想値には、この潜在需要が織り込まれていないと考えられる。
実際、京都府における客室数(ストック)の規模は、2016年の外国人訪問者1人当たり2.3室と、全国平均(7.9室)に比べて極端に少ない。また、京都府を訪れる外国人の41%しか京都府内で宿泊していない〔図表8〕。これは、宿泊先の選択肢が少ないため、京都を訪れた外国人がやむを得ず他の都道府県で宿泊していたことを示すものであり、需要の流出もしくは潜在化を招いていたことを物語っている。
一方、2016年に大阪府を訪れた外国人が府内に宿泊した割合は65%だった〔図表8〕。京都府よりも高い水準ではあるが、2014年当時は90%だったことから、以前に比べて宿泊需要が潜在化または流出が進んでいることがわかる。これは、稼働率が高まり、予約が取り難くなった結果、他の都道府県や民泊に宿泊需要が流れたためと考えられる。供給によってストック不足が解消されれば、需要の回帰が期待できるだろう。
2020年の必要客室数と客室ストック数、推計の前提条件 | |
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推 計 の 前 提 条 件 |
「明日の日本を支える観光ビジョン」に示された2020年の政府目標が達成されることを想定
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民泊の影響は、外国人延べ宿泊者数に対して考慮し、2016年末時点の各都道府県の宿泊施設客室数に占める 民泊件数の割合を求め、この割合を外国人延べ宿泊者数に対する影響と擬制した | |
外国人が宿泊する施設タイプ(旅館、ホテルなどの分類)の割合は、2016年から横ばいとする | |
日本人の延べ宿泊者数、宿泊地割合、宿泊施設タイプ割合は、2016年から横ばいとする | |
1室当たり宿泊者数は、都道府県毎、宿泊施設タイプ毎に算出し、2016年の値から横ばいとすることで、 各都道府県の宿泊施設タイプ別の客室数需要を求める | |
都道府県別のホテル客室数需要を求め、都市別に補正推計したうえ、 稼働率を85%と想定した場合の必要客室数を求める | |
新規供給は、CBREによる個別計画の調査及び推計による積み上げ値をもって算出する |
●出所:CBRE、2017年12月