総合保税地区の利点を活かす「かわさきファズ」と、
東扇島の物流集積地としての優位性と将来展望。
株式会社横浜港国際流通センター
保税担当調査役
市川 秀夫 氏
東扇島のメリットを享受する物流拠点の一つに、平成10年に第一期工事が完成した「かわさきファズ物流センター」が挙げられる。東扇島の物流集積の礎となった同センターの設立から運営までを長きにわたって手がけ、同地に対する企業の物流ニーズを長年見続けてきた市川秀夫氏(現在はYCC保税担当調査役)に、東扇島開発の経緯と魅力、将来展望についてうかがった。
東扇島の誕生と物流集積の始まり
東扇島は川崎市湾岸部に平成2年に誕生した人工島です。昭和26年に川崎港が特定重要港湾(現:国際戦略港湾)に指定され、これをきっかけに、川崎市は港湾の活性化を目指した本格的な湾岸施設整備を始めました。さらに川崎港を国際貿易港へ発展させるため、昭和47年から扇島の東部の埋め立てを開始したのですが、それが平成2年に完了し現在の東扇島が誕生しました。同地には公園や港湾振興会館(川崎マリエン)など周辺施設も整備され“シビルポートアイランド”の名で、これまで広く喧伝されてきました。
そんな東扇島には外貿・内貿の埠頭が2ヶ所あり、東京湾に面した側は外航船埠頭、京浜運河側は国内貨物用の埠頭となっています。これら充実した港湾施設と一大消費地である首都圏都心部への近さから、現在、食品倉庫等が建ち並ぶ物流集積地となっていますが、その始まりは、島の中心部に日本食肉流通センターができ、川西冷蔵、五十嵐冷蔵、港湾冷蔵の3社が営業を開始した頃のことです。同時期、東洋水産、愛宕倉庫、日本通運などの企業も物流拠点を置くようになり、東扇島への物流集積がスタートしました。
以降、コンテナバースなどの物流施設の整備も進み、平成4年7月、通産省(現:経産省)、運輸省(現:国交省)、農林省(現:農水省)、大蔵省(現:財務省)の4省による「輸入の促進および対内投資事業の円滑化に関する臨時措置法」、通称FAZ(ファズ)法が施行されます。同法により川崎区及び幸区が輸入促進地域に指定され、これを推進する事業として、平成7年、東扇島に第三セクター「かわさきファズ株式会社」が設立されました。
FAZ法とかわさきファズ紆余曲折を経て真価を発揮
FAZ法とは、貿易不均衡を解消し、対内投資の拡大を目的に作られたものです。当時の日本は貿易黒字が続いており、貿易収支の均衡を保つ施策を打つ必要があったのですが、企業活動を阻害する輸出抑制を行うわけにはいきません。そこで、港湾や空港、または周辺地域に保税地域を作り、輸入拡大を図ろうということになったのです。
保税地域とは、海外から輸入された貨物を税関の輸入許可が未許可の状態で関税を留保したまま置いておける場所のことで、日本では、指定保税地域、保税蔵置場、保税工場、保税展示場、総合保税地域の5種類があります。例えば、国内に運び込まれたある外国貨物の通関手続きをする場合、指定保税地域に蔵置されます。
また、日本を経由して第三国へと搬入される貨物は、保税蔵置場に一時保管されます。搬出国へ戻すことを前提とした加工・製造を行う場所は保税工場、国際見本市やモーターショーのように、海外から持ち込まれた貨物の展示のみを行い、搬出国へ戻す場合には保税展示場に蔵置されます。これらのすべての機能を兼ね備えているのが総合保税地域であり、かわさきファズは、この総合保税地域の免許を取得しています。
かわさきファズでは、当初、空路や海路で海外から運び込まれる荷を取り扱う物流センターの確立を目指し、施設の整備やPR活動が進められていました。しかし、バブル崩壊からの経済低迷期において企業誘致に苦戦。その後、大きな計画変更を余儀なくされました。例えば、当時ターゲットとした業界の一つに、大きく業績を伸ばしていた外食産業があるのですが、これら企業のセントラルキッチン工場の誘致を推進しました。総合保税地区のメリットを、食材の輸入や加工・製造などに活用できるのではと考えたわけです。
ところが、外食産業に属する企業の多くは、この時すでに長期計画に基づいて工場・物流拠点の確保を終えてしまったばかりで、この誘致活動は残念ながら空振りに終わりました。かわさきファズは、電気、ガス、水道、蒸気など、通常の倉庫では考えられない多機能なインフラを備えているのですが、オープン後しばらくはこれら設備は活用されることなく、単に保管庫的な使われ方が主流だったといえます。この外食産業の物流拠点という観点で見ると、同施設に本格的なセントラルキッチン工場が入居したのは平成16年で、平成10年の開業から6年の歳月を要しました。
ただし、そのコンセプトは決して間違ったものではなく、同工場の始動を皮切りに、港湾や空港に近い立地条件と総合保税地域としてのメリットが、徐々に注目されるようになってきたと感じていました。平成22年、東京国際空港(羽田空港)に国際線ターミナルが開業すると機内食の調理・供給を行う企業が入居したのですが、同企業の業務形態など、海外から食材を輸入し、ここで加工、そして羽田からの飛行機に搬入し再び海外へと、すべてが外貨のまま業務が完結しています。12年の歳月をかけて、ようやく同センターの真価を存分に発揮する機会が訪れたといえるでしょう。