ファシリティマネジメントとは、企業活動における環境を総合的に企画・管理する経営活動である。今号では、ファシリティマネジメントのアウトソースによる効果と日本における課題について解説。
日本企業を変える戦略総務とは
最初に、企業活動における「ファシリティ」とは何を指すか考えてみたい。実際、適切な日本語訳は存在せず、“ファシリティ”とカナ書きするのが一般的である。“施設”と訳されることがあるが、これではファシリティの一部に限定されてしまう。
そこで、ファシリティを真の意味で捉えるため、ここでは右の3項目を包含した概念とする。
これをさらに分かりやすい言葉に置き換えると、「目に入るものすべて」がファシリティとなる。これらすべてについて、常に改善を取り入れつつ会社の成功につながるようにマネジメントするのがファシリティマネジメント(以下FM)であり、その対象は広範に及ぶ。
FMを表す言葉として最も適した表現は「総務」である。ただし、従来の総務は日常業務を単に正しく遂行することのみであり、いわゆる「管理総務」となっている。
CBREが目指すFMは「管理総務」ではなく、常に改善を取り入れていく「戦略総務」であり、ソリューションを提供するものである。
FMの及ぶ範囲
FMは、不動産をはじめとする企業全体のファシリティすべてに、その効果を発揮することが可能である。
そのため、支店や営業所はもちろん、海外拠点においても、サイトごとに異なるファシリティの品質を統一化・適正化し、同時にスケールメリット(調達力)を生かしてコストのバラつきを是正する効果も期待できる。
その品質が適正か否かを“経営目標”に沿って判断するのが、FMの果たす役割となる。
FMのメニュー
具体的に、そのサービスメニューを見てみよう。ざっと並べてみただけでも多岐にわたることが分かるが、日本の企業においては、「不動産戦略アセットマネジメント」は経営企画部や管財部、「デザイン&コンストラクション」「施設運営・維持管理」「オフィスサービス」は総務部と、ファシリティに関わる業務において所轄部門が異なり、縦割りになっていることが多い。そのため、FMという考え方が浸透せず、一元管理が進まないのが現状である。
不動産戦略 アセットマネジメント |
デザイン& コンストラクション |
施設運営・維持管理 | オフィスサービス |
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保有資産管理 リース管理 施設戦略 キャッシュフローマネジメント テナントマネジメント スペース計画 ワークプレイス計画 |
企画・設計要件定義 調査・診断 プロジェクト管理 大規模工事 中規模工事 小規模工事 移転マネジメント 外注業者管理 調達マネジメント |
クリーニング 予防メンテナンス 各種設備管理業務 建物・設備保全業務 環境衛生管理業務 エネルギー管理 LCC管理 セキュリティ管理業務 オペレーション予算管理 リニューアル・MAC 植栽管理 廃棄物・リサイクル管理 外注業者管理 |
受付サービス メールルームサービス 印刷/コピーサービス ユーティリティ管理 AV・OA機器管理 ファイル管理 購入・購買支援サービス グリーンサービス 自動販売機管理 経理支援サービス 人事支援サービス 外注業者管理 ヘルプデスク |
ノンコア・アウトソース
コアビジネスへの集中ということが言われて久しいが、日本においては、総務、経理、人事、IT、法務といったノンコアビジネスを効率的にアウトソーシングしている企業はまだ少ないのが現状である。
FMのアウトソーサーは、企業の総務部(管財を含む)において、半分はクライアント自身として、また半分はプロのファシリティマネジャーとして、クライアントの立場で考え、行動する役割を担う。
アウトソーシング協力体制
戦略立案を担うのは経営層。それをブレークダウンして各事業部が動くのが企業活動であり、FMは総務部の立場で戦略の実現に貢献する。
クライアントのファシリティに関する戦略立案のサポートから、その実行(実務における専門家のアサインと管理を含む)、更にベンダーの手配や管理まで、一連のソリューションを提供するのがFMアウトソーサーであり、これが経営パートナーと呼ばれる所以である。
FMアウトソースの進化
日本のFMアウトソーシングは欧米と比較して遅れており、実際、業務を委託しているという企業を見ても、アウトタスキングでありアウトソーシングではない場合が多い。この違いは受託企業の責任範囲にあり、前者が業務の運営にのみ責任を持つのに対し、後者は戦略立案・設計・実行・管理と、全般に責任を負う。
また、日本の大企業では、FM、経理、人事といったノンコア業務を子会社化してはいるものの、そのリソース、パフォーマンスが適正なのか判断するのが難しく、経営環境の変化にフレキシブルに対応できていない事例が見受けられる。
一方、欧米のグローバル企業では業務をコア・ノンコアに分類し、ノンコア業務は徹底してアウトソーシングし、経営環境の変化に合わせた最適なサイズ、最適なアウトソース形態を常に模索している。
アウトソースの課題
- コア・ノンコアの分類が不明、またそれを明確化することへの抵抗
- 人材の移籍等の問題
- アウトソーサーの選択肢が少ない
- 投資効果が見えない
- 発注側にプロのファシリティマネジャーがいない、 アウトソースしてもマネジメントできない
- 社内実施することで、業務が属人化してしまっている