生成AI市場の拡大により激変。
最新データセンター事情と、世界基準のファシリティマネジメント。

生成AIの台頭により、データセンター(DC)に求められる要件は劇的に変化しました。高密度化する電力や熱への対策、そして日本市場特有の人材不足や意思決定スピードの課題に、運用現場はどう立ち向かうべきなのでしょう。世界基準のファシリティマネジメント(FM)の視点から、AI時代のDC運用のリアルと、インフラを守り抜くための解決策をご紹介します。
CBRE GWS データセンター ソリューションズ
Joe San氏
生成AI需要が招く電力と冷却方式、床荷重の課題
ここ数年、データセンター(DC)を取り巻く環境は劇的な変化を遂げています。その中心にあるのは、間違いなく「生成AI」の台頭です。わずか5年前、私たちは1ラックあたりの電力密度が30kW程度あれば高密度だと捉えていました。しかし現在、 NVIDIAのGPUに代表されるAI向けチップ搭載のサーバー群は、1ラックあたり130kWの電力を消費することも珍しくありません。実に4倍以上のエネルギー密度への急騰。この変化は単なるスペックの向上にとどまらず、DCの物理的な設計思想そのも のを根本から覆しています。
電力密度の上昇は、必然的に発熱量の増大と機器重量の増加を招きます。従来、1ラックあたり1トン程度だった重量は、最新のGPUサーバー搭載ラックでは3.5トンにも達します。1列に20ラック並べばその床荷重は凄まじく、結果、従来のDCで一般的だったフリーアクセスフロア(床上げ)は、重量に耐えきれないため採用されなくなりつつあります。配線や空調を床下に通すスタイルから、堅牢なスラブ床への直置きへと変わってきているのです。
また、冷却方式も空冷の限界を迎えつつあります。これまではエアコンによる冷気循環で十分でしたが、AIサーバーの排熱には、水冷や液浸冷却(リキッドクーリング)といった技術の導入が必須となり始めています。米国などの先進市場と比較すると日本での導入はまだこれからという段階ですが、今後数年でDCの風景は一変するでしょう。私たちは今、かつてないスピードで進化するインフラの転換点に立っており、もちろんですがその運用も、これら進化を踏まえたものでなければならないわけです。
意思決定速度とリソースの壁、市場が抱える構造的課題
日本のDC運用に目を向けると、グローバルスタンダードとの間にいくつかの大きなギャップが存在します。最も顕著なのが「スピード感」です。海外のハイパースケーラーや投資家は、「Speed to Market(いかに早く市場投入するか)」を最優先します。資金とリソースを即座に投じ、プロジェクトを爆速で進める彼らに対し、日本企業は承認プロセスや合意形成に多くの時間を要します。この意思決定速度の差は、急激に拡大するAI需要を取り込む上で、致命的な機会損失になりかねません。
さらに深刻なのが人材不足です。DC運用は24時間365日の体制が求められますが、少子高齢化が進む日本の雇用市場において、シフト勤務をいとわない高度なスキルを持ったエンジニアを確保するのは至難の業です。加えて、日本特有の商習慣や厳格なコンプライアンス、そして「電気主任技術者」のような国家資格者の配置義務がハードルとなります。特に大規模DCに必要な第2種、第1種の電気主任技術者は全国的にも希少で、人材の争奪戦が起きています。
「真面目さ」が招く硬直性、マニュアル依存からの脱却
日本のエンジニアは非常に勤勉で、マニュアルや手順書を遵守する能力においては世界でもトップクラスでしょう。これは誇るべき日本の品質ですが、裏を返せば「マニュアルにない事態」への対応力に課題があるとも言えます。海外のエンジニアは、予期せぬトラブルに対し、自身の裁量で柔軟に判断し行動する傾向があります。変化の激しいAI時代のDC運用においては、厳格な手順遵守と、現場での柔軟な判断力のバランスが求められます。言語の壁も依然として高く、バイリンガル人材の枯渇は深刻ですが、現在は翻訳ツールやAIの活用、そしてマネジメント層と言語サポートを組み合わせることで、現場のオペレーションを回す工夫が進んでいます。
冷却不全危機! センサーだけでは見えない真実
ここで、実際の運用現場で起きたトラブルの事例をお話ししましょう。2025年の夏、記録的な猛暑の中で、あるDCの空調システムに危機が迫っていました。定期的なシステムヘルスチェック中、空冷チラーのコンプレッサー圧力が異常に上昇しているのを現場チームが発見したのです。その数値は、自動シャットダウンの閾値まであとわずか10%に迫っていました。クリティカルなインフラにおいて、この「残り10%」は安全マージンではなく、システムダウンによる全館冷却不全、つまりサービス停止の一歩手前を意味します。
チームは直ちに予備のチラーを手動で起動し、熱負荷を分散させることで圧力を下げ、一時的な安全を確保しました。しかし、真の戦いはそこからです。「なぜ圧力が上がったのか」。私たちは制御室を出て、チラー周りの高解像度温度マッピングを行いました。そこで判明したのは、センサーデータだけでは見えなかった「ショートサーキット(空気の短絡)」という現象。チラーの配置や囲いの構造上の問題により、排出された熱風を再び吸気口が吸い込んでしまっていたのです。これにより、局所的なヒートスポットが発生し、サーバーは天気予報の気温以上の過酷な環境で稼働を強いられていました。私たちは専門業者と協力し、排気が吸気ゾーンに戻らないよう気流を制御する恒久的なエンクロージャーの改造を提案・実施しました。単に空冷ファンの出力を上げ対処するのではなく、原因を追究し根本治療を行うこと。これが、「センサーの向こう側」を見るプロフェッショナルの仕事です。
IFM、世界標準の運用を日本で実現する
このように、現代のDC運用は、単に設備を保守管理するだけでは不十分です。セキュリティ、清掃、アメニティ、テナント対応、そして高度な技術的トラブルシューティングまでを一元的に管理する「IFM(統合ファシリティマネジメント)」の視点が必要不可欠です。私たちCBREは、グローバルでの膨大な運用実績と知見をベースに、日本特有の課題にも適応したサービスを提供しています。
例えば、希少な有資格者や熟練エンジニアをネットワーク化し、特定のサイト専属ではなくエリア全体でサポートする体制の構築。あるいは、海外のオーナーと日本の現場をつなぐブリッジ役としての機能。これらは、一朝一夕に構築できるものではありません。AIの爆発的な拡大により、DCは「作れば終わり」の箱ではなく、高度な技術と判断力が求められる生き物のようなインフラへと変貌しました。世界基準の知見と、日本の現場力を融合させ、この激動の時代を支えるインフラを守り抜くこと。それが私たちの使命です。
