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ジュンク堂書店 福岡店|プロジェクトケーススタディ

ケーススタディ

2021年3月1日

ジュンク堂書店 福岡店

出版不況と言われて久しい書店業界にあって、企業合併を経て、日本全国に約100店舗のネットワークを構築した丸善ジュンク堂書店。その中でも有数の規模を誇り、福岡のみならず九州全域に根強いファンを獲得していた福岡店が、再開発の波に巻きこまれ、閉店直前まで追い込まれた。移転候補が見つからない中、同店を救ったのはファンの“愛”だった。その一部始終をレポートする。

地元ファンの愛情が導いた移転先情報。
顧客とともにつくり上げるブランド力が、
店舗の新たな価値を創造する。

ジュンク堂書店 福岡店

再販制度によって規模の拡大が困難な日本の書店ビジネス

一般に小売業は、市場におけるシェアを獲得し、ネットワークを拡大することでビジネスの優位性を保っている。しかし書店ビジネスにおいては、この公式は当てはまりにくいと言われている。その最大の要因が、再販制度(再販売価格維持契約)の存在である。再販制度とは、独占禁止法が禁止する、メーカーによる販売価格の拘束を、書籍や雑誌などの著作物6品目に対して、1953年以来、例外的に認める制度だ。

書籍などが全国一律の価格で購入できることは、過剰な価格競争を抑え、知の平等を守る観点からは正しいと言える。一方価格競争がないため、消費者が不利益を被るという考え方もある。そもそも再販制度自体、人口増や経済の右肩上がりの成長による、需要の永続的な増加が前提とも言われ、今日のような人口減少や経済環境の低迷下においてはスケールメリットが出しにくい。ましてやAmazonに代表される通販が台頭している中、実店舗がシェアを拡大するのは至難の業だろう。勢い、競争原理が働きにくく、地方自治体レベルのローカルなネットワークにとどまる書店チェーンがほとんどとなっている。

そうした中、全国にチェーン網を張り巡らし、実店舗・ネット販売の書店として、740億円(2018年)の売上高を誇っているのが丸善ジュンク堂書店である。

個性豊かない二つの書店チェーンが合併して誕生した丸善ジュンク堂

ジュンク堂書店 福岡店

ご存じの方も多いだろうが、丸善とジュンク堂は、元々は別の会社である。1869年(明治2年)に横浜で創業した丸善は、洋書や洋酒、薬品など海外の文物を中心に、ハイカラなライフスタイル情報や先進的な生活雑貨を提案するスタイルで、日本文化の発展に貢献してきた。1910年(明治43年)には日本橋に本社を移し、文化的なイベントに力を入れるなど、提案型の店づくりで知名度を高めていった。一方、1963年に神戸で創業したジュンク堂は、その後、急速に規模を拡大。「ない本はない」と言われるほどの品揃えをブランドのコアコンピタンスとし、1997年には後に書店として最大の売場面積を誇る池袋本店を開業させた。さらに2010年には丸善が図書館流通センターとともに、大日本印刷を親会社とする共同持株会社CHIグループ㈱を設立、その後店舗事業部門を丸善書店㈱として分社化。2011年にはジュンク堂書店がCHIグループに参加し、2015年に丸善書店とジュンク堂書店の合併により、㈱丸善ジュンク堂書店が誕生したのだ。

「人類の英知が詰まっている本を通して、人と人をつなげる場を提供することが、当社の企業理念です。合併当初は相乗効果を期待して『丸善&ジュンク堂』の名で店舗展開を始めました。しかし、先進的な文化を提案してきた丸善と、本の品揃えを重視するジュンク堂では、お客様のタイプも、求める品揃えも異なるため、現在はダブルブランドによる出店はやめて、それぞれの個性を大事にしています」。そう語るのは、同社の取締役である野村育弘氏だ。

一方、合併に伴う人材面での融合は順調に進んでいる。もともと店のマネジメントや提案に長けた丸善と、とにかく本に詳しいジュンク堂のそれぞれの書店員をミックスすることで、新しい講演会などの企画や選書サービスを提供しているという。「人を融合しながら育成していくことで、それぞれのブランドを強化し、お客様に新たなメリットを提供することが、我々の最大のミッションと言えるでしょう」(野村氏)。

それぞれのブランドに合わせた二つの異なる出店戦略

ジュンク堂書店 福岡店

だが、紙媒体としての書籍・雑誌市場の販売金額は、1996年を頂点に下降の一途をたどっており、今日ではピーク時の半分以下まで下落している。特に雑誌は、Webへの置き換わりが影響し6割減と深刻な状態だ。また、目的買いならネット通販が便利なのは言うまでもなく、書店ビジネスは厳しさを増すばかりだと言える。だが、書店の最大の魅力は、目的の本の周辺にある関連書籍を視野に入れたり、のんびりと棚を眺めながら、新たな興味の引き出しを広げるといった、直接的な刺激が得られる点にある。その意味で、顧客の来店機会をいかに増やせるかが勝負となる。

こうした中、丸善とジュンク堂、二つのブランドは、どのような出店戦略を取っているのだろう。丸善は、以前から売り上げの1割を占める文具や雑貨を充実させた店づくりを展開してきた。さらにこの8月には、横浜に初めてカフェを併設した「丸善HAMARUラクシスフロント店」をオープンさせるなど、複合化に力を注いでいる。

一方、ジュンク堂書店はこれまで、ない本はないという規模を重視した戦略だった。人口30万人程度の地方の中核都市でも、1,000坪程度の面積を有し、多彩な専門書を揃えた大型店中心の店づくりをしてきた。だが、通販や電子書籍が台頭してきた今日、ジュンク堂のビジネスモデルは過渡期を迎えたと言えそうだ。地方の主要都市にも基幹となる大型店は必要だが、規模にこだわりすぎれば出店速度はそれだけ遅くなる。「現在ではメイン店と衛星店を組み合わせた出店戦略を展開しています。地方の中心地に核となる大型店を作り、郊外には商業施設内に100~200坪クラスの店舗を設ける。例えばお客様が、小さな店に行って本がなくても、基幹店から翌日には本が届く、取り置きサービスを強化することで、規模を補う工夫をしているのです」(野村氏)。このサービスのいいところは、忙しい中、広い店内で本を探す時間を短縮できるだけでなく、気になった関連書籍も一緒に、サービスカウンターに用意してもらうことができる。必ずしもすべての本を買う必要はなく、このサービスは大好評だという。

一方で、店舗づくりの姿勢には共通する部分も多い。最大のテーマは「子供を連れても安心して行ける店であること」だと言う。「新しいお店では、児童書売り場の前に本や知育系のおもちゃ、学習教材などをまとめた広場を作り、親御さんやおじいちゃん・おばあちゃんとお子さんが、一緒に楽しめる環境を提供しています。商業施設にとっては、以前にもまして店内の滞留時間が重視されています。その意味でもご家族が安心して楽しく過ごせる場所の提供が重要なのです。おかげさまで同業他社が撤退した後に出店した店では、以前の店より売上が十数%上がったと、デペロッパーの皆様にもご評価いただいています」(野村氏)。 こうした努力が功を奏し、今年の7月末現在、丸善・ジュンク堂書店の両ブランドを合わせ、全国に97店舗を展開する、最大規模の書店ネットワークに発展している。

さらに、親会社である大日本印刷が運営する、電子書籍を含めたネット販売サイト「honto」も好調だ。hontoで行っている会員サービスは、他の書店グループも合わせた200店舗以上の書店で展開するサービスで、ポイントカードを通じて購買データを収集し、品揃えなどのマーケティングに活用している。もちろんポイントを付与することで、顧客の囲い込みにも効果的だ。「これまで書店業界は、再販制度に守られるがゆえに、マーケティングの努力をしてきませんでした。それを克服するための仕組みがhonto会員サービスであり、品揃えをはじめとする店舗づくりや店舗展開に活かしているのです」(野村氏)。

天神エリアの再開発計画により退店を迫られたジュンク堂福岡店

だがこうした中、九州最大の中核都市の巨艦店が、先ごろ閉店の危機に見舞われたのだ。ジュンク堂書店福岡店は2001年、福岡県最大の繁華街である天神の中心地に誕生した。複合商業施設「天神ビブレ2」跡地に出店した同店は、当初、ビル1~4階の約5,500㎡を利用してオープンしたが、2011年に地下1階まで増床し、計約6,600㎡まで売り場面積を拡大。九州最大規模の書店として、約140万冊の一般書や専門書、雑誌を幅広く揃えていた。「約2,000坪の書店のインパクトは大きく、当時はまだ別会社で、近隣にあった丸善の売上を極端に落としたほどでした。空港や駅からタクシーに乗って、ジュンク堂と言えば運転手の誰もが行けるほど知名度が高く、また愛されている書店でした」と野村氏は説明する。

約20年の歴史を持つ同店が、閉店の危機に追い込まれるきっかけとなるのが、「天神ビッグバン」である。天神ビッグバンは天神エリアのさらなる活性化を目指して、福岡市が発足させた都市再開発プロジェクトだ。2015年に発表された同プロジェクトは、天神駅を中心とした約80haに及ぶ建物の高さ制限を緩和し、2024年までに老朽化した民間ビル30棟を建て替えるというもの。第1号物件が2019年1月に着工された後、随時、進行していく予定だ。同店が入居する大型複合ビル「メディアモール天神(MMT)」は、まさにその中心に位置していたのだ。 現在のビルで営業できるのは2020年6月末。計画が予定通りに進んでも、同じ場所に新たなビルが完成するのは2024年。3年半以上のブランクができれば、忘れられてしまうかもしれない。そんな危機感を抱いた同店が、本腰を入れて移転先を探し始めたのは2019年初頭のことだった。候補エリアを天神近辺はもとより、範囲を広げて探したが、2,000坪はおろか、300坪ほどの空室も見つからない。それほどマーケットはひっ迫していたのだ。「今年に入ってからは、コロナ 禍で経済が停滞したこともあり、期待は日に日に萎んでいきました。5月に入った頃には、『20年の歴史の幕を下ろすことになるのだ』と、あきらめかけていたのが現実です」(野村氏)。

新聞記事をきっかけにあきらめかけた移転が実現

ジュンク堂書店 福岡店

天神界隈の人々はもとより、福岡県内、そして九州全域にファンを持つジュンク堂書店福岡店が終焉の時を迎えようとしていた時、その危機を救ったのは1本の新聞記事だった。2020年5月29日付の西日本新聞に、ジュンク堂書店福岡店が、移転先が決まらず撤退する旨の記事が掲載された。同新聞社の記者たちも、同店のお得意先だったようだ。

この記事をきっかけに、地元の不動産業者から、多数の物件情報が寄せられた。その中の一つが、既存店の南西約500mに位置する、天神西通りにある「天神西通りスクエア」(中央区大名)だった。地上4階、地下1階建の同ビルは、かつては外資系衣料専門店「フォーエバー21」が入居していた場所。その1~3階を借りれば700坪強の売り場面積が確保できる。周辺は百貨店やアパレル、飲食店などが集積する、昼夜を問わず賑わうエリアだった。その後、話はとんとん拍子で進み、6月25日には取締役会の最終決定を経て、移転先が正式に決まり、移転プロジェクトがスタートを切った。

とは言え新規店の開店日は8月7日。6月30日の既存店の閉店日から30数日しかない中での船出だった。急な決定で新しい什器が用意できず、あるものを利用しなければならない。しかも売り場面積が約3分の1に縮小されたことで、蔵書数も140万冊から55万冊程度に減らす必要がある。だが、しっかり作り込んでいる暇はない。それでも最大限に棚は置きたいし、通路幅110㎝はなんとか確保したい。

そこでまず、書店員が棚の大まかな位置を決め、詳細はグループ会社の施工業者に委託した。店内にもともとあったシャンデリアの位置などに配慮して、棚の位置の微調整を進めながら、どの本をどこに、どれだけ置くか決めていった。「蔵書選びは売上に直結するので、全国から各分野のスペシャリストに集結してもらいました。hontoで得た売れ筋データに加え、これまでの経験を加味して、蔵書か返品かを選別。コロナ禍ですから、応援は最小限の人数にとどめましたが、その状況の中でも棚を見ながら、存分に力量を発揮してくれたと思います」(野村氏)。

新店周辺はファッションの街のイメージが強く、若者が多い。そのため、文具売り場を以前より拡大したほか、初めて化粧品などを置くなど、地域に合わせた試みも取り入れた。これだけの規模の店舗を、わずか1ヶ月ほどで契約から開店まで実現したプロジェクトは、同社だけでなく、多くの企業に とっても未経験のことだろう。

「売上が3分の1になってもおかしくない状況の中、幸いにも計画通りの順調なスタートが切れ、手応えを感じています。天神の再開発計画が完了した後、新しいビルに戻るかどうかはまだわかりませんが、今回の経験は様々な意味で、当社の財産になったと思います」野村氏はそう自信をのぞかせた。

愛される理由のある店舗づくりがブランドとしての書店の財産

同店の営業休止を憂えた一人のファンが、そのせつなさを共有するために、昨年12月、非公式ノートを2階文庫本コーナーの本棚に忍ばせ、ツイッターで発信した。すると共感の輪が広がり、これまでの思い出や惜別の言葉、寂しい心情を吐露する書き込みが増えていった。書店員もそのノートの存在に気付いてはいたが、ファンの愛情への、感謝の気持ちを表す意味で、落とし物として処理せず、そのままにしておいたという。今回の移転騒動に先駆けて、そんな出来事が起こるほど、人は書店に対して愛着を持つこともある。

「現在、当社はオンラインでもコンテンツを発信していますが、我々としては、初めに店ありきということを改めて感じる出来事でした。単なる器ではなく、立地や環境、品揃えなどを整え、地域の方々に愛される一つのブランドに仕上げていく。あそこはこういう店だと、提案を通してファンの方々に感じてい ただける店づくりが重要であり、それを実現するためには人材育成が欠かせません。今回、休業ではなく規模縮小とは言え移転できたことは、そういった大切な人材を、たとえ一部でもつなぎとめることができた点でも、本当に良かったと思っています」(野村氏)。

顧客の愛情をひしひしと受け止め、その期待に応えようとする書店員がいる。それがブランドと呼べる書店づくりの第一歩だろう。そんな素晴らしい関係が、今後も日本全国に広がっていくことを心から願いたい。

プロジェクト概要

企業名 株式会社丸善ジュンク堂書店
施設 ジュンク堂書店 福岡店
所在地 福岡県福岡市中央区大名1-15-1 天神西通りスクエア1~3階
オープン 2020年8月7日
規模 売り場面積約720坪(書籍620坪・文具75坪・ギャラリー15坪)
蔵書数 約55万冊
取扱商品 書籍・雑誌・コミック・洋書・文具
CBRE業務 施設賃貸借仲介業務

この記事に関するCBREのニュースリリースを下記よりご覧いただけます。

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上記内容は BZ空間誌 2020年冬季号 掲載記事 です。本ページへの転載時に一部加筆修正している場合がございます。

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