コロナ禍で高まる物流DX需要に応えるために(過去最低の倉庫空室率と慢性的人員不足)
【 物流DX 】5つのチェックポイント
コロナ巣ごもり消費でEC需要が拡大
深刻な人員不足
物流DXによる自動化が急務
自動化に必要な新規拠点開設・統合向けの物件が不足
過去最低の倉庫物件空室率 [ 上図参照 ]
新型コロナウイルスの感染拡大による「巣ごもり消費」などに伴って電子商取引(EC)が急増し、物流施設の需要が伸びています。CBREの調査によれば、2020年9月期の首都圏大型マルチテナント型物流施設(LMT)の空室率は0.5%と前期から0.1ポイント低下し2020年3月期の過去最低値に並びました。〔上図参照〕
しかし需要が拡大する一方、購買スタイルの変化による慢性的な人材不足は、物流業界の深刻な課題となっています。世の中が便利になるにつれ、消費者の高まる要求に応えるためにはこれまでの延長線上のやり方ではなく、物流のあり方そのものを変えていく必要があります。2018年に経済産業省がまとめたガイドラインでは、デジタルトランスフォーメーション(DX)は「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」と定義されています。つまり、AIやIoTなどの新しいデジタル技術を活用し、社会や企業の課題を解決することがDXだと言えます。今回は、物流に特化したアプリケーション開発とコンサルティングのリーディングカンパニー、シーオス株式会社に、物流の自動化に向けて企業が備えるべきことを聞きました。
私共CBREでは、物流DXの入り口として、難航する倉庫物件探しのサポートをさせて頂いております。
物流はこれまでのやり方の延長線上ではない、まったく新しい「あり方」へ。
重視するのは「柔軟性」
シーオス株式会社
上席執行役員 ビジネスクリエーション部 部長
西村 順氏
ビジネスクリエーション部 シニアマネージャー
今井 義徳氏
少子高齢化だけではない物流クライシスの本質
ECの進展による配達の小口化・多頻度化で業務は増加、30年間トラックの積載効率は下落
今日の物流を考える際、ECの拡大は避けては通れない問題で、物流に2つの大きなインパクトを与えています。〔図2〕
1つめは、物流業者がやるべき仕事の範囲が増えるという点です。つまり、ECでは消費者はもはや画面上でワンクリックしかしてくれません。そのため、従来消費者自らが行っていたスーパーマーケットに行って自分で買い物カゴに欲しいものを入れるという行為を、物流業者が消費者に代わって行わなければならなくなりました。そこで追加で配送費用を取るケースは少なく、物流業者にとっては売上は変わらず作業範囲だけが増えるという構図になります。
少子高齢化で労働力人口が減るだけではなく、物流現場の業務範囲はこれまでより増えているのです。さらに、従来は消費者が自ら持ち帰っていた自宅までの移動も物流業者が配送しなければならないため、業務費用に加え、配送費用も大きく上昇するのが実態です。
2つめは、荷物の小口化による効率性の悪化です。ECに対応するための作業は従来の店舗向け物流と違い、作業する単位は非常に細かくなります。例えば、同じ100の物量を出荷するとしても、ピッキング・梱包すべての工程をまとめて行うことが難しくなるため、現場の作業負担は従来とは比べられないほど工数がかかるようになります。また小口化が進むと荷姿はバラバラで積みづらくなる上に、スピードデリバリーが求められるようになります。
こうした背景によって今日において、トラックの積載効率はわずか40%程度で、この数値は30年間下がり続けています。〔図3〕つまりどんどん効率は悪くなっていっているのです。世の中が便利になるにつれ、ますます高くなる消費者の要求を満足させるためには、従来型の延長線での物流のやり方では到底対応しきれなくなっているのです。
こうした背景の中、ニトリ、ユニクロ、佐川急便などの大企業は完全自動化を発表、AI、ロボティクス、テクノロジーで省人化・自動化は避けられない流れとなっています。
物流自動化の鍵は“標準化”
標準化による新たなサービスプラットフォームの誕生─配送業務を標準化したUber Eats
コロナ禍で日本でも広く普及したオンラインフードデリバリーシステムUber Eatsを物流という側面から捉えた場合、最も優れている点のひとつに配達員とお店の接続点を標準化したことが挙げられます。
配達員はお店に行って「Uber Eatsです。〇番をお願いします」と言うと、お店側は梱包した状態で配達員に渡し、配達員はただ運ぶだけです。
当たり前のように感じるかもしれませんが、仮に標準化をせず、ある店にピックアップに行く時は梱包箱を持って行かなくてはならないとか、この店の場合はナイフとフォークを用意しなければならないとか、電子決済できない店の場合は紙の伝票を使わなければならないとか、こういうことを言い始めるとサービスとして成り立ちません。
多くの企業は“お客さまサービス”の旗印の下に個別のカスタマイズをどうしてもやりたがり、“木を見て森を見ず“になってしまいがちです。標準化はこれからの物流サービスを展開する上でとても重要なキーワードになると思います。
遅々として進まない日本の標準化と物流
コロナ禍はゲームチェンジのきっかけになるのか
Uber Eatsの例は比較的わかりやすくシンプルなモデルですが、今の物流現場で起きていることはそんなに簡単には進まないケースがほとんどです。今でこそ、アマゾンのように物流業を強みとするグローバル企業が出てきましたが、物流はもともと業界や企業内では裏方で、メーカーなら花形の製造部門の要望とお客さま第一という営業部門の板挟みで対応せざるを得ないという構造的な問題があります。本業のビジネスを円滑に回して当然なのが物流の仕事とされ、過分とも思われるお客さまサービスのしわ寄せを受けています。
商品が不足気味になれば、特定のお客さまにはバイク便で届けたり、在庫が増えすぎれば近くに別倉庫を借りたりと、場合によっては営業担当が物流倉庫に入り勝手に在庫を持って行くというケースもあります。当社のお客さまの中にもイレギュラーがどんどん増えていき、何百種類というパターンの業務表をお持ちになる企業・物流部門も珍しくはありません。
伝票の種類だけでも膨大な数になり、お客さまと会話をすれば、その特殊伝票にこだわりはなく、変えてもいいというお客さまも多くいらっしゃるのですが、顧客のサービスレベルを決めるのは営業マターであり、要否を物流部門では判断できず改革が進まないケースがほとんどです。
こうした中、物流現場は特定の制約条件下で、日々改善活動を良くも悪くも進めてきました。その結果、それぞれの物流センターが独自の進化を遂げることとなり、日本の物流センターは100施設あれば100通りの物流センターができあがってしまったのです。
働き方改革・働き手の環境向上の文脈で物流施設内に託児施設を設けるなど働く環境の整備に注力する企業は増えていますが、実際の作業そのものの標準化に着手している企業はまだごく少数です。
アマゾンのような大規模プレーヤーは大型投資でファシリティ・マテハンをすべて丸ごとゼロから作り上げ、自分たちの業務こそが標準として推し進めていますが、多くの企業はそこまで大きな投資は困難です。となれば、部分的にでも自動化・省人化を図らなければならず、そのためにはまずは標準化が必須になってくるのです。
奇しくもコロナ禍で営業担当が直接お客さまと商談をする機会が減った際、出荷量が減るどころか、普段発生するイレギュラーがなくなり効率的に業務を行えたというお客さまがいらっしゃいました。いまや各社が利益確保を優先する中で、こうしたきっかけから行き過ぎたサービスレベルの見直し、サイロ化した業務の標準化を進めざるを得ない状況になってきているのではないかと見ています。
製造と販売のサステイナブルな調整弁としての物流を実現
自律走行型搬送ロボット「SLAM式キーカート(Logiler Move)」を提供
物流は産業として製造と消費を調整する弁のような役割を果たしています。製造は事前に計画した数量にもとづき、工場のラインに定量的に流していく構造を持つ一方、消費は日々変動する需要に呼応する形で必要数を都度供給する形をとらざるを得ないため、間にある物流機能で上流と下流の数量差を補完する必要が出てくるのです。今後、テクノロジーがどんなに進化したとしても、その役割の本質自体は変わらないでしょう。そこでは、いかに柔軟にできるかが求められます。
アマゾン、アスクルのような大企業は、全自動化、全機械化という大きな投資ができますが、そこまでの企業体力を持つ物流会社は多くはありません。我々のソリューションを求めているのは、中規模から小規模の物流現場で困っている方々です。倉庫内での作業員の動きのほとんどは搬送を伴う移動で占められるため、これらの人々は金額規模が大きくなりがちなマテハン投資を行わなくても、搬送業務の一部でも自動化、省人化できる搬送ロボット「Logiler Move」をまずは現場に導入したいと思っています。
ロボット導入というと、ロボットがヒトの仕事を奪うかのように言われますが、1950~60年代にかけて三種の神器と言われた洗濯機、掃除機、冷蔵庫が飛躍的に普及しても家事はなくなりませんでした。家電の普及がもたらしたものは家事時間の減少ではなく、家事時間の質の向上だったことを考えると、ロボットとの協働によりヒトの生産性の向上が期待できます。
物流DXによりヒトと機械が協働する社会へ
ヒト・マテハン・ロボットの協働のベストミックス─変化の時代に重視するのは「柔軟性」
我々は3PL事業者として現場(川崎事業所、大阪事業所)も有しており、ワンストップでより高い付加価値をお客さまに提供しています。現場を有していることは大きな強みであり、ロボットを開発しすぐに現場にて実証検証をすることができます。つまり、ロボットの視点で言うと倉庫内は整備された室内の展示会と異なり、朝と夕方の明るさや時間帯で庫内の荷物の有無が大きく変わるなど、現場ならではの課題があります。それらをいち早く抽出しチューニングできるため、開発スピード向上に寄与しています。
当社の考える今後のめざすべき物流センターのあり方は、ヒト・マテハン・ロボットの3者が協働するセンターです。すべての物量をマテハンで対応するのではなく、需要の変動に応じてヒト・マテハン・ロボットのそれぞれの仕事量を柔軟にミックスできるようにします。特にロボットは日進月歩で新しい商品が日々投入されていますので、我々はロボットの進化に合わせてヒトとの棲み分けも順次変更していく、こういったセンターを構想・提案しています。
そうなると当然ながら、3者を制御するソフトウェアはますます重要性が増します。我々がロジスティクス業界のソフトウェアカンパニーとしてデジタルトランスフォーメーション(DX)を牽引していきたいと考える根底には、こうした背景があるのです。
これからの倉庫内の自動化、これからの物流
自動化が促進できる倉庫要件とは
倉庫内の自動化に向けて、5〜10年後になったとしても、やりたいと思った時にできる、あるいはしやすい環境を今から準備しておくことは非常に重要です。一部のロボットやマテハンではあまり重要視されていなかった専用の無線ネットワーク環境や、電気容量の確保などが課題になることもありますので、新たな倉庫への移転、建築を検討されている場合は、そうしたことも考慮しながら実施されるとスムーズなのではないでしょうか。
今後、ロボットの導入が進むと、求められる倉庫の要件も変化すると考えられます。搬送ロボットという観点では、倉庫内の柱や壁の位置、防火区画などの制約が、走行ルートの複雑度を上げることもありますので、防災上の要件はクリアしている前提で、もう少し自由度が許容されたらと思います。
物流の自動化とDXに向けて備えるべきこと
物流の自動化についてお話ししてきましたが、各企業にとって、業務プロセスの標準化を進めていくことが最も優先すべき課題です。標準化なしには、自動化すべきプロセスがどこなのかを判断すらできません。また、標準化はプロセスごとの現行費用を可視化する効果があり、将来、自動化ソリューションの導入を検討する際にも、有用であると考えています。
これまでの物流は、現状の物流の仕組みの延長線上で将来の物量増加にも耐えうることが差別化のポイントでしたが、今後は物流の「あり方」自体が変化していく中で、速やかにかつ柔軟に業務を対応させていくことが問われます。具体的には、ヒト・マテハン・ロボットのリソースを最適配分・最適活用できることが付加価値になっていくと思われます。
当社のお客さまについても、ここ数年は自動化が必須のテーマとなっており、最初のステップとして業務プロセスの整理・標準化からお手伝いさせていただくケースが非常に多いです。今後、自動化を促進するために、各社のソリューション間でのコラボレーションがますます加速していくと推測されますが、その前準備としても、まずは標準化から取り組まれることをお勧めいたします。
シーオス株式会社について
※倉庫自動化に必要な、新規拠点・集約向けの物件をお探しのお客様はこちらからご相談ください
上記の記事の内容は BZ空間誌 2020年冬季号 掲載記事 に、PROPERTY SEARCH編集チームが概要を冒頭に追加したものです