主要なリテールエリアに路面店舗を出店するリテーラーの中には、新型コロナウイルス収束後の出店戦略が感染拡大前に比べて変わったと考えるリテーラーが多くみられている。大きなポイントとして3つ挙げられる。1つ目は、実店舗とECサイトの連携強化だ。緊急事態宣言による営業自粛などで実店舗の売り上げが激減した影響から、ECサイトの販売を強化するリテーラーが増えている。そういったリテーラーの中には、実店舗をブランディング、商品体験の場と位置づけているところがある。必ずしも商品を販売することを主な目的とはしない、ショールーム型店舗になる。例として、ECサイトで気になる商品を選んだ消費者が、実店舗で実物を試着した上で購入するという仕組みをテスト運用しているところがある。実店舗の在庫切れによる販売機会ロスを防ぐことが可能だ。
2つ目は、出店目的に合わせた店舗サイズや出店時期の適正化だ。先述したように、緊急事態宣言による営業自粛などで実店舗の売り上げが激減したリテーラーは多く、賃料の支払いが大きな経営負担となっていた。そのため、賃料総額が高額となる大型店舗は、ブランディングなどをおこなう旗艦店舗に限定し、その他は販売効率や利便性の高さを重視した小型店舗を増やす意向を持っているところがある。また、長期契約を結ぶ常設店舗よりも、新商品をプロモーションしたい時期などに合わせた期間限定のポップアップストアの出店を考えているところがある。すでにショッピングセンターの中には、短期契約かつ完全歩合のテナントを受け入れはじめたところもある。
3つ目は、出店エリアのシフトだ。緊急事態宣言下で主要なリテールエリアを訪れる人の数は激減し、現在も感染拡大前の水準には戻っていない。そのため、リテーラーの中には売り上げが安定している生活圏への出店を重視する動きもある。特に、インバウンド需要の取り込みを狙って主要なリテールエリアに出店していたドラッグストアの中には、生活圏に出店することで日本人消費者の売り上げを伸ばそうとする動きがみられている。ただし、ラグジュアリーブランドなどブランドイメージを重要視するリテーラーは、これからも主要なリテールエリアのハイストリートに出店しようとしている。
こうした3つのポイントを踏まえると、新型コロナウイルス収束後の、いわゆる「アフターコロナ」時代における主要なリテールエリアへの出店ニーズの牽引役は、「ショールーム型店舗」「ポップアップストア」「ラグジュアリーブランド」といった形態や業態となりそうだ。これらに共通しているのは、実店舗が商品やブランドの「体験」の場として機能していることだ。例えば、ショールーム型店舗の中には国内未発売となっている海外製品や現在開発中の試作品を陳列し、自由に手で触れることを推奨しているところがある。また、AI(人工知能)の機械学習機能を使ってレコメンドを作り、消費者が楽しみながら自分に合う商品を探すためのサポートサービスを提供しているところもある。いずれも、ECサイトの販売を強化しつつ、 “実際の商品をみたい”という消費者の欲求を満たそうとしている。
ポップアップストアは、期間と場所が限定されたイベントだということが消費者に希少性を感じさせている。また、出店目的の1つがSNSを使った口コミの拡散、いわゆるフリーパブリシティによるリーチの拡大であるため、SNSに思わず投稿したくなるような驚きや感動を創出する企画がおこなわれている。CBREの調査では、2019年の路面店舗のポップアップストア数は対前年比81.8%増えており、その多くは表参道・原宿エリアに集中している。
ラグジュアリーブランドは、その価値がブランドイメージによって確立されていると言っていい。消費者にイメージを伝達する手段として、ブランド独自の世界観にもとづく実店舗の作り込みや、実店舗を出店する際のエリア/立地戦略、ホスピタリティの高いカスタマーサービスに力を入れている。すなわち実店舗は、消費者一人ひとりに対して特別な買いもの時間(カスタマーエクスペリエンス)を提供することで、ブランドロイヤリティの高いファンを醸成する場となっている。
このように、これからの実店舗は、わざわざ実店舗に足を運びたくなる動機を消費者に持たせることが、必要不可欠となるだろう。新型コロナウイルスの収束がみえない直近の出店ニーズは、予算がある一部のリテーラー、もしくは既存店舗からの移転を余儀なくされるなどの理由があるリテーラーに限定されている。今後、新型コロナウイルスが収束することで、体験型店舗の出店が増えると考える。