駅前の大型ビルが目を引く大崎であるが、都内ビジネス街の中では認知度が低い感があったのは否めない。しかし、都心中心部でオフィス供給量が減少し、需給バランスがタイトな状況が継続すると予測される今、ポテンシャルを秘めた大崎の存在がマーケットの中で急浮上している。この項では、ビジネスの場としての大崎の姿を観察する。
都内主要5区の空室率と平均募集賃料の推移
上のグラフは、㈱生駒データサービスシステム調査による、「大崎」ゾーンと東京23区の空室率と平均募集賃料の推移を示したものである。なお、大崎ゾーンは、2007年3月期から調査ゾーンの拡大が行われたため、グラフ上では06年12月までを掲載している。
大崎がビジネスゾーンとして調査対象となった1998年は、金融不安等による市況低迷が継続、企業のオフィスニーズは沈静化し、23区の空室率は上昇傾向にあった。そのような状況下で、99年にゲートシティ大崎が竣工したが、統合移転等の限られた需要を新築大型ビルが独占する形となり、順調なスタートを切る。大崎ゾーンは、隣接する品川ゾーン等と比較すると、ビルのスペックに対して賃料水準に割安感があり、大手企業によるゾーン内外の拠点集約や、他ゾーンからのコスト削減目的移転の格好の受け皿となった。
その後の空室率推移を見ると、23区平均が上昇傾向にあった局面でも、大崎ゾーンではほぼ2%台の低水準を維持しており、ピーク時でも04年3月の3.4%。オフィス市況が回復に転じた後には下降傾向を辿り、06年12月には0.4%と空室は払底、タイトなマーケットとなっている。平均募集賃料については、05年までは、23区平均とほぼ同レベルで推移してきたが、06年になって上昇傾向を示し、9月には16,750円/坪と、主要5区平均(千代田・中央・港・新宿・渋谷)の13,120円/坪をも大きく上回った。ただし、同時期のデータのサンプルとなったテナント募集中ビルはごく少数であったため、大崎ゾーン全体の相場を表しているとは言い難い。
空室率が低水準で推移してきた背景には、新規供給が長期にわたり抑制されたため、大型ビルの希少な空室は館内テナントの増床用に確保されて外部募集に出ることは稀であるという、大崎ゾーンのマーケットの特殊性がある。裏を返せば、数棟のAクラスビルが牽引する市場であるために、需給バランスの一時的な変動によって市況データは大きく変化する可能性があるということになる。同ゾーンでは、再開発計画が次々と具体化され、ビジネス街としてのステイタスが高まるとともに、強みでもあったリーズナブルな賃料水準は、他ゾーンとの差が縮小されつつある。そのため、今後はその競争力の真価が問われることとなるだろう。同時に、都心中心部での新規供給が減少傾向にある中、かつてゲートシティ大崎が示したように、再開発による大型供給が需要流入を喚起し、さらなる市況活性化が期待できるとも言うことができる。今後に控えている大型再開発群の動向が注目される。
オフィス仲介営業マンが見た"大崎"
~最後の大規模再開発エリア~
今、都内で最もダイナミックな変化の過程にあるエリアとして、第一に挙げられるのは大崎でしょう。かつて大崎駅周辺といえば、工場の集積する街として、JR山手線沿線では今ひとつ目立たないエリアでした。しかし、工場街であったからこそ、その跡地というまとまった敷地を利用した大規模な再開発が可能となっているのです。品川駅東や汐留(新橋駅東)での再開発が一段落した後、山手線沿線で、大崎は大規模再開発が可能な最後の駅と言われており、そのポテンシャルの高さにより、オフィスマーケットから熱い注目を集めています。
エリアがポテンシャルを向上させるための要件として、交通インフラの拡充と、インパクトのある開発や連続した大規模オフィスビルの存在等が挙げられます。交通の面から見ると、大崎駅は、山手線の駅であることに加え、りんかい線の全線開通や埼京線・湘南新宿ラインの延伸によって利便性が格段に増し、埼玉・神奈川・千葉方面へのアクセスもスムーズとなり、通勤の面でも好立地となりました。
次に、インパクトのある開発や大規模オフィスビルの連続性という点で見ると、大崎駅東側では、1987年に大崎ニューシティ、1999年にゲートシティ大崎がオープンし、それぞれがAクラスビルとしてランドマーク的存在となりましたが、その後数年間は1万坪以上の大型新規供給はなく、エリア全体では業務集積地としての認知度はそれほど高くはありませんでした。
しかし、2006年12月に、ワンフロア800坪強、延床面積約25,000坪のオフィスビル、アートヴィレッジ大崎セントラルタワーが竣工、今年1月にはアートヴィレッジ大崎全体がまち開きを迎え、駅東側のフロントラインの開発がほぼ完了し、ビジネス街としての体裁を整えつつあります。また、駅の西側では、延床面積約46,000坪の大規模オフィスビル、ThinkPark Towerがその威容を現しており、周辺では他にも数年後に完成予定の再開発計画が目白押しです。これらの開発の絵が次々と明らかになることで、大崎のビジネス街としてのランクは確実に高まってきています。
大崎駅周辺の開発の特徴は、これら個々のプロジェクトが、駅を起点にペデストリアンデッキ等で結合され、全体の回遊性が確保されていることです。それぞれの事業主体が連携し、一体的なまちづくりを行ってきた結果と言えるでしょう。また、オフィスビルだけでなく、商業機能や居住機能も盛り込んだ複合開発が中心となっており、山手線沿線にまた新たな賑わいをもつエリアが誕生することに期待しています。
水と緑が彩る憩いの空間
~環境に配慮した大崎の再開発~
現在、続々と再開発が進み、その姿を変貌させつつある大崎駅周辺。かつてこの一帯は、目黒川の傍ということで戦前から工場街として発展してきたエリアであった。だが、1960年代後半、環境汚染などがクローズアップされたことを契機に工場群が郊外へ移転を始め、研究・情報部門が集積する都市型工業地へと転換を図った。大崎副都心構想のもと再開発が加速し、近年では、ヒートアイランド対策モデル地区の1つに指定され、地元企業や品川区からなる「大崎駅周辺地域 都市再生緊急整備地域 まちづくり連絡会」を中心に、目黒川の護岸整備をはじめ、都市環境改善へ様々な取り組みが行われている※。このように、大崎駅周辺は住工混在というエリア特性から、環境配慮に基づく住環境の向上を重視した、総合的な視野に立った都市づくりが行われてきた経緯がある。
そして、大崎駅周辺のオフィスビルにおいても、河川や道路等の都市インフラと一体となった環境配慮型の開発が進められてきた。まず、大崎駅周辺開発の先がけとして、1987年に誕生したのが大崎ニューシティ。この中心には緑豊かな回遊スペース「Oパティオ」があり、大崎駅東口から直結するペデストリアンデッキと、大崎ニューシティを形成する複数のビルを結ぶ有機的な動線として、駅前の賑わいを創出している。また、目黒川を挟んで東側に建つオーバルコート大崎は、再開発に合わせて拡幅・整備された御成橋公園、御成橋通りの歩行者空間とともに、季節感豊かな緑地空間を一帯に形成している。ゲートシティ大崎周辺には、都市景観保護と一人当たりのオープンスペースを確保すべく、ランドスケープデザインによる広大な庭園が広がる。容積率緩和が進み、オフィスビルがより高層・大規模化している都心では、土と緑を感じさせる稀少なアメニティ空間と言えよう。
そして、大崎駅西口エリアで今年初秋にオープンを予定しているThinkParkには、敷地全体の約4割を占める緑豊かな公開空地、「大崎の森」が設置される。オフィス環境に自然を取り入れることで、ワーカーの新たな創造性を喚起するという、これまでの都心プロジェクトとは一風異なった新しいコンセプトが採用されている。
今後、大崎駅周辺では、新たなオフィスビル供給によるワーカー数の増大が予想されるが、緑を配した安らぎあるスポットが随所に置かれ、居住性に優れたオフィスゾーンとして注目を集めるであろう。
出所:「大崎駅周辺地域 都市再生緊急整備地域 まちづくり連絡会」HP