大型物流不動産マーケット、拡大は途上
ECモールの流通量はまだ拡大の途上である
一方で、製造業や小売業は自社ECサイトを通じたダイレクト通販にも積極的
eコマースの拡大は在庫の総量を増加させ、物流需要に好影響をもたらす
自動化設備やロボット技術の導入のための倉庫の大型化、
ドライバー不足対策のため拠点を全国に分散する動きもまた、物流需要を生む
2019年の大型マルチテナント型物流施設(LMT)の新規需要は、三大都市圏の合計で100万坪に届く勢いだ。2018年の記録を40%ほど上回る過去最高となる見込みである。その需要のドライバーは2つ、eコマースと人手不足対応だ。
大手eコマースは、商品の品揃えの拡大や安定した配送ノウハウを売りにして、ますます販売量を拡大している。一方、出品企業は、販売データを自社で蓄積できないことに対する危機感を感じている。ダイレクトに消費者とつながることで、販売履歴の蓄積やマーケティングが可能になり、それを経営戦略に活かすことができる。したがって、ECモールを併用しながらも、宅配に慣れた消費者を、自社のECサイトやテレビショッピングなどを通じて直接販売に取り込むことに積極的だ。その結果、ECモールに預ける商品のほかに、自社でコントロールする商品も必要になるため、在庫の総量は膨張することになる。
店舗販売の方法が変化していることもまた、物流需要を生み出している。先ごろ渋谷に開業したPARCOでは、商品在庫をまったく置かない衣料品店が登場した。店舗の商品はあくまで試着用で、実際の購入は店頭にある画面を操作して、倉庫から自宅に配送してもらう。このような店舗の登場は、配送センターの役割の更なる拡大を示唆している。
一方で、物流倉庫は多くの人材が必要な職場に変わった。個人向けの販売を扱うeコマースの倉庫では、大型の荷物を扱う倉庫と異なり、個別の作業が格段に増えるからである。このため、採用難と人件費の上昇といった雇用に対する危機感は、物流業界における最重要課題となった。こうした中、ファーストリテイリングは、自動 化設備やロボット技術を取り入れ、倉庫の全自動化をほぼ実現する見込みだ。同社は今後、日本、中国、米国の倉庫をすべて自動化するために1,000億円を投じるという。こうした動きは他の企業でも見られるようになるだろう。このような倉庫は大型化し、最新のスペックを必要とするであろう。また、トラックドライバーの確保も厳しさを増している。物流業者の間では、ドライバー不足に対応するため、配送の中継地点を開設する動きが活発になっている。初期段階ではコスト増となるものの、高騰する人件費に鑑みると長期的な費用対効果は高く、サプライチェーンの分断も避けられる。因みに、配送拠点の分散は、近年頻発する台風被害への対応策としても有効だ。災害リスクの低い場所を選ぶのが最善ではあるが、用途地域やコストとの兼ね合いもあり、すべての被害想定をクリアするのは難しい。在庫や配送拠点の分散を図ることによって、万一の場合の被害を最小限に抑えることが現実的である。このことは、地方における物流施設の需要が増すことを意味している。
このように、eコマースの拡大と人手不足は、多くの企業の物流戦略に影響を及ぼしており、物流業界の改革はまだ進行途中である。首都圏、近畿圏、中部圏いずれにおいても物流施設のニーズは依然として強く、需給バランスはタイトな状況が続くだろう。