前述の5項目の中で、もっともTPP実施の効果がわかりやすいのが関税の撤廃だろう。関税は輸入されるすべての商品に課税されるものだが、TPPにより、従来からの輸出入品が、即時あるいは最長10年の間に撤廃、あるいは削減の対象になる。
具体的に見ると、輸入については約8万品目の工業製品、および酒類・タバコ・塩は100%が撤廃される。また、農林水産品については、コメz麦、牛肉・豚肉、乳製品(脱脂粉乳・バター・チーズ)、砂糖の、いわゆる重要5品目を除いたすべての品が100%撤廃されることになる。
一方、輸出については、日本以外の11ヶ国全体で、工業製品の99.9%、酒類・タバコ・塩については100%、また、農林水産品についても99.5%の関税が撤廃される。すべての製品について、即時完全撤廃というわけではなく、段階的な実施となるため時間を要するものもあるが、長期的に見れば輸入品は安くなることで、輸出品は海外の市場が拡大することで、より需要が拡大するのは明らかだ。
参考に、過去に発効された日本と諸外国との、2国間のEPAにおける関税削減の効果を見てみよう〔図表5〕。日本からの輸出品目で見ると、シンガポールとの間で2002年に結ばれたEPAにより、ビールの輸出量は発効前年である2001年の0.6億円から10年間で3.4億円と5.7倍に拡大した。またブルネイへの原動機では、締結前年の2007年には2.1億円だったが、4年後の2011年には5.2億円と2.5倍に増加している。
また輸入品についても、シンガポールからのプラスチックおよびその製品が116億円から255億円と2.2倍に、インドネシアからのココアは締結前年の2007年の5.0億円から2011年には10.1億円と2.0倍に、それぞれ拡大しているのだ。
さらに、巨大経済圏の誕生による貿易規模の変化を見てみよう。NAFTAは、それまで緩やかだった上昇傾向が、1994年の発効を境に加速度が増し、WTOの交渉がスタートした2001年の直後から、急速に拡大していった。またEUの主要加盟国についても、1993年の設立後もほぼ横ばい状態が続いたが、2001年以降は急激に貿易規模が拡大している。
こうした例からもわかるとおり、巨大市場の形成、および関税の撤廃により、貿易量が拡大することは疑う余地がない。残念ながら、先にも述べたとおり、WTOは2011年に事実上の停止状態に陥り、これにより、世界の貿易規模の成長は鈍化傾向にある。その意味で、TPPによる一段の貿易量UPを実現したいと考える国は多いだろう。
我が国においても、自動車、化学、家電などの幅広い工業製品を中心に輸出増が見込まれていると同時に、プラスチック原料等の化学製品や生地・衣類などの繊維製品、および野菜や果物、加工品を含めた食品関連の輸入が大幅に拡大する可能性がある。
政府試算による、関税を撤廃した際のマクロ経済効果は、輸出が2.6兆円増、輸入2.9兆円増であり、合計5.5兆円分の物流増が見込まれているのである。これはあくまでも関税撤廃による効果であり、先に述べた投資ルールの共通化や規制緩和などの交渉項目も含めれば、経済効果は8兆~10兆円にもなるとみられている。
物流量の増大という観点から言えば、eコマースの動向も見逃せないポイントだ。輸出における貨物の中心は製造業による製品だが、今後はeコマースを通じた小売業による輸出量が拡大する可能性が大きい。
eコマースの拡大は世界的に起こっている現象であり、TPPでは、eコマースについても過剰な規制の禁止、および関税を課さないルールを設けている。市場の拡大は急速に起こっているが、なかでもアジア・太平洋地域の成長は著しい。〔図表6〕からもわかるとおり、世界全体の成長が2倍超であるのに対し、アジア・太平洋地域の伸び率は3.5倍であり、2015年には北米地域を抜いて、世界最大のeコマース市場になる見通しだ。