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日本におけるWELL Building Standardの展望と課題

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2018年10月30日

株式会社ヴォンエルフ 取締役 小山 暢朗 氏 / GBJ監事 WELL AP

株式会社ヴォンエルフ
取締役 小山 暢朗 / GBJ監事 WELL AP

WELL認証の概要

昨今、「健康経営」や「働き方改革」等のキーワードに関連する動向の一つとして、健康とウェルビーイング(Health&Wellbeing)に焦点を当てた建物・空間の評価システムである「WELL Building Standard(WELL認証)」に対する関心が高まっています。

WELL認証は、空間が人間に及ぼす影響に関する科学的な研究結果に基づき、各種の要件を規定するなど、6年余りの開発期間を経て、The International WELL Building Institute(IWBI)より2014年10月に発表された評価システムです。IWBIが開発・維持改訂を担い、Green Business Certification Inc.(GBCI)が審査し、第三者認証を付与。GBCIはWELL以外にも建築物やエリアの環境性能評価システムであるLEEDや、ランドスケープの環境性能評価システムであるSITES等の第三者認証審査を行っています。

WELL認証において「健康とウェルビーイング」とは、単に病気や虚弱でないということではなく、健康な心身と社会生活を得て、より積極的・創造的な健康生活を目指す生活行動や心の持ち様を指します。このため、WELL認証では建物の設計や管理に加え、医学、心理学、経営学など心身の健康に影響を与える様々な分野を統合したシステム設計がなされています。

例えば、WELL認証における空気や水というコンセプトは、建物の換気性能や節水性能の評価ではなく、建物内における空気質、水質を中心に評価。さらに食物、活動、こころといったコンセプトの評価項目では、建物の設計や管理の範囲を越え、建物内で提供する食品、人事や総務の各種ポリシー整備、メンタルヘルス対策などが含まれるなど、LEEDやCASBEEなどの建築物の環境性能認証システムと明らかに異なるアプローチでシステムが構成されています。

WELL認証は2018年5月末に、IWBIより次世代のシステムであるv2 pilotが発表されました。現在は現行システムであるv1と次世代システムのv2のどちらでも申請が可能ですが、今後一定の猶予期間を経て、v2へ正式に更新される見込みです。本稿では、以下v2を中心に概要を説明します。

WELL v2のコンセプトと評価項目数

WELL v2では、基本的に一つのシステムで評価が行われますが、評価項目の選択肢の中からプロジェクトの評価対象に応じて評価項目を一定の条件下で選ぶことができます。建物のベースビルを認証する場合は、「WELLコア認証」と呼ばれます。

評価項目は基本的に10のコンセプトで構成されており、各コンセプトの評価項目は必ず要件を満たさなければならないPrecondition(必須項目)と、プロジェクトオーナーが申請項目を選択できるOptimization(加点項目)に分かれています。必須項目には配点はなく、加点項目は10の基本コンセプトで100点満点、それ以外にイノベーション項目が設けられ、既設の項目で評価できない項目を加点として10ポイントまで追加することができます。必須項目をすべて取得し、加点項目の取得ポイントに応じてサーテイファイド(40~49ポイント、ただしWELLコア認証のみ)、シルバー(50~59ポイント)、ゴールド(60~79ポイント)、プラチナ(80ポイント以上)の認証が付与されます【図表1】。

本稿では誌面の都合上、各コンセプトの評価項目の内容を解説することはできませんが、詳細はIWBIのホームページから無料でダウンロードすることができます。IWBIではWELL認証の積極的な国際展開を目指しており、日本語の資料も徐々に拡充してきているので、参照してみてください。

日本における健康経営とWELL認証について

国別プロジェクト登録数(認証済み含む)

日本で関心が高まりつつあるWELL認証ですが、IWBIのデータベースから、2018年7月28日時点でのグローバルでの登録や認証の状況分析をしてみましょう【図表2】。全世界でのプロジェクトの総登録数は950件、うち認証済みは109件(予備認証97件を除く)。WELL認証は米国で開発されたことから、プロジェクトの総登録数の40%近くが米国の案件です。州別の登録数ではカリフォルニア州がトップで、柔軟なアイデアや知的生産性の向上に、より関心の高いシリコンバレーを中心としたIT関連企業等が積極的に採用していると推察されます。

国別の登録数では米国に次いで中国が他国を大きく引き離しており、潜在的なマーケットの大きさを感じさせられます。ただし、中国のWELL認証はその約半分が分譲集合住宅に対する登録であるので、グローバル市場におけるオフィスに対するWELL認証の関心との差異に注意が必要だと思います。 一方、日本における登録数は9件、認証済みは1件(予備認証は2件)となっており、他の国や地域と比較して若干の出遅れ感は否めません。プロジェクトについては、ゴールド認証済みの「大林組技術研究所テクノステーション」、また予備認証を取得した「横浜グランゲート」「清和ビジネス本社」が公開されていますが、その他については非公開となっています。

弊社では、LEED認証を中心にWELL認証やSITES認証のコンサルティングのサービスを提供していますが、今年に入ってからWELL認証に関する問い合わせが急増しており、企業やマーケット関係者の関心の高さに注目しています。加えて、LEED認証やWELL認証の日本での普及を目的として活動する、一般社団法人グリーンビルディングジャパン(GBJ)でのWELL認証に関するセミナー等の盛況ぶりや、より国際化や多様化を意識したシステムに更新されたv2の本格運用を考慮すれば、今後日本における認証取得の動向がさらに拡大する可能性は十分あると思われます。

また、GBJでは、日本におけるWELL認証の普及や教育プログラムの実施をサポートしています。今後も日本語資料の拡充、各種セミナーの開催、GBJ WELLワーキンググループによるAAP(代替適合手段)やIEP(国際同等性プロポーザル)の提出など、日本でもWELL認証がより使いやすいシステムになるよう活動を進めており、このような一連の取り組みもWELL認証の認知や取得を加速させるものになるでしょう。

日本でのWELL認証の可能性は有望と考えられますが、認証取得に向けたハードルの一つとして、プロジェクトチームの位置付けが挙げられます。WELL認証の取得には、オフィスの設計、施工、運用、管理、総務、人事にとどまらず、社員用の食堂や物販店舗の運営者など様々な部署の連携が必要で、認証取得に向けた課題をボトムアップで解決しようとしても、各部署間の調整など難しいケースも多々あります。健康経営や働き方改革とは、文字通り経営課題の解決であり経営方針の改革です。トップダウンによる力強いリーダーシップを示すことが、プロジェクトの推進には不可欠で、プロジェクトメンバーが経営層のコミットメントをいかに共有できるかがポイントになります。認証取得はゴールではなく、あくまでも経営課題を効率的かつ効果的に解決するツールの一つと捉えることが求められるでしょう。

世界最大の年金基金であるわが国の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、昨年からESG(環境・社会・ガバナンス)指数に連動した日本株のパッシブ運用を1兆円規模で始めました。この背景には、日本企業をめぐるESGに対する評価と長期的な期待収益の向上を、GPIFが意図していることがあり、この動向に伴って、指数に採用されるためのESGに対する日本企業の取り組みは、今後も拡大することが予想されます。

企業における建築物やオフィス環境に対する考え方も、その企業の環境や社会に対する取り組みはもちろんのこと、従業員の健康や生産性にも大きな影響を及ぼすことがますます意識されるでしょう。また、日本の少子高齢化に伴う労働人口の減少は当面継続することから、優秀な人材獲得に向けて、ワークライフバランス、健康経営、働き方改革といったキーワードに対するアウトプットとして、WELLやLEED等の認証取得も有効なアプローチの一つになると思われます。

上記の記事の内容は BZ空間誌 2018年秋季号 掲載記事 掲載当時のものです。

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