アジア太平洋地域で拡大するコワーキングスペース
コワーキングスペースの数は、世界全体で2016年に対前年比22%増加した※。APAC(日本を除く)でも同時期20%程度増加したとみられる。2016年から2017年にかけて、香港、シンガポール、上海、シドニーで、新たに約50ヶ所が開業した。インドでは、2014~2016年にその規模は3倍に増加。中国では、起業の促進を図る政策の後押しもあり、上海ではすでに100ヶ所超が稼働している。
※出所 : Deskmag Global Co-working Survey
グローバル企業もコワーキングスペースに注目
他社とのコラボレーションやネットワークの構築を促進するコワーキングスペースのユーザーは、ベンチャー企業や個人事業主から大手グローバル企業まで広がりつつある。ユーザー層の拡大を受けて、サービスの多様化が進んでおり、例えばフィンテックなどのベンチャー企業を主要顧客とする施設では、メンターシッププログラムの実施や、資金調達サポートのためのイベント等も開催されている。
コワーキングスペースから生まれる新たなビジネス・エコシステム
ビジネス・エコシステムのプラットフォーム
スタートアップ企業にとってコワーキングスペースを利用するメリットの一つは、法律家や会計士などの専門家や、他の企業とのネットワークを構築しやすいということ。また大企業は、スタートアップ企業とのつながりを通じ、斬新なアイデア、イノベーション、起業家マインドなどを取り入れることができる。アジアの大手企業の中には、新規事業を立ち上げるにあたり、スタートアップ企業の形でコワーキングスペースを利用するケースが複数みられる。グローバル企業がコワーキングという場を利用し、スタートアップ企業から社員をヘッドハントするような事例も多い。こうした動きを受け、人材斡旋会社がコワーキングセンターに入会するというケースも散見される。
一方、市場が大きく拡大する中で、中小のオペレーターの中には、大手との競争が困難になるとみられるものも多い。今後数年、オペレーターの買収・合併も増えるだろう。中期的には、オペレーターは、ユーザーである事業会社との関係を深め、その過程で、ファシリティマネジメントやオフィスデザインのほか、ワークプレイスに関するアドバイザリーなどを提供するケースが増えることも考えられる。その意味で、コワーキングオペレーターは、不動産サービス業界にも大きな変革をもたらす可能性がある。
日本におけるコワーキングスペース
コワーキングは、最近の日本の事業用不動産業界において流行語となっている。2018年中に、コワーキングスペースのオペレーターである米国のWeWorkが、すでに開業したものを含め複数拠点を日本に開業する予定で、テナント企業からも高い関心を集めている。WeWorkは各拠点において、通常のレンタルオフィスよりも2、3倍広いスペースを運営しているため、今後日本のマーケットにおけるコワーキングスペースの供給の大部分は、同社の積極的な事業拡大計画によって展開されていくだろう。そのほかにも、リージャス(Regus)が提携してSPACESが展開する拠点も成功しており、また香港のプレイヤー等も東京への進出を検討している。さらに、三井不動産をはじめとした日本の大手デベロッパーやオーナーも、この動向に注目し、クライアント企業にコワーキングスペースの提供を行っている。ユーザー層はより幅広くなることが予想され、スタートアップ、起業家、IT企業に代表されるミレニアル世代のクライアントだけではなく、一般企業からの需要も増えるものと考えられる。
CBRE Asia Pacific Researchが2017年7月に発刊したレポート、「The Evolution of Co-Working: Supporting the Emergence of the New Eco-System」の日本語抄訳版より抜粋