施設数・売上とも右肩上がりで 堅調に推移する日本のSC
日本の本格的なショッピングセンター(SC)の第1号は、1969年にオープンした「玉川髙島屋S・C」(東京都世田谷区)とされる。以来、SCは年々増え、一般社団法人日本ショッピングセンター協会調べで、全国で3,134施設(2013年末時点)が営業しており、その売上高は推計で28兆9209億円に達している。これは、我が国の小売業全体の20.8%に相当する規模である(ここで言うSCとは、総合スーパー(GMS)・百貨店等の小売業者や不動産事業者などのディベロッパーのもと、計画・開発・運営される、小売業・飲食業・サービス業などで構成される複合商業施設を指し、ショッピングモールはもちろん、駅ビルやオフィスを併設した複合商業施設なども含まれる)。
2001年以降の総SC数の推移を見ると、一部で閉鎖する施設があるものの、全体としては堅調に右肩上がりの成長を続けている。また、年次別オープンSC数については、順調に拡大を続け、2007年には100施設の大台を超えたが、同年に改正都市計画法が完全施行されたことにより、郊外への出店が減速し、下落傾向が顕著になった。しかし、2012年を底に回復基調に転じ、2013年には65SC、2014年も建築コストの高騰や人手不足等で開発が遅れるSCがあるものの、約50のSCがオープンする見込みとなっている。「近年、地方自治体が、街づくりの一環としてSCを積極的に誘致しています。SC1施設当たり、平均で約1,000人の雇用が生まれるというデータもあるほか、税収確保の面でも有効な手段となっているようです」。同協会の情報企画部長である原田真一氏は、そう説明する。
また、2013年を見ると、東京駅中央郵便局をオフィス・商業の複合ビルに建て替えた丸の内の「KITTE」や、阪急百貨店の建物を利用した神戸ハーバーランド「umie」のように業態変更してSCに生まれ変わったケースや、鉄道会社が高架下などを利用して小型のSCを開発する動きが活発だったことが特徴と言える。
地域・立地・規模・業態により 業績のバラツキが顕著に
SC数の推移を都道府県別に見ると、最も多い東京都は298と、5年前の2008年と比較して41施設が増加している。また、関東で見ると813から921と108施設が増加しており、なかでも東京・埼玉・千葉・神奈川の首都圏だけで99施設増加となっている。東京に次いで多い大阪府は総SC数228で12施設の増加。京都・滋賀・兵庫を合わせた近畿圏でも561から585と24施設の増加にとどまっている。他方、秋田や富山をはじめとする16県では減少となっている。原田氏の言う地方自治体の誘致があっても、人口集積率の違いで首都圏への集中が避けられない状況にある。
この数字は売上高にも直結している。同協会が10月に発表した『SC販売統計調査報告2014年9月』によると、既存SCの売上高は対前年比0.4%の成長で、2ヶ月連続のプラスとなった。だが、地域別にみるとプラスだったのは関東の2.2%だけで、他の地域は軒並みマイナス成長となっている。これは立地にも関係がある。関東は中心・周辺・郊外の各立地ともプラスなのに対して、-0.4%とマイナス幅が1番小さい近畿圏でも、郊外地域では-3.8%と大きく下落しており、他の地域でも郊外立地の苦戦が目立つ。要因として、4月の消費税増税に加え、長引くガソリン価格高騰の影響が考えられるが、業態や規模による違いも大きいと思われる。
郊外型には、GMSをキーテナントにした1万5~6千㎡規模の SCが多い。ネット通販の台頭など小売形態が多様化するなか総合スーパーは新たな局面を向かえていると言え、中核施設の売上や集客力が落ちれば、SCそのもののパワーダウンにつながりかねない。
「モノからコトへ」生活者の スタイルの変化への対応が急務
では、SCはこの状況をどう打開すべきなのか、原田氏はこう説明する。「SCである以上、買い物が楽しめるのは当然ですが、それ以上に、モノからコトへ、つまり、変化する生活者のライフスタイルに対応して、来店動機となるような、実店舗でしか体験できないファクターを充実させることが重要でしょう」。
事実、こうした取り組みは各地で始まっている。例えば、従来はサービス業の充実として、理容・美容、エステティック、シネマコンプレックス、アミューズメント、旅行代理店などのテナントがあった。だが、近年ではこれらに加えて、高齢者向けの医療モールやファミリー向けの保育所や学童保育、幼児の英会話教室を設けるSCが増えている。
また、フードコートの充実を図るSCも多い。かつてのフードコートといえば大手チェーンの店舗を配して、その中にテーブルと椅子を並べるだけといった印象が強い。だが、近年では凝った内装を施し、くつろぎの空間を演出するとともに、有名店を誘致するなど、集客装置としての機能を果たしている。例えば、大阪和泉にオープンした「ららぽーと和泉」では、女性のプロジェクトチームによる「ママが行ってみたいフードコート」というコンセプトを掲げ、靴を脱いでくつろげる小上がりなども作っている。料理も、ただ安くて早いだけではなく、食べて満足できる充実したものが用意されており、単価も1,000円を超えるものまで豊富にそろっている。
さらに、人が集まる「コミュニティの場」という機能を意識したSCも増加中だ。例えば2008年に開業した「阪急西宮ガーデンズ」では、屋上に「ガーデンズ」とネーミングされた約900㎡の庭園を設け、果樹や草花、噴水を配して買い物の休憩や子供の息抜きの場としての利用を促している。加えて、併設された「木の葉のステージ」では、週末を中心に年間200本以上のプロモーション・ライブを展開する他、地域の大学や高校と連動したイベントやファッションショー、伝統芸能イベントを開催することで、情報発信基地としての役割も担っているほどだ。
外国人観光客の囲い込み・接客・ 地域特性を踏まえた出店が今後の鍵
前述の取り組みを踏まえて、SCは今後どのように進化していくのだろうか。「SCは本来、長期の事業計画に基づいて運営されるものであり、街と共に進化するものです。よく、オープン時がピークで、その後は陳腐化すると言われますが、経年劣化ではなく、お客様の変化に対応して進化する姿が理想的なあり方と言えるでしょう」(同氏)。
その具体的な施策の一つが関西でも目立つ外国人観光客の取り込みだ。国内人口の減少が叫ばれる中、年間1000万人を超えた訪日外国人は大きなターゲットである。そして彼らを取り込むために不可欠なのが免税対応だ。
国では、2020年までに免税店を全国に1万店まで増やす計画を立てている。だが、実際の免税店は今年4月時点で5,777店しかない。この中にあって早くからこの点に目をつけたのが南海電気鉄道だ。同社が開発し2003年にオープンした「なんばパークス」は、2012年の大規模リニューアルに合わせて免税店を増やそうと試み、2013年末現在で物販総店舗数160店のうち88店が免税対応している。また、同様の「なんばCITY」でも、200店中42店が同様の対応をしている。さらに、これに合わせて「大阪観光指南」という4言語対応のガイドブックを作成し無料で配布するなど、京都を背後に控え、海外からの旅行者が多い大阪ならではの取り組みをしている。この動きに呼応するように、本来なら各店舗で取らなければならない免税許可を、第三者に委託して、共同カウンターを設置できるようにする動きもある。実現すれば、テナントにとっても、観光客にとっても大きなメリットであることは言うまでもない。一方、外国人観光客を呼び込むには、SC単体では難しい。その意味では、例えば新宿では、伊勢丹、ヨドバシカメラ、ルミネ、ドンキホーテ等が共同してイベントを行っており、このように競合施設が協力して、エリアで呼び込む方策を立てることも重要だろう。
もう一つの施策が接客力の強化だ。例えばSCでも、テナントの店長が変わると売上が変わることがよくある。店でなくスタッフに客が付くこともあり、来店動機を高める上でも大きな効果を発揮する。それを見越して、多くのSCでは、ブランド力の維持向上を目指して、ディベロッパー主導による、接客研修が盛んに行われている。テナント賃料が売上歩合制のSCでは、ディベロッパーが接客技術の向上を図ろうとするのも当然であり、結果として売上が上がれば、テナントとWin Winの関係が築ける。ここに語学教育が加われば、外国人観光客の取り込みにも有効な手段となるだろう。
特に郊外型のSCでは、都心的なマーチャンダイジングを取り込むことで、大都市の中心地まで客が流れないようにする取り組みも見られる。さらには、テナントと協力して、郊外店だけにしかない商品や業態を開発するのも一法だ。ファッションテナントにオリジナル商品を開発してもらう他、都心型にはない雑貨などを加えて、新たなブランド展開を図るというものだ。いずれにせよ、小売業全体の20%強の売上を誇るSCの有り様が、その街の盛衰に大きく関与することは間違いない。生活者にとって新たな楽しみを提供し続ける施設として、今後も進化していくことを望んでやまない次第である。
CBRE オフィスジャパン編集部
取材協力・資料提供:一般社団法人日本ショッピングセンター協会
参考資料
●『SC白書2014』(一般社団法人日本ショッピングセンター協会)
→年次別オープンSC数、総SCの推移、都道府県別SCの変化 等
●『SC販売統計調査報告2014年9月』(一般社団法人日本ショッピングセンター協会)
→立地別・地域別売上高伸長率 等