オフィス移転における「居抜き」という選択、建築費の高騰が、市場での認知度向上を後押し。
1年前の「BZ空間」2024年夏季号特別企画《オフィス移転、「居抜き」という選択》で大きく特集したが、このわずか1年でも建築費は高騰を続け、有効な対応策である「居抜き」の注目度はより高まっている。しかし、居抜きはあくまで、ビルオーナーと退去・後継テナントとの合意形成に基づくものであり、実施のハードルは通常の移転に比べかなり高い。詳しくは弊誌バックナンバーを紐解いてもらうとして、今一度、居抜きのポイントをおさらいする。
退去するテナントが使用していた内装や設備をそのまま後継テナントに引き継ぐ「居抜き」だが、特に建築費が高騰、工期が長期化している現在において、コスト削減や移転期間の短縮に大きく貢献する手段として注目されるのは当然だろう。市場では、移転したばかりだというのに、すぐに後継テナント探しを始めるテナントや、原状回復費高騰を背景に、入居の契約時に後継テナント誘致を特約に入れる交渉をビルオーナーと行ったりするケースさえ見受けられるほどだ。移転を希望する企業にとって、それだけ、資材価格や建築費の高騰は大きな負担となっており、移転コストの削減を重要な経営課題として認識するようになったと言える。
建築費高騰対策に、居抜きがなる理由
居抜きは、現在の建築費高騰の状況下において有効な対策となり得る。しごく当然のことだが、今一度その理由を整理してみる。
原状回復費用の削減●退去するテナントは、オフィスを元の状態に戻すための原状回復工事が不要となるため、費用を大幅に削減できる。これは、特に大規模なオフィスの場合、数千万円から数億円単位でのコスト削減につながる可能性がある。
内装工事費用の削減●入居するテナントは、既存の内装や設備をそのまま利用できるため、新たな内装工事にかかる費用を大幅に削減できる。オフィスに必要な機能がすでに備わっている場合、追加工事費用を最小限に抑えることが可能だ。
移転期間の短縮●内装工事にかかる期間を短縮できるため、移転までの時間を大幅に短縮できる。これにより、企業の事業継続性を早期に回復させることができる。
退去・後継テナント、ビルオーナーの三方良し
居抜き移転は、退去テナント、入居テナント、ビルオーナーの三者にとって、それぞれ以下のようなメリットをもたらす。
退去テナントのメリットは、❶原状回復費用の削減、❷移転スケジュールの柔軟性向上、❸定期借家契約の残存期間の賃料負担軽減、などが挙げられる。
後継(入居)テナントのメリットは、❶初期費用の大幅な削減、❷移転期間の短縮、❸実際のオフィスを確認できることによる移転後イメージの明確化、などが挙げられる。
ビルオーナーのメリットは、❶空室期間の短縮、❷賃料収入の安定化、❸物件の差別化、などが挙げられる。
居抜き移転の課題や、留意点、成功のポイント
居抜きのスタートラインは、退去テナントがビルオーナーに居抜き退去の了承を得るところから始まる。現在のオフィス市場は全国的に空室率が低く、貸し手市場の様相を呈しており、ビルオーナーが居抜きを了承する根拠となる、空室期間の短縮や賃料収入の安定化の側面は薄れている。つまり、居抜きが物件の差別化につながるかどうかがカギとなろう。ビルオーナーとしては、リーシング戦略により選択肢が増えた状況だと言えるが、リスクとしては、後継テナント入居後に瑕疵が見つかった場合にトラブルに発展する可能性があることなどが挙げられる。
退去テナントにとっての課題は、なんと言っても後継テナントとのマッチングの実現性が低いことだ。これは、居抜き移転の認知度がまだ低く、積極的に居抜きでの入居を希望する企業が少ないことや、居抜きの宿命として募集期間が短いことなどが原因である。また、スケジュールの立案も重要な留意点。退去テナントは、原状回復工事の見積りを早期に取得し、ビルオーナーへの打診、後継テナントの募集などを計画的に進める必要がある。特に、募集期間が限られているため、迅速な対応が求められる。
後継テナントにとっては、気に入る物件があるかどうかという点が課題だろう。居抜き物件は一点ものであるため、自社のニーズに完全に合致するオフィスを見つけることが難しい。また、検討期間が限られているため、短い時間で判断しなければならない。入居を決めた場合、原状回復義務の範囲や、既存の内装・設備の瑕疵に関する責任など、契約条件を明確にしておく必要がある。
専門的な仲介業者の、重要な役割
居抜き移転を成功させるためには、専門的な知識やノウハウを有する事業用不動産仲介業者のサポートが不可欠である。仲介業者は、後継テナントのマッチングはもとより、関係者との交渉・調整、契約関連業務のサポート、原状回復工事費用や工期短縮に関する専門的なコンサルティングなど、居抜き移転を円滑に進めるための支援を提供する。
建築費高騰が続くオフィス市場において、居抜きは、コスト削減と効率的なオフィス移転を実現するための有効な手段である。退去テナント、後継テナント、ビルオーナーの三者にとってメリットがあり、SDGsへの貢献にもつながる居抜き移転。その実施には様々なハードルがあるものの、今後のオフィス移転マーケットで存在感を増していくことは間違いないだろう。
