不確実性要素が多い移転スケジュール、早期の検証が成功のカギ。
建築費の高騰、一部建設資材・設備機器の納期の長期化、労働力需給のひっ迫に伴うスケジュールの長期化は、移転計画全体のボトルネックとしても、プロジェクトのコストおよびスケジュールに大きな影響を与え得る。具体的に、どこが計画の急所となる可能性があるのか。ここでは移転計画策定における勘所を概説したうえで、次の見開きで、各工程にかかるコストを加味した移転フローの例を紹介。実際に移転を検討するうえで、ぜひ参考にしてほしい。
オフィス移転における、不確実性への備え
あらゆるスケジューリングにおいて要諦となるのが、不確実性要素が多い工程を把握し、そこに相当数のバッファーを設けることであるのは言うまでもない。前述した建設業界を取り巻く環境変化により、オフィス移転では、どの工程に不測の事態が生じやすくなっているのかを見定めることが重要となる。
遅延リスクを抱える、実施設計と入居工事
例えば、近年とりわけ不確実性が高まっている工程は、新オフィスの設計~コスト調整~入居工事に至るフェーズである。テナントサイドが事業者を選定できる基本設計とは異なり、実施設計は一般的に、ビルの指定設計会社が行う。一定以上のグレードのビルともなれば、いきおい、大手設計会社やゼネコンが担うことが多い。そうした企業は、これまで繰り返し述べてきた現状から、設計工事に投入できるリソースは限られている。そのため、テナントの想定以上の期間を要することも珍しくない。実施設計後も、ビル工事会社が行う工事見積り・入居工事があり、同様の事由により遅延リスクをはらんでいる。
また、入居工事の見積りは結果いかんによって、想定する予算の枠内に収まらない恐れもある。見積り内容の精査をしたり、コストを抑えるべく設計に一部修正を加え、その内容で再度見積りを取り直したりしなければならず、相当なタイムロスとなる。入居工事では工事体制の構築(作業員の確保)のみならず、資材・機器の納期も、昨今のタイトな需給環境の影響を多分に受けるため、これも気の抜けない工程と言える。
事前準備としての、「プロジェクトセットアップ」の重要性
このような移転計画の急所となり得る不確実性の高いプロセスを、いかにして事前に捉えておくか。それは、新オフィスの賃貸借契約締結の前後に必ず、移転計画の予算案やスケジュール案を緻密につくり込む期間を設けておくことに尽きる。本企画では当該工程を「プロジェクトセットアップ」とし、次ページの移転スケジュールにも1ヶ月分を組み込んでいるので、ご覧いただきたい。移転先の賃貸借契約締結後に設定しているものの、所定の期間内・予算で本当に移転可能かどうかを見極めるためには、移転候補物件を2、3件程に絞り込んだ契約前の段階から、着手しても早すぎることはない。
効率策の検討による、移転成功への道筋
さて、このようなプロジェクトセットアップにおいては、作業を並走・効率化できる工程がどこにあるかも事前に把握しておきたい。例えば先ほど、ビル指定工事会社へ依頼した入居工事の見積りが予算から逸脱したり、それにより設計を見直したりするリスクについて触れた。このような事態を避けるためには、取りまとめた設計案に加えて、VE(バリューエンジニアリング)※1・CD(コストダウン)※2によるコストの低減案も並行して用意し、併せてビル指定工事会社へ見積り依頼をかけるといった段取りが考えられる。
また、資材や設備機器の需給環境の影響を受けやすい入居工事における施策もある。例えば空調機や分電盤、スプリンクラーなど、従来は発注から1~2ヶ月で納入されてきたものも、現在は半年程度を要するケースも珍しくなく、ともすれば移転計画全体のボトルネックになりかねない。そのため、こうした長納期が予想される必要物だけ、先行して実施設計を進め、先行発注の手配をしておく手が挙げられる。
こうした効率化のアプローチはほんの一例に過ぎないが、どのような対策を行えるか入念に検討したうえで、所定の期間・予算内で移転できるかどうかを慎重に見極めたいところだ。
※1 VE:所定の機能は残しつつ、従前と異なる方法でコスト削減をする施策
※2 CD:当初求めていた機能そのものを取り止め、コスト削減を行うアプローチ
