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2016年7月19日

企業にとって研究開発拠点とは?


一般財団法人日本立地センター
産業立地部 部長
藤田 成裕

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単独型と工場併設型。2つに分かれる研究開発拠点

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近年の企業における研究開発拠点の動向を、経済産業省が発表する「工業立地動向調査」に基づいて探ってみましょう。まず、研究開発といえば業種は製 造業なのですが、機械や化学といった業界分けや製造品目による動向の偏りは特に見られず、広く全般的に研究開発拠点の構築を進めているという印象があります。

その構築手法ですが、一言で研究開発拠点といっても、土地を取得してR&Dセンターや研究所を単体で建設する大掛かりなものから、すでに操業している工場敷地内、あるいは工場とともに建設するという、大きく2つのパターンに分けられます。土地取得から単体での新規開発を見ると、2009年から2015年までの7年間に、全国で100件の研究開発施設が建設されています。エリア別の内訳を見ると、関東臨海部、および関東内陸部への進出が多く、近畿内陸部がこれに次いでいます。一方、工場内に研究開発機能を付設した件数ですが、同様の7年間に全国で1,356件となっており、単体で研究開発拠点を開発するよりも圧倒的に件数は多くなります。エリア別では関東、および東海、近畿に多く開発されていますが、これは現状の製造業の集積によるところが大きく、そのため、東海での開発が多く示されるのでしょう。

研究所立地について、さらに長期間かつエリアを詳細に調べたデータを見ると、新聞などに公表された記事に基づく1998年~2016年3月までの研究所設立の都道府県別のランキングは、1位が神奈川県の90件と群を抜いて多く、続く2位が兵庫県の51件で、以下、愛知県、京都府、大阪府、千葉県と続いています。理由については後述しますが、このあたりが研究開発 拠点の人気エリアというわけです。当社が今年1月に、国内35,000社を対象に実施したアンケートでも、事業拠点の立地計画があると回答した1,349社の4.2%にあたる56社が研究所の新規開設を予定していますが、そのうちの18社が南関東を候補にしており、中でも神奈川県が高い比率を占めていました。

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研究分野によって分かれる施設構築エリアの地域性

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一般には研究開発と一括りで語られることが多いのですが、そこで行われていることを見ると、基礎研究、応用研究、開発研究という3つの種別に分けられます。「基礎研究」は、特定の用途を設定せず、仮説や理論の形成や、観察可能な事実に関する新たな知識を得るため。「応用研究」は基礎研究によって発見された知識を製品として実用化できるかを検証するため。「開発研究」は基礎、応用を通じて得られた成果を製品・装置・システムといった技術に落とし込むために、それぞれ行われます。研究内容に応じて必要な設備が異なりますので、別々に構築されることも少なくありません。

工場敷地内に研究開発機能を付設する件数を、過去7年間の総計で見ると、基礎研究が233件、応用研究が249件、開発研究が975件となっています(1拠点について複数機能を有する施設あり)。年度別にみると、2009年から各研究施設とも減少傾向となりましたが、2011年を底に徐々に回復し、2015年には総数が214件と近年では最大の件数となっています。〔グラフ〕

ちなみに、調査や企画などの本社機能の一部があり、研究開発機能を備えた主力生産拠点のことを、一般の工場と区別するために「マザー工場」と呼んでいます。こうした工場併設型では、開発研究のための研究所が多くなります。量産のための研究ですから、試作品をすぐに工場で試せることが重要になるからです。そのため、首都圏近郊、あるいは愛知や兵庫などの各県への進出が多くなっています。一方、基礎・応用研究は神奈川や埼玉、京都、大阪などの府県に立地する傾向が見られます。

また、外資系やベンチャーなどのファブレスメーカーでは、都心のオフィスに研究施設を構築し、試作品から生産までを、例えば大田区のような小工場の集積地に一括して委託するケースも見受けられます。こうした事例は統計には出てきませんが、地域特性を生かした活用例と言えるでしょう。

こうした動きを受けて、川崎市のキングスカイフロントをはじめ、大田区でもそうした研究機関を集めた施設の建設を計画中です。これは産業集積地ならではの方法であり、大都市でなければ難しいでしょう。

研究所立地の成否を左右する研究員の家族の絆

本来であれば、基礎・応用研究の施設も工場敷地内、あるいはその近隣に構築した方が、研究から開発、生産まで一気通貫で管理できるので利便性が高いと思われます。ではなぜ、あえて基礎・応用研究の拠点を土地代の高い大都市部に構築するのでしょうか。

もちろん、BCPの観点から、研究拠点を分離するという考え方はありえます。しかし、それ以上に重要な2つの理由があるのです。その1つは採用面でのメリットです。研究者、特に基礎研究に従事するような人材は市場価値が高く、売り手市場になっています。そのため、全国規模で人材を集めるには、どうしても大都市に拠点を置く必要があるのです。とは言え、東京で大規模な施設を取得、維持するにはコストがかかりすぎるため、その周辺の人気が高まることになります。神奈川県の人気が特に高いのはそのためでしょう。事実、ある大手薬品メーカーは、競合する自治体が好条件の優遇策を提示したにも関わらず、基礎研究施設の新規設立を神奈川県に決定したケースがあります。加えて、神奈川県には大学も多く集まっており、産学協同の体制が取りやすいというメリットもあると思われます。

ただし最近、人が採れないからあえて地方に拠点を作るという、逆説的な発想をする大手メーカーも出てきました。これは数多くの分野の研究を行う企業が、特定分野の研究に実績のある地方大学の学生を狙い撃ちするための施策で、企業側はその分野のみの研究施設を移転させているようです。

そしてもう1つ、特に研究施設の移転に際して最大の問題になるのが、家族の存在です。結婚して家族、特にお子さんがいる場合、単身赴任になるケースが多いのですが、当然のことながらそれを嫌い、転職してしまう可能性があります。売り手市場ですから、知識や経験が豊富なベテラン研究員ほど引く手あまたでしょう。また、お子さんの教育レベルに対する要求度も高く、近くに進学率の高い、上位校があることも重要となります。加えて、家族が日常的に接するコミュニティのレベル感も、実際には考慮されています。このため、大都市に近いエリアに構築することが、いわば必須条件となっているようです。

こうした点から、研究施設のあり方も、以前とは変わってきています。我が国でもバブル期には、アメリカの大企業のように、郊外の豊かな緑が広がる広大な土地に研究施設を構築するのがトレンドでした。しかし、実際には大都市からの通勤に不便で、周囲に何もないために退屈、刺激がない。しかも、他部署で働く会社の同僚などが、気軽に立ち寄れる距離ではないため、コミュニケーションが取れずに情報不足に陥るといった事例が多く見られ、結果的に多くがその土地を離れることになったのです。

研究施設の誘致を目論む国・地方自治体の優遇策

世界的に見ても競争力のある製品の開発は、国益のためにも重要な要素です。加えて地方の活性化への貢献を含めて、政府は昨年、「地方拠点強化税制」を打ち出しました。本社機能を含めて地方に移転した企業には、最大9000万円の減税措置を取るというものです。

この制度の背景には、出生率が全国で最下位の東京から、子育て世代である20~40歳代を地方に移住させるとともに、ホワイトカラーを目指して東京に出る若者を、地元に食い止めるという思惑が働いていると言われています。それに応じるように、当社のアンケートでも、この税制を積極的に活用したい企業は120社あり、約1,000社が「興味あり」と回答しています。

また地方自治体も、以前は雇用促進に直結する工場の誘致に懸命でしたが、進出した工場の海外移転の増加を経験し、方策の変更を迫られました。そこで、いつなくなるかわからない量産化工場ではなく、移転の可能性が少ない研究機能を持ったマザー工場なら優遇する。あるいは、既存の工場に研究所を設立したり、工場と研究所をセットで移転し、家族も移住するなら優遇するといった自治体が出てきました。これは定住化による人口増加と、将来的な雇用の促進を睨んだ施策と言えます。

ただし、地方自治体側は、地元大学との産学連携や、地場産業との協調など、地元完結志向が強く、全国レベルでのリソースの活用を意図する企業側とは意識の乖離があるようで、今後はこの部分の調整が必要でしょう。

こうした国や地方自治体の思惑と、企業の戦略が合致し、より良い産業構造が構築されることを望む次第です。

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上記内容は BZ空間誌 2016年夏季号 掲載記事 です。本ページへの転載時に一部加筆修正している場合がございます。

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