オフィスビルが環境に果たす役割
2015年の国連サミットで採択されたSDGsへの賛同企業が増えるなど、持続性に対する日本企業の関心は徐々に高まっている。企業がオフィスを選ぶ際にも、今後は環境性という要素の優先度が上がることは間違いない。
日本はパリ協定批准により2030年に2013年対比26%のCO2削減を目標としている。また、不動産セクターを含む業務他部門における2030年の削減目標は2013年比で40%減となっている*3。日本における現状のエネルギー消費量を部門別でみると、不動産セクターは全体の16%を占める(Figure7)。さらに不動産セクターに占める事務所・ビルの比率は22%(Figure8)。これからも東京を中心に開発が進む中、オフィスビルが温室効果ガス削減に果たす役割は小さくない。
*3 :環境省地球温暖化対策推進本部決定「日本の約束草案」、CBRE、2015年7月
高まるグリーンビルの存在感
環境認証を取得するビルも増加傾向にある。環境認証の中でも、世界で最も広く利用されている建築物の環境性能評価システムである「LEED」の登録件数は、米国が69,066件と他国を圧倒している(2019年10月現在)。日本における登録件数は245件と諸外国に比べまだまだ少ないものの、着実に増えている(Figure9)。日本におけるアセットタイプ別の登録数の内訳をみると、オフィスビルが43%と最も多く、次いでリテールが17%、物流施設が7%となっている(Figure10)。
日本ではその他にもCASBEE(建築環境総合性能評価システム)やDBJGreenBuildingなどの環境認証制度があり、いずれの認証物件数も着実に増えている。こうしたグリーンビルは環境対応にとどまらず、水光熱費のコスト低減や、建物内で働くワーカーにとっても快適性やQOLの向上へ貢献するなどのメリットも期待できる。
投資家の側においても、ESG投資の機運が高まっている。日本でも、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2017年に1兆円規模でESG投資をスタートしたことを契機に、ESG投資が広まりつつある。GSIR(GlobalSustainableInvestmentAlliance)の2018年の統計によれば、2018年の世界全体のESG投資額が30兆ドルと、2年間で34%増加したのに対し、日本では2兆ドルと、額としては相対的に少ないものの同期間で4.5倍に拡大している。(米国では12兆ドルで同38%増、欧州では14兆ドルで同17%増)
日本の不動産市場においても、J-REITによるグリーンボンドの発行が見られ始めている。オフィス特化型のJ-REITの中では、これまでにインベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人、ケネディクス・オフィス投資法人、ジャパンエクセレント投資法人、ジャパンリアルエステイト投資法人が、グリーン適格ビルの取得などを目的してグリーンボンドを発行した。投資家からのESG投資へのニーズの拡大は、今後、グリーンビルに対する需要の更なる拡大を促すことになるだろう。
環境対応は収益向上につながる
企業にとってこれまでの環境対応は、コスト負担の増大など、収益性でマイナスのイメージが強かった。しかし、SDGsなど持続的成長への取り組みは長期的に企業にとってプラスであるという見方が広まってきている。
オフィスビルにおいても、環境への配慮が収益性向上をもたらす可能性を示唆するデータがある。国交省による、環境性、快適性、健康性に優れたグリーンビルディングを含むオフィスビル(ESG不動産)の価値観に関するアンケートによれば、ESG配慮によって不動産の価値は「高まる」、または「今後は高まる」という回答は、テナントで約7割、ビルオーナーで約8割にのぼった(Figure11)。また、ESG不動産への入居にあたり、家賃のプレミアムはテナント/オーナーともに「4%~6%」が最も多く、回答者全体の7%が「10%超」と回答している(Figure12)。