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はじめに - 今、オフィスニーズの主役は誰?

凡例

東京のオフィスマーケットは、これまで年を追うごとに逼迫の度合いを強めてきた。東京23区の空室率は、四半期ベースの調査で12期連続で低下を続け、需給バランスが取れている状態と言われる5%を大きく割り込み、最新の調査では2.9%と極めてタイトな状況となっている。移転を希望するテナントの選択肢が極めて少ないことに加え、中国経済の失速や米国金利政策、ヨーロッパの情勢不安といった将来の景気見通しに対する不透明感もあり、新規開設や大型移転に代表されるテナントの積極的な動きは、やや落ち着きを見せ始めたとする向きもある。東京では、今後2016年から2017年にかけ、年平均約19万坪の新規供給が計画されているが、この供給に対するオフィスニーズは、一体どのような企業群が担っていくのか。もちろん、明快な将来予測で答えを出すことなど誰にもできはしないが、本稿ではその問いに対するいくつかのヒントを記していきたいと思う。

東京オフィス市場のボトムは2012年後半から2013年にかけてであったが、移転の準備期間を考えると近年実施された移転は、ちょうどこのボトムを過ぎて計画を実行に移した企業群と言えるであろう。まさに、昨今の市場の活況ぶりを牽引してきた業種、業界、企業と言って差し支えない。次ページから掲載している東京駅周辺と東京都下の地図は、近年竣工したオフィスビルに入居したテナントから、業種別の移転動向を視覚化したものだ。もちろん、企業移転は新築ビルに限った話ではないが、ハイグレードビルの代表格とも言える新築ビルに入居する企業群を見ることで、昨今の業界別の移転動向をうかがい知ることができるだろう。掲載テナントは、おおむね300坪以上を使用していると想定される企業を選出し、「製造」「運輸・通信・エネルギー」「建設・不動産」「卸・小売」「公共・教育」「サービス」「IT」「金融」の8業種に分類。対象ビルは、2014年と2015年に竣工した主だった賃貸オフィスビル35棟。各ビルの緑の枠は、延床面積から図化したおよその規模で設定しており、業種別の使用面積は、報道発表や各企業の使用フロアの状況から面積を概算してグラフ化している。使用面積はあくまで当社の想定値であり、加えて入居している全テナントを記載したものではない。また、1棟借りであっても延床面積と使用面積の違いがある点にご留意いただきたいが、それでも、入居テナントの使用スペースを加味して図化したことで、各ビルや各エリア毎の業務集積傾向の違いが把握しやすいだろう。特に、比較的伝統的な企業が多いハード系の業種を青~緑、逆に新興の企業が多いソフト系の業種を黄~赤で示した。その点もふまえつつご覧いただきたい。

上記の記載、さらには企画タイトルにさえ矛盾してしまうが、昨今の企業群は、業種・業態でのセグメント分けの線引きが極めてあいまいで、加えて細分化していると言える。例えば、本稿の最後に移転ケーススタディとしてご登場いただいた「Booking.com」は、旅行業界における世界的大手企業であるが、その業務スタイルはITサービスであり、さらにeコマースでもある。また一口にIT企業と言っても、金融のシステムインテグレーターとゲームアプリ開発では市況は大きく異なるだろうし、製造業でもコンシューマー向け製品製造の家電業界と、工業部品や素材といったいわゆる「川上」の製造業とでは、大企業に限定したとしても景況感が様々なのは、あらためて説明するまでもない。そういった点をふまえ、企画後半は業界別視点での全体市況の解説と、今、ホットな業界を数件取り上げて解説を加えた。また、発展著しい業界・企業の拠点戦略として、前述のとおり「Booking.com」のカスタマーサービスセンター構築を取材している。本稿が、昨今の移転トレンドを知る一助となれば幸いである。

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上記内容は BZ空間誌 2016年春季号 掲載記事 です。本ページへの転載時に一部加筆修正している場合がございます。

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