神戸市|企画調整局・医療産業都市部課長(誘致・産業化担当) 須田 保之氏
震災からの新たな挑戦、医療で築く、新しい未来
神戸医療産業都市の取り組みは、阪神・淡路大震災という特殊な事情から始まりました。神戸は、かつて大手重工業とそれに紐づく中小企業、町工場が中心の製造業の街でしたが、震災からの復興には時間がかかることが予想される中、新しい産業の柱を立てる必要がありました。そこで着目したのが、21世紀の成長産業として期待される医療分野。日本が超高齢化社会を迎えていくことを見据え、医療関連産業が重要な成長産業になっていくという認識のもと、企業の集積と研究機関の誘致を図ることにしたのです。
プロジェクトの目標は、経済の活性化と雇用の確保を第一に据えながら、そこで生まれる新しい技術を市民に還元する形での市民福祉の向上、さらには海外に向けた国際貢献という展望を持って進めていきました。ただ、このプロジェクトを神戸市単独で進めることは困難でした。そもそも医療の集積があったわけでもなく、医療の専門家がいるわけでもありません。そこで、京都大学総長も務められた井村裕夫先生を中心にマスタープランづくりをお願いし、先生のお力添えもあって理化学研究所の誘致が実現。これと併せて、神戸でも先端医療センターを立ち上げました。この二つの研究機関が、更地からの開発における重要な求心力となりました。
特に再生医療の分野では、その言葉が定着していない時期から注力し、2014年には世界で初めてiPS細胞を人間の体に移植する手術が神戸で実現しました。他に川崎重工業とシスメックスの合弁会社による国産の手術支援ロボットの開発など、具体的な成果も生まれています。2020年度ベースの試算においては1562億円の経済効果と 69億円の税収効果を創出し、経済復興の観点からも確たる成果を得ています。
世界へつながる便利な立地、産学連携の仕組みづくりを強化
立地面での優位性は、このプロジェクトの特長の一つです。ポートアイランドは三宮からポートライナーで10分強、神戸空港からは5分という利便性の高さは、大きな強みとなっています。関西国際空港へも高速船で30分でアクセスでき、今後は神戸空港の国際化も予定されているなど、国内外へのアクセスも良好です。
現在の集積状況としては、350社を超える企業・団体が立地しています。医療機器やバイオテクノロジーの研究開発機関、再生医療関連企業に加え、最近では細胞・遺伝子研究から派生したバイオものづくりといった、新しい分野の企業も増えてきています。進出企業の約1割は外資系企業でもあります。
このプロジェクトの特長は、基礎研究から実用化・産業化まで、ハードとソフトの両面で取り組みを進めてきたところです。バイオクラスター(研究機関の集積)、メディカルクラスター(高度専門医療機関の集積)、シミュレーションクラスター(スーパーコンピュータ“富岳”をはじめとした計算科学関連機関の集積)を中心に、産学連携の仕組みづくりに注力してきました。
一般的に世界中のクラスターは大学が中心となり、そこに産学連携を求める企業が集まる形で発展します。しかし神戸の場合はまったくの更地からスタートしたため、まず企業集積を進め、その後に大学がこちらにキャンパスを設けるという発展過程を辿っています。現在では神戸大学や甲南大学などが、人材供給にとどまらず、産学連携の重要な役割を果たしています。
バイオ・メディカルの国際的ゲートウェイへと成長
さらに、重要なのは、企業を集積させるだけでなく様々な主体をつなぐ仕組みづくりです。神戸医療産業都市推進機構を設立し、研究機関と病院、企業を結びつけ、新しい価値を生み出すコーディネート機能を担っています。年間平均すると週に1回程度の頻度で勉強会やセミナー、交流会が開催され、企業間の交流やイノベーション創出の機会となっています。レンタルラボやレンタルオフィスの整備も進め、現在では16棟のテナントビルが稼働。特に研究開発を行う企業にとって、大規模投資を必要としないレンタルラボは重要な受け皿となっており、現在の入居率は全体で9割以上とほぼ満室の状態です。
土地についても、処分可能用地の約8割がすでに売却済みです。神戸空港の国際化を見据え、アクセス道路周辺の意図的に確保している区画を除くと、実質的な売却可能用地は限られています。この状況に対応するため、新たな動きとして、民間事業者によるレンタルラボ施設の整備を進めています。すでに大和ハウス工業株式会社が1棟目の建設を決定、2棟目の整備に向けた調整も進めており、キャパシティ不足の解消を図っているところです。
震災からの経済復興という使命から始まったプロジェクトは、四半世紀以上の歳月を経て、多様性を包摂するバイオ・メディカルの国際的ゲートウェイへと成長しています。これからも新たなイノベーションの創出や人材の流入を通じて、神戸市のさらなる発展に寄与していきたいと思っています。


