私たちの暮らしになくてはならない社会インフラの一つ「物流」。
経済活動の始点である「生産」と終点である「消費」の間を繋ぐこのシステムによって、私たちの暮らし、そして日本、世界が支えられていると言っても過言ではありません。
つまり、物流を考えることは、私たちの未来を考えることになります。
この連載では、世界100カ各国以上で事業用不動産サービスを展開するCBREグループの日本法人であるシービーアールイー株式会社が、日本国内の注目すべき物流用不動産をご紹介し、そこから見える私たちの未来を考えていきます。
連載の第一回目は、三井不動産株式会社が東京都江東区、新木場エリアで新たに展開する都市型物流拠点をご紹介します。
「MFLP新木場I」、「MFLP新木場Ⅱ」と名付けられた2つの物流施設です。一見すれば、ただの倉庫にしか見えませんが、そこには今の世の中に求められる「都市型物流」のニーズを的確に掴んだ戦略、環境への配慮、そして三井不動産ならではの、「次の10年」を見据えた仕掛けがありました。
MFLP新木場Ⅰ
所在地 | 東京都江東区新木場4-3-17 |
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構造規模 | 鉄骨造、地上4階建て |
竣工 | 2023年2月末(予定) |
貸床面積 | 9,584.00㎡・約2,899.16坪 |
MFLP新木場Ⅱ 詳細はこちら
所在地 | 東京都江東区新木場2-12-3 |
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構造規模 | 鉄骨造、地上4階建て |
竣工 | 2023年4月末(予定) |
貸床面積 | 28,661.44㎡・約8,670.08坪 ※2分割可能 |
ラストワンマイルの需要を満たす「新木場」という立地
― 今日はよろしくお願いいたします。まず気になったのが、「物流倉庫」という言葉でイメージされるような「郊外の巨大施設」とは一線を画する立地、設計です。その狙いをまずはお聞かせください。
仲さん:弊社では国内外に37のMFLP(三井不動産ロジスティクスパーク)を稼働させており、総延床面積は約310万㎡(2022年4月時点)にもなりますが、MFLP新木場Ⅰ・MFLP新木場Ⅱはその中ではもっとも都心にあり、なおかつ小規模の倉庫です。
仲さん:他のMFLPはご想像のとおり、郊外を中心に展開しています。東京都内だと羽田、日野、立川ですね。羽田は空港近くという立地かつ物流倉庫以外の用途のテナント様もいらっしゃるためやや特殊ですが、日野も立川も23区外です。
― 都心は土地の価格も高く、MFLP新木場Ⅰ・MFLP新木場Ⅱがそうであるように大きな倉庫を建設しにくいと思います。それでも投資された理由を教えていただけますか?
仲さん:いくつかありますが、まず挙げるとすれば「ラストワンマイル※1」のニーズに応えられる立地であるということです。
消費者のEC利用量が増え続けている今、物流倉庫から消費者までの距離と配送時間をできるだけ短くすることで配送効率と顧客サービスを向上させることが求められています。
消費者側は「翌日に届く」ことが当然と捉えていますから、各EC事業者はなんとかしてその要望に応えようとしているんです。
そこで、中型~大型の物流倉庫で、荷物をできるだけ細かく方面別に仕分けし、都心のラストワンマイル拠点へと荷物を持っていくことのできる立地に新しい物流拠点を設けるニーズが生まれています。
それを実現できるのが、新木場という立地なのです。
また、「ラストワンマイル」のニーズは消費者へ直接届けるEC以外にも、多くあると考えています。
※1 ラストワンマイル:最終物流拠点からエンドユーザーへ荷物が到達するまでの最終区間、またその一連の物流のこと
― 具体的に、どのようなものでしょうか。
仲さん:日本でもっとも人口が集中している東京では、実にさまざまなモノのニーズがあります。その中には、ECで買い物した荷物だけでなく、医薬品・医療機器のような緊急性の高いものも含まれます。
そういったものを、日本一の人口集中地帯であり、最大消費地でもある「東京の中心地から」迅速に発送できるというメリットの大きさは計り知れません。
― なるほど。「モノが早く届く」ことのメリットは想像以上に大きいですね。
仲さん:はい。利用方法としては、羽田空港からもアクセスが良いことから、精密機器などの保管やリペアセンターなども考えられると思います。東京23区内にあるからこそ、働き手が確保しやすいというメリットを活かしたビジネスも展開できる立地です。
働き手が集まる立地で広がる活用法
― 地図を見ると、MFLP新木場Ⅰ・MFLP新木場Ⅱは駅から徒歩圏内ですね。
仲さん:はい。新木場駅から徒歩でアクセスできます。
そういう場所に倉庫を開発できる土地があるというのは、本当に珍しいことなんです。
その上、周辺は産業集積地で住宅街はありませんから、24時間、トラックが通行できる環境です。
仲さん:また、新木場という場所は、物件を中心として3キロ圏内で約2.6万人、10キロ圏内まで広げると100万人を超える労働人口を抱えています。
― 都市型物流拠点としてはまさに理想的な立地である上に、人もアクセスしやすい。希少な立地であることが理解できました。
仲さん:はい、そのとおりです。空港、港湾が近く、東京都心で、しかも最寄り駅から徒歩でアクセスできる場所に「使い勝手のいい箱」がある、と捉えると倉庫以外の使い道も見えてきます。
先ほど例に出した精密機器のリペアセンターもそうですし、ファッションEC事業者の方にとっては撮影スタジオを兼ねた倉庫も作りやすいですね。 また、新木場Ⅰでは立地を活かしてお客様を招くこともできるよう、ショールームとしてご利用頂けるデザインになっています。
― どのようなビジネスがここで生まれるか、楽しみですね。
三井不動産が考える、物流施設の「次の10年」
― 将来的に、MFLP新木場Ⅰ・MFLP新木場Ⅱの竣工以降に御社が目指しているものについてお聞かせください。
仲さん:今はコロナ禍ということもあり、社会インフラとしての物流施設の重要性はますます高まっています。その重要性に見合った社会貢献が求められるということです。その点で、三井不動産の物流施設の「次の10年」として、まずサステナビリティと物流DXの推進が重要課題ですね。
サステナビリティの取り組みとしては、MFLP新木場Ⅰ・MFLP新木場ⅡもZEB認証※2を取得予定ですが、既存のもの、今後新たに開発されるものも含めて取り組んでいきます。
実は物流施設というのは太陽光発電に向いているんです。大規模かつ箱型の建物で屋上も平面ですから、太陽光パネルが設置しやすいんですね。
そういった特徴も活かしながら、2030年度までにCO2排出量削減率を2019年度比40%まで引き上げるという三井不動産グループ全体の目標を牽引していきたいと思っています。
また、社会インフラとして求められるということは、そこで働く人のことも考えなくてはいけません。
そのために力を入れているのが、物流DXです。車両の遠隔管理、AIによる倉庫内動線の最適化、トラックバースのオンライン予約システムなど、働きやすい環境を整える取り組みを続けていきます。
※2 ZEB認証:ZEBはZero Energy Building(ゼロ・エネルギー・ビルディング)の略。快適な室内環境を維持しながらも建物の一次エネルギー消費量がゼロまたはマイナスの場合に「ZEB認証」、ゼロに近い場合に「Nearly ZEB認証」を環境省から得られる。MFLP新木場Ⅰは「ZEB認証」、MFLP新木場Ⅱは「Nearly ZEB認証」を取得予定。
― MFLPの名を冠している御社の物件の中には「MFLP船橋」のように単に倉庫だけでなく敷地全体の開発を通して「街づくり」といえるものもありますね。今後、新木場もそのようになっていくのでしょうか。
仲さん:MFLP船橋のコンセプトは「街づくり型物流施設」で、3つの物流施設と、スケートリンク(三井不動産アイスパーク船橋)や大規模公園(&PARK)を含めたエリア一帯が、近隣の住宅地と共生していくことを目指して開発されました。周辺には、三井不動産の商業施設「ららぽーとTOKYO-BAY」もありますし、現在はスポーツアリーナの建設も進めています。
新木場は先ほども申し上げたように住宅地とは隣接していないので別のコンセプトになると思いますが、同エリアですでに稼働している三井リンクラボ(研究機関向けのラボ&オフィス施設)や新木場センタービル(オフィスビル)とも連携して、新たな産業集積地としての開発も視野に入れています。
― となると、MFLP新木場Ⅰ・MFLP新木場Ⅱの竣工以降もどんどん人の集まるエリアになっていきますね。
仲さん:そうなれば、総合デベロッパーとしての力がさらに発揮できます。人が集まって新たに生まれるニーズに応えられる開発を進めていきたいです。
弊社は物流施設を中心とした開発を行う事業者ですが、「単に床を貸すだけ」という時代はもう終わります。あらゆるニーズに応え、立地や建物の特性を踏まえた新しい使い方をご提案していくことで、結果として消費者の暮らしに貢献できる仕事を積み上げていきたいと思っています。