シービーアールイー株式会社
インダストリアル営業本部 シニアスペシャリスト
江田 裕高
2025年にはマイナス583万人 人手不足が深刻化する将来の日本
現在、わが国は深刻な労働力不足に悩まされています。パーソル総合研究所がまとめた「労働市場の未来推計」というレポートによると、全産業における2016年時点の労働力不足はマイナス248万人。さらに今後も加速度的に増加すると見られ、2025年には約2倍のマイナス583万人に達すると予想されています。
加えて同レポートでは、この人手不足解消のキーファクターとして、女性・シニア・外国人の労働参加を掲げています。現在、わが国の30代以上の女性の就業率は約73.3%ですが、これを2014年のスウェーデンの水準である約91.4%まで引き上げることができれば、2025年には約350万人の労働人口が確保できます。
次にシニア世代ですが、65~70歳未満の働き手を、60~64歳と同等の男性79.1%、女性53.4%という就業率にすることで、約167万人の労働参加が見込まれます。また、日本の労働力人口における外国人労働者を、2015年時点の1.4%から、2倍の2.8%に引き上げることができれば、約34万人に達することになるのです。
つまり、女性・シニア・外国人を労働力にすることができれば、不足分の583万人には及ばないまでも、551万人分は補うことができると試算しています。ですが、この予測を実現するには、制度面での様々なサポートが必要であることに加え、少子高齢化が急速に進んでいることを考えると、楽観できない状況であることは言うまでもありません。
重労働ゆえに女性・シニアの戦力化が困難な物流業界
こうした状況を踏まえて、物流業の今後を見てみましょう。残念なことに、物流業は不人気職種ランキングで常に上位に位置する業種であり、若い世代の確保が今以上に困難になることは想像に難くありません。
つまり、先に挙げた女性・シニア・外国人を、いかに戦力とすることができるかが、大きな課題となっているのです。外国人労働者の戦力化にとって、最大の問題となるのはコミュニケーションでしょう。しかし幸いにも、最近ではIT技術を駆使して指示を伝達する、スマートグラスやボイスピッキングなどの機器が開発、導入されていることで、対応が可能となってきました。
しかし、倉庫内の作業は「夏は暑い」「冬は寒い」「荷物が重い」「長時間の立ち仕事」「移動距離が長い」「危険が多い」といったデメリットを抱えた現場が多いのも事実です。特に女性やシニアの方々にとっては、過酷な労働環境と言うことができます。
過酷な労働環境を軽減する大型物流マテハン
物流の現場でもこうした労働力不足を補い、ワーカーをサポートするための様々な改革が起きています。その代表的な例が、物流マテハンの導入による倉庫内のオートメーション化です。マテハンとは「マテリアル ハンドリング イクイップメント」の略称で、MHEとも呼ばれています。物流現場内での、作業効率を高めるための機器全般を指し、フォークリフトや作業台、台車などは古くから利用されてきました。そのマテハンが近年、急速に進化しており、ワーカーの作業効率の向上による労働時間の短縮はもとより、省人化を目的として、大型機器が積極的に導入されるようになってきたのです。
一般に、倉庫は在庫型のDC(ディストリビューションセンター)倉庫と、通過型のTC(トランスファーセンター)倉庫に大別されます。DC倉庫内の作業手順は入庫、保管のための棚入れ、出庫のためのピッキング、梱包、出荷となります。またTC倉庫は、入庫、仕分け、積み付け、出庫といった流れで作業が進んでいきます。省人型の物流マテハンは主に、それぞれの作業を繋ぐ、搬送の領域で利用されますが、大きく分けると4つのカテゴリーに分類することができます。
まず1つ目の「自動倉庫」は、主に在庫作業、保管効率に特化したもので、棚入れからピッキングの作業領域をカバーします。最近では庫内上部の空いた空間を上手く利用した機器もあり、広い倉庫内を歩き回らなくてもピッキングができるようにしています。
2つ目の「自動搬送機」は、各作業を繋ぐ搬送の領域全般をカバーします。電動のローラーコンベアなどで荷物を移動させるもので、最近では天井に機器を敷設する天吊りタイプや、パレットを搬送する大掛かりなものも出てきています。こちらも重い荷物を抱えて歩き回ることなく作業が進められるメリットがあります。
3つ目は「自動仕分け機」または「ソーター」と呼ばれる機器で、主にTC倉庫での仕分けの領域で使われています。ローラーコンベアと組み合わせて、出荷先ごとやアイテムごとに自動的に仕分けを行います。こちらも上部の空間を利用するタイプも登場しています。
省人化・無人化の実現で注目を集めるAGV
そして4つ目が、現在、海外で積極的な導入が進み、国内でも注目されている「AGV(Automated Guided Vehicle)」とも呼ばれる「無人搬送機」です。作業と作業を繋ぐ搬送の領域をカバーするAGVは、WMS(ウェアハウス・マネジメント・システム)によって制御された自動走行する台車のようなもので、パレットやカートンを人の手を介さずに移動させることが可能です。内部には様々なセンサーや制御システムが搭載されており、磁気棒や磁気テープ、あるいはセンサーやマッピングシステムによって動線を誘導されて移動します。WMSで管理されていますから、複数台が同時に動いていても、AGV同士が衝突することはありません。
AGVの最大の利点は、先に挙げた3つの物流マテハンと比較して、大掛かりな工事が必要なく、導入コストが安価であること。そして、操作が簡単で、新しく入ったワーカーでもすぐに扱えるようになることにあります。
AGVには現在、6つのタイプが存在します。1つ目は、無人フォークリフトの様に重量物を運ぶ「重量型AGV」。2つ目は、ローラーコンベアとの接続が可能な「コンベア型AGV」。3つ目は、台車型で床面を走行する「低床型AGV」。4つ目は、カゴ台車の様に滑車がついているものを引っ張る「けん引型AGV」。5つ目は、上部のユニットを替えることで様々な用途で使用できる「多用途型AGV」。そして6つ目は、さらなる進化を遂げ、「自動倉庫」のように棚入れからピッキングの領域までをカバーし、作業プロセスの新しい形をソリューションとして提供するタイプで、我々は「ソリューションAGV」と呼んでいます。
ソリューションAGVは、特にECの様に少量多品種のオペレーションに適したもので、協調型と非協調型という2つのタイプがあります。協調型はAGVと作業員が動線を共有して、棚からのピッキングを作業員が行い、その商品をAGVが梱包エリアへ自動的に搬送するタイプです。このタイプでは、作業員は自分の割り当てられたエリアから、ほとんど動くことなく作業が行えるというメリットがあります。
その1例がLocus社の製品で、同社のAGVには、タブレット端末とバーコードリーダーがついています。タブレット端末には、対象となる商品の画像、商品コード、ロケーション、ピッキングする数量が表示されるので、作業員は商品を間違えることなくピッキングできます。AGVの左右にはカメラが搭載されており、棚の下方に貼り付けられたQRコードを読み取ることで、走行ルートを把握するのです。また、作業員と動線を共有するうえでの必要性から、緊急停止装置や緊急回避システムが搭載されており、安全面での機能も充実しています。
一方、非協調型ではAGVと作業員は、動線を共有しません。ピッキングの対象となる可動式の棚をAGVが梱包エリアへ運ぶため、作業員はステーションと呼ばれる梱包スペースから動くことなくピッキング・梱包を行うことができるのです。
その1例が、Grey Orange社が開発したButlerです。Butlerは、AGV本体と可動式の棚、作業ステーションとそれらを制御するシステムで構成されています。作業員が、作業ステーションから商品を指示するだけで、その商品が搭載された可動棚を運んできてくれます。また、作業効率の最適化のために、出荷頻度の高い商品の棚を、自動的に作業ステーションの近くに配置するようにアルゴリズムが組まれています。ですから季節物の商品なども手間をかけずに、短時間でピッキングできるようになるのです。可動棚は両面から出し入れできるので、保管密度を上げることによって、保管効率を向上させることができます。さらに24時間365日稼働が可能で、空いている時間に、自動的に充電ポートへ移動し、充電することができます。作業員と動線を共有しないので、安全に作業を行えるなど、少量多品種を扱うECに特化したAGVと言えるでしょう。
このように協調型、非協調型のどちらのタイプも、アプローチは異なるものの、作業員の移動距離を極力削減して、生産性を向上することが目的となっています。こうしたAGVを導入することは、女性やシニアの労働参加を支えるとともに、省人化によって削減した労働力を、より付加価値の高い作業に振り分けることが可能であり、サービス品質の向上に繋げることにも寄与することになるのです。
省人化から無人化へ 来るべき未来の倉庫の姿
ここまでは現在の、そして将来的に確実に訪れる、深刻な人手不足への対応策としての省人化の方法論を述べてきました。では、未来の物流倉庫はどうなっていくのでしょう。現在のIT化、オートメーション化がさらに進むことは、想像に難くありません。いずれ3D解析技術による検品や、ロボットアームによる棚入れやピッキングが行われる時代は目の前に迫っていると思われます。さらに様々なタイプのマテハンが協調して作業を行うようになり、作業員がほとんど介在しない物流倉庫が登場する可能性さえあり得ます。
そしてその先を考えたとき、キーワードとなるのがAIとIoTです。AIがWMSをコントロールし、自ら作業計画を立て、マテハンに作業指示を行うほか、物量の波動の調整やスペース、作業、配送などの生産性向上に向けての改善を、継続的に行うようになっていきます。同時に、物流施設もIoTとして情報を発信し、他の物流施設と情報を交換しながら、現在すでに行われている共同保管や共同配送をさらに進化させた、リソースのシェアリングが行われることでしょう。
こうした流れは、物流施設だけにはとどまりません。例えば、工場のFA(ファクトリーオートメーション)はすでに導入されていますし、トラックの隊列走行や自動運転も、まもなく導入されます。また、港や海上コンテナ船でもすでに試みが始まっていますし、いずれは空港や飛行機も自動化・無人化される可能性があります。
トラックを例にとれば、最近ではドライバーの待機時間問題の解消のために、トラックバース誘導システムや、ドライバーを自動的にトラックバースへ誘導するシステムがリリースされています。こうしたシステムをさらに進化させれば、自動運転のトラックを、無人倉庫のAIが、自動的に指示を出し、最適なバースに誘導することも可能でしょう。
つまり、想像ではありますが、将来的には空港や港での荷の積み下ろしから倉庫への輸送、保管やピッキング、そして配送まで、物流に関わる全てが自動化する時代が到来するのです。これこそが人手不足解消の最大のストラテジーであることは言うまでもありません。
言い換えれば、現在盛んに導入が進められている倉庫内のオートメーション化は、単なる労働力不足や労働環境の改善だけではなく、近い将来に激変する物流の自動化・無人化に向けての土台作りの第一歩だと考えられます。
ただし、こうした仕組みは一足飛びにできるものではありません。当社としても、この流れに遅れることなく、その時々のニーズに即した最適なソリューションを、皆様にご提案できるよう、努力していく所存です。