耐震構造並みのコストで実現した日本初の免震大型物流施設
免震構造を採用した日本初のマルチテナント型物流施設は、2004年当時に私が設計・開発し、現在、当社が保有する「GLP大阪」です。同施設に免震構造を採用したのは、言うまでもなく日本が地震国だから。欧米の倉庫は日本の倉庫と比べ柱や梁がかなり細くできているのですが、これは地震に配慮せず、荷物等の荷重に抵抗できればよいから。つまり日本では、地震の揺れに抵抗するために太い梁や柱が必要なわけです。そこで注目されるのが免震構造。建物基礎に取り付けた免震装置は、一言で言えばゴム板と鉄板でできたショックアブソーバーなのですが、これにより地震時に発生する水平方向の力の約8割を吸収するといわれています。それだけ建物への揺れの影響が少ないわけで、それを見越して建物の柱や梁の太さを2割程度削減し施設を建設することが可能です。
一般に、「免震構造は建設費が割高」といったイメージがありますが、それは物流施設に関しては間違っています。物流施設は、建設コストで躯体にかかる割合が60%。同30%程度のオフィスビルに比べ、躯体でのコスト削減が非常に大きなメリットを生み出します。躯体でのコスト削減で免震装置を導入すれば、通常の耐震構造と同程度のコストでより地震に強い建物ができるわけです。さらに、それまでの免震構造は、頑丈な基礎を作りその上に免震装置を載せるという方法が一般的でしたが、同施設では杭に直に免震装置を載せる杭頭免震工法を採用し、基礎工事にかかるコストを抑えています。加えて躯体は、通常の鉄骨よりもたわみにくいPC(プレキャストコンクリート)構造で、こうすることで、頑丈で、耐久性に優れた上物を作ることができます。つまり、杭頭免震工法とPC構造を組み合わせることで日本初の免震大型物流施設「GLP大阪」が誕生したのです。
「人・商品・建物」3つの財産に計り知れないメリットを提供
免震構造の倉庫は、物流業界にとって計り知れないメリットをもたらします。まず第一に、建物が壊れないということ。免震構造は、計算上震度7まで耐えられるように設計されています。これは、耐震構造とは比べ物にならないほどの耐久性といえるでしょう。し かも1階から上層階まで、揺れにあまり差がありません。ですから、地価の高さからどうしても多層階にならざるを得ない国内施設にはうってつけの構造といえるのです。
次に、庫内の荷物に被害が出にくいこと。今回の震災により、多くの倉庫で大量の荷崩れが起こり、その復旧に相当な手間と時間がかかったと聞いています。しかし免震倉庫は、地震初期の速いスピードの揺れが施設内に入りにくいため荷崩れしにくいといえます。また、庫内の柱や梁が細く少ない免震倉庫は、非常に使い勝手良くできています。昨今の大型化・複雑化するマテハン構築にもフレキシブルに対応できますし、かつ、その保全も保たれるというわけです。
そして最後に、これが最も大切なことなのですが、そこで働く人々の安全性を確保できるということです。高く積まれた荷、高速で動くマテハンの地震時における危険性は想像に難くありません。建物やマテハンが壊れず、庫内で荷崩れが起こらなければ、よほどあわてない限りケガをする可能性はありません。昨今の物流施設は、荷物の保管から流通加工センターの側面が強くなり、庫内作業員の人員も増加する傾向にあります。ですからこの点は、非常に重要なポイントだと考えます。
今回の3月11日の大震災後の調査において当社の免震施設にご入居のお客様からは物的、人的被害が全くなく素晴らしい施設であるとの評価をいただき、改めて当社免震施設のメリットをお客様に実感していただくことができたと自負しております。
地域社会に貢献する大規模施設今後のニーズ拡大は必至
私がGLP大阪を開発した2004年当時、免震構造を採用した賃貸施設はありませんでしたし、また、あまり評価もされていませんでした。しかし、図らずも今回の大震災により、免震倉庫の堅牢性・優位性が実証されることになりました。現在は、大都市圏に集中していますが、今後は全国に広がっていくことが予想されます。現在、物流施設プロバイダーのリーディングカンパニーとして当社でも低コストで免震倉庫を実現できる新しい工法を考案中で、今後着工予定の物件から採用していく予定です。
こうした災害に強い大型施設が全国に増えていくことは、日本の物流システム全体や地域社会にとっても恩恵をもたらすといえます。また、個々の企業のビジネスにおいても、災害に強い拠点として免震倉庫を中心とした物流システムを構築することが、事業継続計画(BCP)を実現する上で欠かせないポイントになってくると考えます。