倉庫・物流施設に入居する企業にとって、業務を継続するのに無くてはならない重要な設備、エレベータ。その一部の機種が、今年中に使用できなくなるかもしれない、という問題が持ち上がっていることをご存知だろうか。
ある日突然、動かなくなる?エレベータの2012年問題
ある日、倉庫・物流施設の人荷用エレベータで荷物を運搬しているとガタッという音とともに急に止まってしまった。非常用ボタンで通報してなんとか脱出できたものの、修理する気配がない。物件の管理会社に問い合わせると、思わぬ答えが返ってきた。
「もう、直してもらえないんですよ。部品がないので」
このような話が、本当に起こるかもしれない。それが「エレベータ2012年問題」である。事の発端は、国内エレベータメーカー大手の三菱電機が、2008年10月(※)、製造中止からおおむね20~25年以上経過した機種について、特定部品の供給を停止することを表明。他のメーカー各社もこれに追随するかたちで、同様の発表を行った。その期限がおおむね2012年に集中していたのである。メーカーによってズレもあるが、1953年から1990年までに製造(納入)された機種が対象となっている。
(※)同社は2007年にも、同型機種製造中止から30年以上経過した機種について、部品供給を2010年9月末に停止すると発表している。
供給停止となる部品は、エレベータを駆動するための電動機や巻上機、電動機を制御するための電動発電機、運行位置を検出する階床選択機、リレーや電子機器による制御盤、電子機器による駆動装置や速度制御装置等々といった基幹部品。 つまり、それ以降に故障したエレベータは、使用不能になるということである。
主なメーカー各社のエレベータ部品供給終了状況
三菱電機 | ||||
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エレベータ機種名称 | 生産期間 | 部品供給期限(最長※) | ||
GL -RWBL | 1956~1970年 | 2012年9月 | ||
GL -DMN | 1967~1978年 | |||
GL -DMS | 1966~1978年 | |||
GD-CL | 1954~1982年 | |||
ACEE-1 | 1973~1983年 |
東芝エレベータ | |||
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対象となる機種 | 製造期間 | 対象となる部品 | 部品供給期限 |
AC1 | 1967~1974年 |
・電動機 ・階床選択機 ・制御盤 |
2014年3月31日 |
AC2 | 1967~1989年 | ||
SEシリーズ | 1970~1984年 | ||
CV10 シリース | 1976~1988年 | ||
CV20 シリース | 1975~1986年 | ||
DCGD | 1968~ 1989年 |
・電動機 |
日立製作所 | ||||
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エレベータ | 機種名称 | 生産期間(納入期間) | 部品供給期限(最長) | |
ロープ式(交流) | 乗用4人乗り(ファミリエース) | 1983~1987年 | 2012年12月 | |
荷物用(AC1、AC2、F2、SF1、ACDB型) | 1953~1990年 | 2015年12月 | ||
油圧式 | 住宅用4人乗り(ハイドロ・4〔A型後期〕) | 1980~1986年 | 2012年12月 | |
エレベータ | 機種名称 | 生産期間(納入期間) | 部品供給期限(最長) | |
ロープ式(直流) | VV、FV、TV、AV、SV、CV、AS型(ギヤレス/ギヤードタイプ) | 1957~1988年 | 2012年12月 | |
ロープ式(交流) | 乗用規格型(A型)、寝台用規格型(B型) | 1956~1978年 | ||
乗用・荷物用規格型 (P、R、B、RD型) |
72、75、79年型 | 1970~1980年 | ||
80、82年型 | 1980~1987年 | |||
油圧式 | 自動車用(F、N、K、C、H、I、I1型) | 1960~1972年 | ||
住宅用4人乗り(A型) | 1968~1979年 | |||
乗用(R、RS、RV型) | 1975~1985年 | |||
乗用・荷物用(S、H1型) | 1967~1985年 |
日本オーチス | |||
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ロープ式エレベータ | 機種名称 | 生産終了年 | 部品供給終了予定日 |
直流式 ギヤレス型 | 乗用、人荷用、荷物用(UMV,FCA) | 1981年 | 2012年12月末日 |
直流式 ギヤード型 | 乗用、人荷用、荷物用(DC-GD) | 1974年 | |
乗用規格型 (ダルジャンUMV-GD) | 1976年 | ||
交流式 ギヤード型 | 乗用、人荷、荷物用 (レディーメイド,ダルジャン,モデライズ,SPEC-Ⅳ,SPEC-V,SPEC-VⅡ,AC-1,AC-2) | 1983年 |
フジテック | ||||
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エレベータ対象機種 | 対象部品 | 最終製造年 | 部品供給終了 | |
電動発電機付 DC-GL |
・電動発電機 ・速度制御装置 トランジスタ式速度制御装置 LSR661、LSR101~103 |
1973年 | 2012年3月末 | |
電動発電機付 DC-GD |
・巻上モータ ・電動発電機 ・速度制御装置 GSR161~163 |
1980年 | ||
低速SDN |
・速度制御装置 TDC203、213、214、261 |
1978年 | ||
高速SDN |
・速度制御装置 TDC301~303A |
1978年 | ||
巻線型巻上機 使用AC機 | ・巻線型巻上モータ | 1978年 |
※ここに掲示したのは、メーカー各社のサイトで、2012年~2015年に部品供給が停止されると発表された機種です。 これ以降にも部品供給停止対象となる機種が広報されていますので、詳細はメーカー各社にお問い合わせください。
※各部品の在庫状況により供給停止が早まる可能性があるとしているメーカーもありますので、ご確認ください。
重要部品の供給を停止するメーカーの言い分
ここで理解していただきたいのは、エレベータの制御技術の変化である。おおむね1980年ころまでのエレベータは、タイマーやスイッチを配線(リレー)でつなぐ「リレー方式」を採用していた。部品の汎用性が高いことから、修理も比較的、簡単だった。
だが、地震時の最寄階への停止といった制御には問題があることから、1985年頃より導入されたのが「電子基盤方式」だ。この方式の採用により、エレベータは、それまでとは格段に違った乗り心地を手に入れることになる。だが、基盤そのものの汎用性が低く、部品供給の限界が25年程度となっている。
今回の問題は、旧方式・新方式双方の部品供給における企業努力としての限界が、2012年に重なったということも背景にある。
メーカーサイドは、旧方式に関しては、部品の製造中止に加え、現在の安全基準遵守の限界や、旧機種に対応可能なエンジニアの減少などを理由に挙げている。また、新方式に関しては、製造終了機種の電子基盤の供給限界が理由である。
さらに、部品がなくなれば、メンテナンス会社は法定点検が出来なくなることから、保守契約を解除せざるを得ず、その場合、まだ動くのに使えないといった最悪のケースもありうるのだ。
とはいえ、この2012年問題は、もちろん降って湧いたような話ではない。メーカーサイドは数年前から、該当機種納入物件ごとに、部品供給停止のインフォメーションとともに、リニューアルの提案を繰り返してきた。だが、すでに対応済みの倉庫オーナーと、重要な問題であるにもかかわらず認識が薄い倉庫オーナーとのギャップが大きいのが実情である。テナントサイドでは、つい最近まで知らなかった人がほとんどだろう。
なかなかリニューアルできないオーナーの事情
ここまでみてきたとおり、エレベータの2012年問題は、築年数の古い物件が対象であり、設備の問題だけに倉庫オーナーの責任であることは言うまでもない。オーナーとしては何らかの対応に迫られるわけで、そのもっとも適切な方法はリニューアル、つまり機種を丸ごと取り替えてしまうことだ。
一般に、エレベータは1基交換で500万円~1000万円するといわれている。通常、エレベータの法定償却耐用年数は17年とされ、メーカーサイドはこれを根拠に、耐用年数とうたっているケースが多い。しかし国土交通省が2008年に策定した「マンション長期修繕計画ガイドライン」では、目安を30年としている。そのためオーナーは、メーカーの言うLCC(リニューアル費用等のライフサイクルコスト)を切迫した問題として考慮していなかったケースが多いと思われる。たとえ数年前から告知されていたとしても、果たしてその間に予算としてストックできたかどうか疑問が残る。
しかも、古い倉庫・物流施設などでは、エレベータ以外にも修繕すべき問題をたくさん抱えていることが多い。テナントサイドにとっても、今、動いているエレベータよりも、不具合のあるシャッターを何とかして欲しいというように、目に見える修繕のほうがありがたい。
仮にリニューアルをすることになったとしても、エレベータが1基しかない倉庫なら入居テナントは業務を停止せざるを得ない。工期は短くて1週間、長期化する場合1カ月程度で、テナントが被る不利益は甚大だ。しかし、昨今の経済環境を考えれば、すぐには対処できないというのが倉庫オーナーの現実だろう。
状況が様々で把握が困難な2012年問題の実態
では、現実にどれほどの倉庫・物流施設がこの問題の対象になっているかというと、実態をつかめていないというのが現実のようだ。例えば今回、部品供給が停止される機種の生産年は、新しいものでは1990年となっている。だからといって、それ以前に竣工した倉庫・物流施設のエレベータ、すべてが対象になるわけではないのは当然のことだ。
一般に、築年数の古い倉庫・物流施設では、長年使用する中でエレベータに何らかの補修を施していることが多い。 特に、各種の部品の中でも、モーターや制御部品といった部品は心臓部であり、そこをすでに更新していれば、例えば2012年中に着床位置を制御する基盤だけ更新しておくことで、大きなコストをかけずに、もう少し使える可能性があるという。
このように、築年数で該当する倉庫・物流施設でもすでに対処済みの可能性があるが、通常は外から見て判別できないのがやっかいなところだ。もし何の対応もしていなかった場合、安全性がどこまで保てるかはわからない。 それでは、テナントサイドとしては、どのように対応すべきだろうか。
リスク回避に欠かせないチェックポイントは?
現在入居している倉庫・物流施設について、またはこれから移転先を考える際に、その倉庫・物流施設のエレベータが安全かどうか、下記の要領でチェックしてみることをお勧めする。
チェックポイント1:竣工はいつですか?
「竣工年」は耐震性能の判断の目安にもなるため(1981年施行の新耐震基準で建築されたか等)、当然注意すべき事項である。エレベータに関しては、すでに生産が終了した機種を、あえて採用するケースは少ない。したがって先にも述べたとおり、1990年以降に竣工した倉庫・物流施設ならば、おおむね安心できる。
チェックポイント2:過去にリニューアルしていますか?
仮に竣工が40年以上前だとしても、過去にエレベータをフルリニューアルしていれば、少なくとも2012年問題の対象外であることもありうる。その時期を確認しよう。
チェックポイント3:エレベータの2012年問題の該当機種ですか?
もし、リニューアルしていないのであれば、該当機種であるかどうかをはっきりと確認する必要がある。オーナーには自発的な説明責任はなくとも、問われれば明確な回答をする義務はある。
チェックポイント4:どのような措置を取ったか、あるいは取る予定ですか?
該当機種の場合、どの程度の措置をとっているか、あるいは今後、いつまでにどのような措置を取る予定かを確認し、納得できるかどうかを判断する。
これらの回答によって、入居時期、賃貸借契約の更新時期に合わせて問題回避する手段もあるだろう。 ここまで、「エレベータの2012年問題」に焦点を当てて説明してきたが、他にも倉庫・物流施設の設備で盲点となりがちな例として、非常用照明が挙げられる。バッテリーを搭載しているタイプと、蓄電池が別置きのタイプがあるが、後者の場合、蓄電池のメンテナンスをしていないケースが多い。これは先の東日本大震災で明らかになったのだが、消防点検でも、点灯するかどうかの確認はしても、稼働時間まではチェックしていないので要注意だ。
以上はほんの一例で、設備関連のチェックポイントはたくさんある。BCPの観点から言っても、入居中または入居を考えている倉庫・物流施設が、これらの問題をどの程度クリアしているか、確認しておくことをお勧めする。
※免責事項
本稿は、当然のことながら、エレベータの部品供給終了について、その全てを説明したものではありません。メーカー・機種によっても状況が異なりますので、実際の事案では、個別オーナーへの確認や専門家への相談が必要です。当社は本稿の説明についていかなる責任も負うものではありません。