射出成形・切削加工のオンデマンド製造サービスを提供するプロトラブズ。
2009年の日本進出以来、すでに2度の拡張移転を行った
同社が考える物流施設のメリットとは何か、
また同時に抱える課題とは何か。
同社社長トーマス パン氏への取材から探ってみた。
プロトラブズ 合同会社
社長
トーマス パン 氏
カスタムパーツ製造の短納期化で競争優位性を誇るプロトラブズ
顧客からインターネットを経由して送られる3D CADデータを基に、独自のデジタル・マニュファクチャリング・システムを活用し、射出成形や切削加工によるプロトタイプや小ロット生産をオンデマンドで受託製造するプロトラブズ。見積りが顧客に届くまで平均3時間、切削加工なら標準納期3日、射出成形でも標準で10日、最短ならいずれも1日という、これまでにない超短納期が同社最大の特長だ。この競争力を武器に、1999年米国ミネソタ州での創業以来、現在ではイギリス、フランス、ドイツ、イタリアなど世界8ヶ国でビジネスを展開する、急成長を遂げるグローバル企業である。
同社が日本進出を決めたのは、リーマン・ショック直後の2008年のこと。翌2009年には、神奈川県海老名市に約1,000㎡の倉庫兼作業場を確保し、わずか6名で事業をスタートさせた。海老名に拠点を構えたのは、人材確保の観点から東京や横浜からの通勤圏であることと、ファシリティコストが、都心のビジネス街ほど高額ではないこと。加えて、製造装置が設置できる工場エリアも含めて、会社全体が1つの場所に集まれるだけの広さがあることが条件だった。
「当社のビジネスモデルからみて、顧客と電話やメールで接するフロントエンドの社員と、実際の製造作業を行うバックエンドの社員がお互いに近くにいることが、時間短縮や作業効率向上の点から絶対条件なのです」。そう語るのは、同社社長で工学博士でもあるトーマス パン氏である。
事業開始3年目の2012年には、業務拡張により手狭になったことから約3,000㎡の大和市の賃貸倉庫スペースに移転。中央林
間の駅から徒歩15分ほどにある2階建の倉庫を1棟借りし、引き合いの多くなってきていた顧客向けの会議室や、必要な内装を施したオフィスも併設された。
成長速度に見合う面積とレイアウトの自由度が絶対条件
多大なコストをかけて構築した大和市の施設であったが、急速に成長を遂げる企業の宿命とでも言おうか、同拠点もわずか数年で手狭になってしまう。2015年には製造装置と人員スペースが足りなくなることが明確になり、拡張移転を決意し適切な施設を探し始め、翌2016年に座間市にある「プロロジスパーク座間2」への移転を実施した。現在は、この約9,000㎡のスペースで、オフィスも合わせて90名近い社員が働いている。
拠点構築として、今回、物流施設を選択した理由。その解答は、「成長スピード」と「スペースニーズ」とのバランスにあるとパン社長は語る。
同社は現在、国内に2,300社以上の顧客を抱え、年間4 5,000以上の切削加工パーツと1,500以上の射出成形の金型を生産できるキャパシティを備えている。一方、2010年から15年までの5年間で、同社の事業規模は10倍以上に成長。国内では同様のビジネスモデルを有する企業がほとんどないだけに、今後も成長は続くことは想像に難くない。この成長に伴い、機械設備も当然ながら増大している。同社の製品はほぼ100%自社内で製作されるため、成長に比例したスペースが必要となる。仮に自社で土地を購入して工場を建設すると、最低でも3年はかかってしまうが、同社の成長スピードを考えると、その間にも必要とされるスペースが足りなくなるのは明らかだ。従って、既存の施設にできるだけ早く入居することが、拠点構築の必要条件だといえる。
もちろん、移転先の選定には、既存の空き工場なども選択肢に入っていた。しかし、候補に挙がる1970~80年代に建てられた工場群は、その時代の企業ニーズに合った仕様に作り込まれており、また、柱が太くて大きく、スパンが狭いものがほとんど。そのため、大型装置の設置に自由度がなく、スムーズな動線通路が取れないといった不都合が生じる。納期の短さが同社の競争優位性であることを考えると、工場の効率性は極めて重要なポイントの1つ。このような工場跡では、同社の求める理想の拠点を構築することは不可能だった。
「当社では、事業の拡大が生産の効率化に支障を来さないよう、3ヶ月に1度、成長による変化に合わせた人員や機材の配置変更の検討を行っています。さらに、新設備の導入や新規事業の立ち上げを考えると、レイアウトの自由度が高いことが絶対条件なのです。また、これまで2度の移転を経験しましたが、その度に多額のコストだけでなく、多くの時間と労力が必要でした。ですが、これらは本来ならば本業にかけたいところであり、できるだけ移転はしたくないというのが本音です。その意味で、今後の成長とレイアウトの自由度を考え合わせると、必然的に余裕を持ったスペースの確保が必要でした。それを実現できる唯一の選択肢が大型物流施設だったのです。ここで働く社員のため、食堂などのファシリティ面が充実しているのも、大きなメリットといえました」(パン氏)。
もちろん、大和市の施設をそのまま残しながら、新規の施設に分散するというオプションもあった。だが、同社が目指す第四次産業革命、つまり従来の大量生産の自動化という第三次革命を超越し、フロントエンドからバックエンド(生産サイド)までが一体化したスピード感のある事業形態を実現するには、こうした集約施設が必要なのである。現在賃借している9,000㎡のうち、1,200㎡はオフィスとして作り込まれており、現在の3倍の人員が入れるスペースがある。生産スペースも同様に余裕があり、今後しばらくはスペース不足に悩まされることはないだろう。
続きを見るにはログインが必要です