物流施設のマルチユースは、単にテナントの要望だけでできるものではなく、
施設提供側であるデベロッパーの協力や対応が不可欠となる。
世界的な物流施設プロバイダー・プロロジスで
コンストラクション・マネジメントを手がける小出敦子氏に、
昨今のテナントニーズの変化とマルチユース、
それに対する同社の戦略を訊いた。
プロロジス
コンストラクション・マネジメント部
シニアマネージャー/ アーキテクト
小出 敦子氏
http://www.prologis.co.jp/
使用用途が多様化するマルチテナント型物流施設
かつて倉庫といえば、メーカーや卸企業が自社所有、あるいは1棟を1企業が専有する形で賃貸借契約を結ぶ形態が一般的だった。ところが2000年を境に大きな変化が起こる。その最大の要因となったのが、大型マルチテナント型物流施設の登場である。多層階の大型施設を、ワンフロアごと、あるいは分割し、様々な業種業態の複数企業が入居する形態は、物流適地に低コストで、しかも迅速に拠点を開設できるというメリットもあり、急速に浸透してきた。
その代表的なデベロッパーがプロロジスだ。同社は物流不動産開発のリーディング・グローバル・プロバイダーとして、米国、欧州、アジアの計19ヶ国で、約3,300棟の物流施設を展開。日本国内では、1999年の進出以来、84施設の開発実績を誇っている。 進出当初はマルチテナントとはいえ、その使用目的は従来と同様、商品を納入し、在庫として保管し、出荷するための施設という認識が一般的だった。それが大きく様変わりし始めた理由の1つに、近年大きく進展しているEコマースの成長が挙げられる。
「特にB to CのEコマースでは、受注から発送までの管理から、ピッキング、検品、梱包、ラベル貼付など、いわゆる物流加工の業務を物流施設内で行う必要があります。またEコマースに限らず、統合移転などを契機に自社のサプライチェーンを見直す中で、より合理的な流通体制が求められ、それに伴い物流以外の機能が施設内に付加されるようになってきていると思います」。そう語るのは、プロロジス コンストラクション・マネジメント部のシニアマネージャーであり、一級建築士の資格を持つ小出敦子氏だ。
Eコマースにおいて、配送のスピードはそのままビジネスの競争優位性につながる。物流拠点の重要性は言わずもがなであり、マルチテナント型物流施設が開発されるような物流適地に拠点を確保し、高機能な物流システムを駆使して最適な商流を構築することは理にかなっている。そのような物流面での進展とともに、倉庫内にオフィス機能をはじめ、商品を撮影するためのスタジオや注文を受けるコールセンター、さらには商品開発のためのラボや、例えば商材の修理やメンテナンスを行う工房までも併設し、顧客により高付加価値のサービスを提供しようというわけである。
さらに近年では、工場用途の問い合わせや、実際に活用されるケースも増えているという。工場といっても大規模なものではなく、施設の一角に、小型で最新鋭の機械を数台設置し、オフィスを併設するだけで完結できる規模のものである。大都市圏で工場を新設するのは近隣住民との兼ね合いや、コストの面から難しいのが現状だ。ましてや、オフィスビルに倉庫や工場を敷設するのは現実的ではない。その点が、物流の要となるエリアにまとまった規模のスペースをフレキシブルに確保できるマルチテナント型物流施設に、多様なニーズが集まる要因となっている。
法規制や施設のスペックなどクリアすべき課題が多いのも事実
だが、全ての施設に共通することだが、どんな企業・業種でも、望んだ倉庫を拠点にすることができるというわけではない。まず、用途地域や地区計画により、工場用途に制限がある施設もある。また、危険物の取り扱いに対する制限もある。法令に基づく規制なので、変えることはできない。加えて消防法による制限もある。本来、建築基準法や消防法においては、倉庫は保管のための施設であるため、庫内には作業員は少ないという前提で法規制が定められている。しかし、物流加工や工場用途等、想定と異なる運用にあたっては、実際の庫内作業やレイアウトを提示し、避難通路の確保や、誘導灯、消火設備の増設など、建築基準法とは別に、消防法の規制を受けることになる。事前に使い方やレイアウトを自治体などの関係先や関連省庁に提出して、判断を仰ぐ必要があるのだ。
また、既存の施設については、カスタマーの要望のスペックに応えられるかどうかが入居の第一条件となる。その代表例が電気容量と床荷重だ。電気容量でいえば、大型のマテハンや保冷庫の設置はもちろん、庫内作業員のため全館空調が必要になるなど、稼働に必要な容量が確保できるかどうか。また、スタジオやオフィスを併設する場合、コンセントや照明の増設も必要になる。床荷重についても同様で、大型で重量のある機器の設置に対応できるかどうかが、重要となる。
また、マルチテナント型施設の場合、隣や下層階のカスタマーに影響が出るような、臭いや振動、騒音が出る工場、あるいは大量の水を流す必要がある食品加工のプロセスセンターなども難しい。溶接作業のように火を取り扱うことも、安全上の観点から難しいのが現実だ。そして、入居企業にとって最大の問題は、法令のクリア以前に、リーシングを行う施設オーナーや不動産仲介業者が、対象物件の正確なスペックを把握していない場合さえ存在すること。法令はクリアできるか、必要な設備を受け入れられるかが分からなければ、移転であれ、新設であれ、その施設を候補にするかどうかの判断さえすることができない。
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