アソシエイトディレクター
三瓶 政人
シービーアールイー株式会社
インダストリアル営業本部
ロジスティクス バリュエーション サービス
シニアスペシャリスト
江田 裕高
シービーアールイー株式会社
インダストリアル営業本部
ロジスティクス バリュエーション サービス
薬機法の規制による特殊性が高い医療機器業界の物流
物流といえば、ここ数年、インターネット通販による物量の増加が大きな話題を占めているのはご存知のとおりです。しかし、それに限らず物販が行われるところには、必ず、様々な物流が介在し、なかには通常の物流施設では扱いきれない特殊な形態を必要とするものも、多数存在しています。
医療機器物流もその1つです。厚生労働省が発表する薬事工業生産動態統計調査によると、2013年の国内における医療機器の市場規模は、3 兆 2063億円とされています。同年の医薬品の6兆8940億円と比較すると約半分ですが、それでもかなり大きな市場と言えるでしょう。しかもこれは、日系企業だけのボリュームであり、外資系企業を含めると、さらに大きなマーケットとなります。加えて、世界的な高齢化に加え、新興国の医療水準の向上に伴い、さらに拡大する傾向となっています。
一口に医療機器といっても、「検査機器」「治療・手術用品」「血管内治療」「生体モニター・血圧計」「AED」「透析・血液浄化」「画像診断」「眼科」「内視鏡」「歯科」「補聴器」「眼科」「メガネ・コンタクトレンズ」「在宅機器」など、様々な分野が存在しており、総アイテム数は約30万種にのぼると言われています。電子機器メーカーや光学機器メーカーが進出しているCTやMRIなどの高額な大型精密機器から、縫合糸やガーゼ、注射針といった消耗品まで製品の形状も多岐にわたり、メーカーも大手企業から、中小企業まで、幅広い規模の企業が業界を担っています。
そしてそのすべてが、製造から物流までを含めて、医薬品と同様に通称:薬機法と呼ばれる「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」に基づく規制の中で行われています(制定当初は薬事法であったが、平成26年の改正により薬機法と表記)。その点に医療機器物流の特殊性があるわけですが、すべての品目についてご説明することはできませんので、以下、その特徴といえる部分を、ピックアップして述べていきたいと思います。
明確な規定のもとで行われる物流オペレーション
医療機器を扱う物流倉庫内の作業は、すべて、製造物の品質を管理監督するQMS(品質マネジメントシステム)に沿った形で行うことが義務付けられています。すべてのオペレーションは、文書化されたSOP(作業手順書)に従って作業を行うのが原則なのです。
近年、他の業界と同様に、3PL事業者へのアウトソーシングが可能になり、流通加工として、主に薬事ラベル印字/添付、ロット印字、添付文書封入、包装等といった製造過程の作業が委託されるようになりました。特に輸入品に関しては、国内の薬機法に基づく加工が必ず必要になるため、委託の割合が高くなっているようです。
薬機法においては、販売可能となった完成品に至る前段階の製品は、すべてが製造過程のモノと位置付けられ、物理的に別々のスペースに保管しなければなりません。流通加工の作業を行う場合、1つの作業机で違う作業は行えません。まずは必要な材料を必要な数だけ用意することで、余分な材料が紛れ込まないようにし、終了時はすべてがきれいに使われたことを確認してからでないと、次の材料は入れてはいけないことが文書化されています。一般の物流施設なら、簡単な作業であれば新人の庫内オペレーターに口頭で説明するだけで、すぐに作業が可能となることもあるでしょう。しかし、医療機器においては、作業手順の研修が必要となります。また、SOPに改変があれば、古いものはすべて破棄し、新たに研修を行うことが求められるのです。
さらに、各作業が終了すると、作業責任者に加え、もう1名がそのつど確認を行い、書面にサインをして保存するのが原則です。これは、間違った工程を踏んだ商品を市場に出さないためだけでなく、行政上、およびISOにおける監査の観点でも重要とされています(ISO=ISO 13485:品質/有効性/安全性の確保された医療機器/薬品の継続的供給を目的とした品質管理システムの世界標準規格)。
医療機器に属する製品には、トレーサビリティーも重要です。万一、不具合のある商品があった場合、その商品を個体、あるいはロット単位で確実に回収する必要があるからです。そこで、個体を確実に識別するために、アイテム自体のコードとロット番号、シリアルナンバー、製造年月日および使用期限が入っている3部構成のバーコードの使用が一般的に行われています。
こうして、ようやく販売過程に送れる商品が完成するわけですが、出荷判定については、あくまでもメーカーが全責任を持って実施することになります。そのため、3PL事業者に委託する場合でも、倉庫内にQC(Quality Control)機能を持たせるために、倉庫側で製造業のライセンスを取得するか、メーカーの責任者が常駐することになります。
そしていよいよ、出荷できる状態になるわけですが、実際の作業現場においては、作業員や管理者はそれぞれ権限が与えられていても、1人の人間に入庫から出庫までのすべての工程における権限を与えることはありません。これは不正を防ぐための措置ですが、このために入庫、出庫のどちらかが忙しくても、もう一方が手伝うことができないという不自由さが存在します。
ちなみに、医療機器物流の現場における出荷作業は、EC通販の物流センターなどと同様、人海戦術に頼る企業が多く、マテハンによる省人化は、あまり進んでいません。その理由の1つは、ロボットの品質や性能が担保されていないことにあります。1台数億円もする医療機器を、万一にも倒して破損した場合のリスクが高い、あるいは故障で止まっても、作業が滞らないという保証がないことです。そしてもう1つは、複数オーダーを同時にピッキングしてはいけないという規則があるからです。通常のECならトータルピックでまとめてピッキングしますが、医療機器ではこれができないため、仮に1,000坪程度のセンターであれば、50人くらいでピッキングしているというのが実情です。
CBREには、QMSを理解したコンサルタントがおり、品質とコストのバランスを踏まえた業務委託先の選定の実施や、オペレーション構築のサポートも行っています。遵法性が求められ、専門性が高く複雑な医療機器物流の構築は大変な手間がかかります。顧客サービスの競争が激しい環境下で、本業に専念するための物流構築に関し、お気軽にご相談いただきたいと考えています。
医療機器倉庫オペレーション例