「物流の2024年問題」を軽んじる人たち
「『物流の2024年問題』って、ホントに"問題"になるんですかね?」
物流ジャーナリストを表看板としている筆者は、仕事柄、最近このような質問を受けることが多くなってきました。
疑問はもっともだと思います。
「物流の2024年問題」のポイントである、トラックドライバーの年間時間外労働時間上限規制(960時間)を破ったとしても、取り締まる側である役人の数は圧倒的に少なく、結果として、上限規制を超えた長時間労働を続けるトラックドライバー(≒「続けさせる」運送会社)は、2024年4月以降も残るでしょう。
ただしこういう方は、ペナルティの内容をきちんと理解していないのかもしれません。
- 「6か月以下の懲役」または「30万円以下の罰金」
- 企業名公表
- (悪質な運送会社に対しては)運輸局から事業停止などの、より厳しい行政処分が課される可能性もある。
先日(2023年6月2日)、政府は「物流革新に向けた政策パッケージ」を発表しました。この発表内容を考えると、年間時間外労働時間の上限規制だけでなく、また運送会社だけでなく、荷主企業に対しても、物流の効率化を阻むような行為に対しては、新たなペナルティ制度が今後法制化される可能性があります。
ちなみに、法制化されるペナルティ対象行為として、可能性が高いのは、「待機時間の削減に取り組まない」「価格交渉に応じない」「多重下請構造の放置」などです。
「物流の2024年問題」が問題とする根本的な課題は、人手不足です。
そもそも、少子高齢化が進む日本において、就労可能人口の減少は、産業界全体の課題です。
当然、物流不動産ビジネスにも無関係ではいられません。
物流不動産ビジネスと、「物流の2024年問題」
人手不足が深刻化しているのは、トラックドライバーだけでなく、倉庫作業員も同様です。
だからこそ、倉庫内業務の省人化に貢献できる、自動倉庫や物流ロボットが注目されています。
ただし、自動倉庫や物流ロボットなどでガチガチに固めた省人化対策が、すべての現場において有効かつ現実的な選択肢になり得るかと言うと、それは現実的ではないでしょう。
当然ながら自動倉庫や物流ロボットの導入にはコストが掛かります。
さらに言えば、自動倉庫・物流ロボットを導入した現場は、程度の差こそあれ、業務プロセスの柔軟性を失います。
残念ながら、自動倉庫・物流ロボットがマッチしない現場もある以上、倉庫内業務の省人化を自動倉庫・物流ロボットだけに頼るのは現実的な選択とは言えません。
だからこそ、「物流の2024年問題」に対処するためには、製造拠点と物流拠点の立地選定を含めたサプライチェーンの見直しを行い、ヒトとモノの最適化を図る必要があるのです。
最近、物流施設内に製造拠点を設ける動きが出始めているのも、物流拠点と製造拠点を近接させることで、無理と無駄を減らし、サプライチェーンの最適化を図ろうという動きなのでしょう。
「今までの常識を疑う」、物流施設の好立地を再検証する
物流施設の人気立地である、厚木IC(神奈川県厚木市)を起点として、主要高速道方面への4時間到達地点をマッピングした。
物流施設の人気立地である、久喜IC(埼玉県久喜市)を起点として、主要高速道方面への4時間到達地点をマッピングした。
上記2つのマップは、物流施設の立地として以前から人気の高い神奈川県厚木市付近と、埼玉県久喜市付近を起点として、クルマによる4時間到達地点をマッピングしたものです。
4時間到達地点を比較するのは、いわゆる430問題を考えてのことです。
トラックドライバーは、運転4時間ごとに30分の休憩を取ることを義務付けられています。
- 4時間で到達できる地点を、1人のドライバーによる運行における最遠地点とする
- 4時間で到達できる地点に中継拠点を設ける
このような運行方法が、430問題に代表されるトラックドライバーの労務コンプライアンスを遵守する上で有効であることから、近年、物流施設の立地条件として、4時間到達圏内が注目されています。
こういう観点で物流施設の立地を考えると、今までそれほど注目が集まってこなかった場所が、実は物流施設の好立地であることが見えてきます。
近年、物流施設の立地として注目されはじめている、静岡IC(静岡県静岡市)を起点として、主要高速道方面への4時間到達地点をマッピングした。
富山IC(富山県富山市)を起点として、主要高速道方面への4時間到達地点をマッピングした。
一例として、静岡市と富山市を挙げました。
こと東名阪への輸送を考えたとき、これまで物流施設の好立地とされてきた厚木・久喜と比べても、静岡・富山は遜色のない4時間到達圏内を持つことが分かります。
特に富山は、交通渋滞が発生する都市部を避けて北側から都市部にアプローチできるので、4時間到達圏内がとても広いです。同じようなことは、例えば九州で言えば、熊本市も該当します。
もちろん、物流施設における立地の良し悪しとは、4時間到達圏内だけで評価されるものではありません。近年注目を集める千葉県印西市 は、4時間到達圏内で考えれば不利な面もありますが、通信インフラが充実していることから、Googleをはじめとするデータセンターが次々と竣工しています。そのような事情もあり、物流施設の立地としても注目されています。
とは言え、物流不動産ビジネスにとって、当然ながら立地は最重要ポイントの1つです。だからこそ、「物流の2024年問題」を筆頭とする物流クライシス全体を見据えたとき、今までとは違う観点からの戦術・戦略が必要となるのではないでしょうか?
率直に言えば、物流施設の立地選定に関しては、投資家の力学に引っ張られることもあるでしょう。投資の専門家ではあっても、物流に関しては知識の浅い投資家を説得することを考えれば、「これまでの好立地」に物流施設を建築するほうが手間がかからないかもしれません。
しかし、物流クライシスの影響も考慮するのであれば、物流不動産ビジネスにおいても、「これからの好立地」をきちんと投資家に説明し、納得してもらうことも、今後大切になっていくのではないでしょうか。
物流クライシスは、物流に関わるすべてのプレイヤーが、全方位で取り組むべき強大な課題です。だからこそ、物流不動産ビジネスも無関係ではいられないし、いてはならないと考えます。
ただし一方で、物流施設の立地については4時間到達圏内という、いわば「クルマの都合」だけではなく、「物流施設を移転した場合、5~10年後も庫内作業員を継続確保できるか?」、という「人の都合」に対する考慮も必要になります。
このポイントは、次話で考えましょう。
物流ジャーナリスト 坂田良平