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海外政府系ファンドの動向

都市別特集

2008年12月7日

国内不動産市場への資金流入に
期待が高まる海外政府系ファンドの動向

株式会社野村総合研究所
事業戦略コンサルティング一部
副主任研究員 谷山 智彦

サブプライム問題を機に脚光を浴びる政府系ファンド

このところ、SWF(ソブリン・ウェルス・ファンド)あるいは国富ファンドとも呼ばれる「政府系ファンド」に注目が集まっています。政府系ファンドが一躍、脚光を浴びたのが、2007年夏に表面化したサブプライム問題に絡んで、資金難に陥ったシティ・グループやモルガン・スタンレーをはじめとする欧米の金融機関に対して、中東やアジアの政府系ファンドが巨額の資金投資をしたことでした。

ですが、政府系ファンドは今に始まったものではありません。古くは1950年代に設立されたクウェート投資庁やサウジアラビア通貨庁、さらに1970年代に設立されたアブダビ投資庁など、いわゆる「オイルショック」を契機に作られたものもあります。一方、中国投資有限責任公司やロシアやドバイの政府系ファンドのように、ここ2~3年の経済構造の変化によって登場したものもあり、政府系ファンドは、設立時期からこの新旧2種類に大別されるといえます。

今日、注目されている政府系ファンドの多くは新興国のものですが、これらが誕生した経済背景としては、2つの大きな要因が挙げられます。第一の要因はサブプライム問題を機に脚光を浴びる政府系ファンド石油をはじめとする資源価格が上昇したことで、資源国政府の収益が増えたこと。そして第二の要因は、外貨準備の膨張です。経済のグローバル化が進み、生産と消費、原材料供給の拠点の分化が進む中で、新興国の貿易活動の拡大に伴い外貨準備が増えたことです。これらの要因により蓄えられた資金を運用しようとするのは当然のことであり、そのための窓口として政府系ファンドが続々と台頭し、金融市場で大きな存在となっているのです。

では、政府系ファンドとはどんなファンドなのでしょうか。ヘッジファンドやプライベート・エクイティ・ファンドという用語は、投資戦略や投資対象をその名称として用いています。しかし、政府系ファンドとは政府が関与する資産運用組織や基金の総称として用いられており、投資戦略や投資対象を表すものではありません。したがって、一言で政府系ファンドといっても、あくまで民間のファンドとの対比の意味に過ぎず、その投資対象や手法は多岐に渡ります。

その他の特徴としては、外貨への資金配分が高い、リスク許容度が高い、長期投資であることなどが挙げられます。以前は透明性が低いとの指摘がありましたが、最近になってIMFが行動規範を明示し、各政府系ファンドもこれに応じて情報公開を進めたことで、まだ不十分ではありますが、その実態が徐々に明らかになってきているところです。

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財源ごとに分類される4種の政府系ファンド

政府系ファンドは、その財源によりコモディティ、外貨準備、年金資金、財政余剰金の大きく4 つに分類されます。以下、それぞれの特徴を簡単にご説明しましょう。

コモディティとは、エネルギー資源や非鉄金属、農作物などの一次産品のことを指します。その代表である石油を例に取れば、原油価格が変動すると、そのまま国家収入が変動します。しかもいずれは枯渇する資源ですから、中東産油国の政府系ファンドでは、国家収入の安定化と次世代に向けたリターンを獲得したいと考えています。また、コモディティが豊富な国々では、いわゆる「資源の呪い」あるいは「オランダ病」と呼ばれるような、その資源への依存度が高いために他の産業が育ちにくいという傾向が見られます。そこで、これらの国の政府系ファンドは、国家収入の安定のために標準的な分散されたポートフォリオ、特にコモディティ以外の株式や債券、不動産のような長期配当が見込める資産クラスに投資していますコモディティ投資は通常、オルタナティブ(代替的)投資と呼ばれますが、コモディティ主体の国全体から見れば、他の産業の株式や債券、不動産等がまさにオルタナティブなのです。

外貨準備を財源とするのは、工業製品の輸出に強い国々に見られる政府系ファンドで、代表例として中国が挙げられます。こうしたファンドは外貨の下落と借り入れの利払いという2 つのリスクを抱えているため、それをカバーできる利益が得られるミドルリスク・ミドルリターンの運用を目指しているのが特徴です。また、外貨準備は緊急の為替介入など、いつ必要になるかわからないため、すぐに現金化できるような流動性の高い資産に投資する傾向が強く、そのため、不動産のような長期投資は一般的には少ないといえます。また、それぞれの国にはそれぞれの外貨準備政策があります。そのため、例えば外貨準備を米ドル主体で持っている政府がそれを財源とした政府系ファンドを設立した場合、米ドル以外に替えて投資することは、この外貨準備政策と矛盾します。このように、それぞれの国の政策にあった運用通貨を用いなければならないという制約があるため、運用が比較的難しいという側面があるのです。

年金資金を財源とする場合、政府系ファンドと呼ばないケースもあるので一概には言えませんが、一般の年金基金と同様、将来の支払い債務を見越して、より高いリターンを求める傾向があります。反面、他の財源を基盤とするファンドと比較して安定性を求めるため、過度のリスクはとらないという側面もあります。実際の運用に関しては、資産クラスの投資対象としては株や債券がほとんどのファンドもあれば、オルタナティブ投資の比重が高いファンドもあるなど、個々のファンドマネジャーの考え方次第といえるでしょう。ただし、ここ最近の動きで共通しているのは、債券から株式に変化するなど、リスクウェイトの高い資産にアセットアロケーションを替えていくという動きが、全体の傾向として見られています。

財政余剰金を財源とするファンドは、もともと政府保有の株式や国営企業の民営化、つまりは上場益や株式の売却益など、急激な財政黒字の上昇といった偶発的な収入を財源にしています。そのため、シンガポールやドバイ、マレーシアなどが知られていますが、他の政府系ファンドと比較して、数は少ないといえます。もともと偶発的な資金を原資としているので、リスクの許容度が高いのが特徴で、そのため国家の抱える課題を解決するため政策や事業、あるいはプライベート・エクイティ・ファンドのような企業の買収などの積極的な投資が多く、一番戦略的で、かつ注目を集めがちな投資が行われているといえるでしょう。

主な政府系ファンド一覧

主な政府系ファンド一覧

不動産市場への投資に向くファンド・向かないファンド

政府系ファンドの不動産全般への投資に目を移すと、実物不動産かどうかを別にすれば、ポートフォリオの運用の一環として以前から行われてきました。資産運用の観点から見れば当然ですが、ただし割合としては10%未満がほとんどで、平均すると5~6%程度といったところでしょう。一般のファンドのポートフォリオと同程度ですが、なかにはシンガポールのGIC(シンガポール政府投資公社)やテマセク・ホールディングス、クウェート投資庁のように不動産に積極的なファンドも存在します。

運用サイドから見た不動産投資の最大の魅力は、分散効果がもっとも大きいということです。特に政府系ファンドは15年以上の超長期の投資を見据えることが可能です。その意味で、長期的に安定したインカムゲインを狙え、かつインフレのヘッジも利く不動産投資は、政府系ファンドの投資スタンスにフィットした、魅力的な金融商品といえるでしょう。

ただし、REITについては株式とほぼ同様のものとして考える傾向が強く、政府系ファンドによる不動産投資としては、プライベート・ファンドや実物不動産への投資が多いといえます。これは一部の機関投資家でも同様ですが、REITは不動産という資産クラスではなく、株式として扱われているのが実態でしょう。

また、政府系ファンドによる不動産への大型投資もあり、日本国内を見ても1999年の汐留再開発地域や04年の品川シーサイド・イーストタワー、ウエストタワー、2008年2月のウェスティンホテル東京など、いくつもの例があります。総体的に見ると主要都市のAクラスビルが対象ですが、ファンドオブファンズを通じて購入する場合であれば、リターンとリスクが合えば、地方の中規模の物件も対象となっています。

財源別にファンドの傾向を見ると、一般論としてですが、外貨準備や年金の場合、ポートフォリオ分散の考え方が標準的なので、不動産に対して積極的な投資はしにくいといえます。特に外貨準備は資金の流動性が重要なので、投資が難しいでしょう。一方、コモディティや財政余剰金は、もともとポートフォリオが偏っていたり、戦略的な産業への投資をするので、こちらの方が不動産投資に合っているといえます。

また、不動産投資の欠点として、個別性が高い、流動性が低い、取引コストが高いなどの点が挙げられます。特に、不動産の海外投資においては、実物不動産であれば現地とのコネクションが必須となります。加えて、不動産に精通したファンドマネジャーやコンサルタントが少ないこともあり、単に不動産投資のウェートを増やしたいといってもなかなか難しい状況もあるのです。

日本の不動産市場への投資拡大の可能性が高まる

今回の金融危機の教訓として、一部の政府系ファンドでは、これまではすべて外国で投資してきましたが、国内からの反発が強く、自国の株を支えるために、今後は積極的な海外投資は控えるという局面も考えられます。この反面、多くの政府系ファンドでは、これまで米国に偏りすぎていた投資を、今後、長い目で見たときに潜在性のある新興国やアジアに分散投資しようというスタンスはより強まると思われます。その場合、相対的に規模の大きい日本市場に流入する資金が増えていく可能性も十分にあるというわけです。

日本の不動産投資市場は、一般にこれまではイールドギャップが大きく、高いリターンが期待できたことで注目されてきましたが、レバレッジの観点でいえば他の国も金利を下げているので、以前ほど魅力のある投資対象ではないというのが現状でしょう。ただし、分散と長期運用を目的とする政府系ファンドにとって、世界第2位の経済規模を持つ日本の不動産というアセットクラスに投資するのは、ある意味、当然だといえます。実物不動産が「投げ売り」ともいえる状態にある今日、資金に余裕のある政府系ファンドは絶好の買い時と見ているということも考えられます。従来どおりの継続的なマネーフローは十分にあり得るというわけです。

いずれにしても、現存するさまざまなファンドのなかで、政府系ファンドの割合は極めて大きいというわけではないため、打ち出の小槌的な捉え方ではなく、純粋に大きなひとつの機関投資家と考えたほうが、彼らの実態を掴みやすいといえるでしょう。

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