一般的な賃貸借契約の場合、オーナーとテナントの2者間での契約締結になりますが、居抜き移転の場合は、退去テナントとオーナー、そして後継テナントの3者が関係者となり、全社が同意することが求められます。加えて、残されるのは床や壁などの内装だけでなく、作り込んだパーテーションや机や椅子などの什器、およびそれらのレイアウトを含むものまで、居抜き移転には様々なバリエーションが存在しています。そのため、通常よりも難しい点があるのは事実ですが、それだけに3者が合意できれば、すべての人々に大きなメリットが生じる、いわゆる「三方良し」となるわけです。ここでは、それぞれのメリット・デメリットを詳しく見ていきましょう。
まず退去を考えるテナント企業にとって、居抜きで後継テナントが見つかった時の最大のメリットは原状回復費用の削減です。一般に、入居時の内装の作り込みには、ブランディング重視でコストを惜しまない企業が多いのですが、退去時の原状回復工事にかかる費用のことを、最初から考慮している企業は少ないのが現状です。ですが、例えばある企業では300坪超の規模で、約5000万円の原状回復工事の見積もりが出てきました。1坪当たり16万円ほどの計算になります。300坪と言えばオフィスとして決して大きなサイズではありませんし、これが500坪、1,000坪になれば1億円を超える経費が必要になるのです。この部分が大きく削減できる可能性があるのですから、試してみない手はないでしょう。
また通常、原状回復工事には300坪クラスのオフィスで3ヶ月程度の期間を要しますが、この期間も当然、契約期間内なので賃料が発生します。これが、そのまま引き継がれるのであれば、ぎりぎりまで使用し、退去時期を延ばせる(移転であれば、次のオフィスの契約開始を遅らせられる)わけです。
什器備品に関しては、例えば机や椅子などは移転先に持っていったり、転売したりすることも可能ですから、居抜きで残していくことはあまりありません。ただし、作り込んだパーテーションなどは他での流用は難しいため、そのまま残すことが多くなるでしょう。これらの撤去や廃棄、運搬にかかる費用もバカになりません。これはコストの問題だけでなく、環境にも優しい配慮と言えるでしょう。
もう一つ大きなメリットとなり得るのが、定借における残存期間短縮の可能性です。定借の場合、例えば規模を縮小、あるいは逆に狭くなって移転しようと思っても、契約期間中は賃料を払い続けなければなりません。ですが、後継テナントを見つけ、オーナーからの了解を得られれば、原状回復工事のコストはもちろん、残存期間分の支払いもする必要がなくなります。
一方、デメリットとして挙げられるのは、後継テナントとのマッチングの実現性が低めであることくらいです。その原因は、マーケットが拡大しているとはいえ、まだまだ社会全体における認知度が低いため、積極的に居抜きでの入居を希望する企業が少ないことと、募集できる期間が極めて短いことなどです。言い換えれば退去テナントにとっては、ほとんどメリットしかないわけですから、チャレンジして損はないでしょう。
内装工事費の削減や入居準備の短縮、後継テナントにとっても多彩なメリット
移転先のビルに居抜きで入居する際のメリットは、初期費用、および契約から入居までの期間を大幅に抑えられることです。先にも触れたとおり、居抜き物件では前の内装がそのまま残されています。ですから、そのデザインが気に入れば、内装工事費ゼロで移転できてしまいます。仮に一部に手を加えるとしても、何もないところから始めるよりも廉価なのは当然。工事期間も大幅に短縮できますから、そのままの内装でよければ前テナントが退去した後すぐに移転可能な点も大きなメリットです。また、パーテーションなどの購入費用も削減できるほか、机や椅子などの什器類を引き継ぐこともケースによっては可能です。
また、こうしたパーテーションや什器がそろっている状態のオフィスを内見できることも、実は大きなメリットとなります。例えば、現状50坪から100坪のオフィスに移転することを想像してみてください。何もない空間では広く見えても、実際に什器を並べると、こんなにも狭いのかという方がよくいらっしゃいます。図面と照らし合わせながら、リアルな空間を見ることができるのは、移転先オフィスの規模感を移転前に確認するためにも重要なポイントでしょう。
将来的な退去時の原状回復費用が把握しやすいのもメリットです。実際のオフィスがない状態では、原状回復工事費の見積もりは出しようがありません。その分、できあがった内装があれば、退去時にいくらぐらいかかるかが把握できる。もっと言うと、現在のテナントが工事費用をすでに見積もっているケースがほとんどです。ですから、入居するか否かの検討がしやすく、意思決定のスピードを上げることができるわけです。
これに対してデメリットですが、まずは気に入る物件があるかどうか。普通のオフィスなら立地やサイズ感、ビルグレードや設備など、様々な要素を検討して探すことができますし、コストをかければ自分たちが希望するブランディングの内装が可能です。しかし、居抜き物件はいわゆる一点モノなので、好みに合った条件のオフィスがあるとは限りません。また、好みに近い物件があっても検討期間に限りがあるため、短い時間で判断しなければならないのです。
また、数多いケースというわけではありませんが、机や椅子などの什器を有償譲渡したいと退去テナントが希望した時、その会計処理や税務処理の煩雑さが加わることもあります。

