アフターコロナに求められる 未来の「働く場」「働き方」とは?
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、私たちは今までとは全く違う働き方をせざるを得なくなりました。特にオフィスワークに関しては、これまで働く場であった「オフィス」の不要論がメディアに取り上げられるなど、センセーショナルな事例が注目を浴びています。このコロナ禍を機に、前代未聞のパラダイムシフトが起こるかと不安と期待を持った方も多くいらっしゃるでしょう。ところが、日々現場で実際のプロジェクトを通して企業様のご様子を身近に感じる私たちが目にしているのは、コロナ禍前から始まっていた柔軟な働き方の加速化です。
私が所属するワークプレイスストラテジーチームでは、企業にとってよりパフォーマンスの高いワークプレイスのあり方を提案しています。特にこれまで、柔軟なワークプレイスを通して、生産性向上と創造性高い働き方を可能にする、ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)を提案するケースが多くありました。将来は今まで以上に、柔軟な働き方が求められる時代になることは間違いありません。そこで私たちが考える次世代の働き方「ボーダレスワーク」をご紹介します。場所の枠にとらわれず、リアルとバーチャルの枠もないシームレスな環境で、私たちは自分らしい働き方をクリエイトする時代が来るのです。
このボーダレスワークという新たな働き方を実践する場として、私たちはまず、四つのワークロケーションを定義しました。一つは会社のオフィス(Office)、次にワーカーの自宅(Home)、そしてサテライトやコワーキングスペース(Remote)、最後に出張・ワーケーション(Trip)です。この四つの場を適宜使い分ければ、従来のオフィスにとらわれず、多様な価値観や生活スタイルに合わせてワーカーが働くことができ、未来の働き方になっていくのではと考えました。そしてこの四つのワークロケーションを使い分ける際の具体的なバランスについても、次の4パターンを想定しています。
はじめに最もノーマルな働き方として、オフィスと自宅を中心に活動し、気分転換でリモートやトリップを取り入れる「バランス型」。次に外部とのコミュニケーションやコラボレーションが主な活動で、会社とのやりとりをリモートで行う「アクティブ型」。三つ目が育児や介護などホームライフとバランスを取りながら仕事をする「ホーム型」。四つ目が「ハイパーフレキシブル型」で、海外などの普段と異なる環境に長期滞在し、学びや刺激を受けながら仕事をするというものです。
これらの働き方を前提に、例えばある年の1年間はバランス型で働く、その次の年はアクティブ型で、さらには4、5年に1回はハイパーフレキシブル型を選択するなど、選択の仕方にもフレキシビリティがあるとよいと思います。また、そうすることでワーカーたちが個々の事情によってキャリアを諦めたり、転職せざるを得 ないといった状況も回避できる可能性があるかと思います。「ボーダレスワーク」は主体性を持った自律した従業員を育てます。ワーカー自身が働き方を選択できる企業であれば、会社に対してのエンゲージメントも、自ずと高まっていくでしょう。
ボーダレスワークの実現に向け、 取り組むべき四つのステップ
未来の働き方「ボーダレスワーク」の実現には、多面的な対応が必要です。まずは、ワーカー自身が最適な働き方と働く場を選び、使いこなすような主体性を持つことが第1のステップになります。第2のステップは、多様化した個々の働き方を実際に企業がどうマネージメントしていくか。ワーカー一人ひとりに働き方の権限を与えて委ねる場合もあれば、会社が掲げるKPIをベースにしたり、チームの一体感を醸成するためにオフィスに集まる日を設定するなど、企業のマネジメントスタイルが問われる部分だと思います。
そして第3のステップは、働く場所の選択肢を増やす一方で、ワーカーがわざわざ足を運んで来たくなるようなオフィスをつくることです。未来の働き方はオールオフィスでも、オールリモートでもなく、ハイブリッド型になります。オフィスのない企業は、家のない家族と同じ。企業という組織に属している限り、社員が集まり 切磋琢磨する場所を持っているべきでしょう。オフィスではフェイストゥフェイスの議論があり、仲間にサポートしてもらえたり、偶発的な対話から情報交換ができたりと、一人で働いていては得られないものが沢山あります。その場ならではの有意義な体験や会社を誇りに思えるシーンも生まれます。さらに、ワーカーを様々な面で支える「ホスピタリティサービス」の提供が重要になります。例えば進化し続けるITツールをワーカーが使いこなすにはサポートが必要でしょう。オープンイノベーションなど新しい座組でプロジェクトを進める場合に、密な法務のアドバイスが必要な場面もあるでしょう。日々モバイルに働いている時、何かと細かい困りごとが発生した時に助けてくれるコンシェルジュをイメージしてください。このようなサポートが、進化する世の中に後れを取らない生産性の高いワーカーを増やすでしょう。このように、リモートワークのメリットを生かしながら、社員を魅了するオフィスのあり方を、より戦略的に構築していくことが非常に重要です。
最後に第4のステップですが、全社員が一丸となって未来のワークプレイスを築いていくということです。こうした変革は担当者のみが担うものではなく、新しい取り組みやカルチャーの醸成に向けてワーカーも自覚的になり、組織が一体となって新たなワークプレイスを育んでいくべきだと考えます。そのなかでは、変革を旗振りする役割のマネージャーの存在も、より一層重要なものになるのではないかと思われます。
ボーダレスワークを 意義あるものにするために
このボーダレスワークを実現し、進化する社会に対応していくには、働く場や働き方を選べるフレキシブルな組織体制や制度をはじめ、離れた場所で働くワーカーたちを支えるテクノロジーツールが必要になります。一方で、自律的に生産性高く働くことが求められるようになるワーカーの立場では、意識改革や新しいスキルの習得が必須となり、自身で学び続けるラーニングマインドや、新たな課題を発見したり創造力の種となるアートシンキング、さらにはオンライン上で人とのつながりや生産性を上げるためのバーチャルリテラシーが必要になるでしょう。また、働く場所と働き方が多様化するにつれ、それぞれのワーカーの価値観や人生経験の違いも明確になってくるかと思います。そのなかでは、お互いの違いを理解し、より意識的に相手の立場になって物事を考えるなど、情緒を理解し、思考や行動に応用していく力、言うなればエモーショナルインテリジェンスとも呼べる力が不可欠になります。
このほかにも、昨今、企業が重視してきたウェルビーイングやサスティナビリティに関して、ボーダレスワークが定義するそれぞれのワークロケーションにおいて具体的に実践していくことが重要です。心身ともに健やかな状態で働いてもらう環境づくりでは、人間工学に基づいて開発された家具や照明などのファシリティのほか、アフターコロナでは換気や空気の質についてモニタリングできることが求められるかもしれません。また、それぞれの場所で働くワーカーたちが、会社や社会の一員として健全な思いで仕事に取り組めるような仕組みをつくったり、定期的なストレスチェックの実施なども、企業に求められるケアかと思います。
一方のサスティナビリティの面は、SDGsにおいて17の項目が掲げられており、ウェルビーイングをはじめ、多様な働き方やテクノロジーを活用したペーパーレス化、省エネなど、ボーダレスワークの多くの部分がすでに該当しているため、この新しい働き方の実践そのものがサスティナビリティへの貢献につながると考えます。
いま一度、働く場と働き方を 問い直すべき時代
アフターコロナのオフィスはどうなっていくのか、働く場や働き方のニューノーマルについて相談を受ける機会が増えました。ボーダレスワークはその相談に対する一つの提案ではあります。しかし大切なのは「どうなるの?」ではなく、クライアント企業やワーカー一人ひとりの「どうしたいか」なのです。未来を新たにつくるのは私たち一人ひとりだと言っても過言ではありません。オフィスに関しても、どんな場所や空間が必要で、そこでどのように働きたいのか、個人個人がいま一度自身にしっかりと問いかけ、その人らしく活動できるワークプレイスを築いていくことが大切であり、その環境を整えられた企業が将来飛躍すると考えています。そのために私たちは様々な提案と支援サービスを提供してまいります。